グリーンアイ
共同スペースにいた、もう1人の男性はタブレットに集中しているせいか、神楽に気づく様子が無かった。
別に声をかける必要性も感じていなかったので彼が座っているソファーの奥にあるパソコンで時間でも潰そうと、すぐ脇をすり抜けようとする。
「人は第1印象によって今後の人間関係が大幅に変わる。君は初対面のこれから少なくとも関係性を持つ僕にあいさつをしなくてもいいのですか?」
タブレットから目を離すことなく男性が唐突に喋り出した。
「いえ、仕事中ならお邪魔してはいけないと思いまして…。」
内心その言葉は自分に向けろと、言いたくなるのを抑えて言い訳じみたことを言う。
「ふむ、ならば僕にも非はあります。これは失礼しました、僕は秋月 光。以後よろしく。」
ここに来てようやく彼が顔を上げる。
うつむいていたときは分からなかったが、彼の目はかなり鮮やかなグリーンだった。
「俺は神楽 達海です。よろしくお願いします。」
ハーフなのかという疑問は口にせず、当たり障りのない挨拶をかわす。
「…目のことだが、君が僕らと同じアパートに住むと言うなら話しておいた方が良いでしょう。」
神楽の疑問を知ってか知らずか、秋月はとつとつと話し出した。
「まず、この目は外国人の血によるものではないです。単なる生まれつき。そして、この目が関係してかしないでか、僕は時たま未来を見る。恐ろしく正確なね。ここにいるのはそう言うことです。込み入ったことはご勘弁願いたい、まだ君はここに暮らすか決めかねているようなので。」
秋月は最後に肩をすくめると話は終わったとばかりに再びタブレットに目を落とす。
ふと携帯で時間を見ると、もう10時を回ろうかという時間だった。
結局神楽はたいして共同スペースを見学することなく自室へ戻ってきてしまった。
なんだか疲労感を感じた彼は今日届いたばかりのベッドに身を放り投げ、少々長めのため息をつく。
5分ほどそのままでいた彼だが何を思ったかいきなり起き上がると、キッチンへ向かいコップに1杯の水をくむ。
机に置かれた水は何もおかしなところのないただの水道水だ。
が、その水 を彼が意志を持って見つめる、それだけで変化が起こる。
コップに入っていた水は重力を無視し、自ら意志を持ったかのようにうねうねとコップの外へと出ていく。
コップの外へ出きったみずは4匹の美しい蝶になり暫く宙を羽ばたく。
その様子を見ながら神楽は考え事をしていたがやがて微かに首を横に振る。
すると、それを合図にするように蝶が一斉に凍りつく。
凍ったそれはその後も冷やされ続け、最後にはパキンッという音と共に粉となってキラキラと消えた。