双子
「短すぎる。」
期限1週間はアパートでの生活を保証された。
ここひまわりハイツで自分に割り当てられた部屋は、1LDKで、1人で暮らすには十分な---かなりゆったりした---部屋だった。双子
バルコニーも付いた、日当たり良好で壁や床にも汚れ1つない部屋。
低価格で黄桜高校からもチャリ10分程度の距離。
おそらくこんなに良い物件もはもう巡り会えないだろう。
「かといって、俺みたいな訳ありは事情を話せばお断りされるだろうな。」
ついつい口からこぼれた言葉も本当は自分への言い訳だった。
過去の嫌な思い出を思い出さないように、同じ思いをしないように、怖さから逃れるために…。
もし、今日が暇だったら彼は同じことをぐるぐる考える羽目になっただろう。
が、幸か不幸か、今日は引っ越し初日、片付け物が山ほど…と言うほどはないがそれなりにある。
それが終わってもアパート内には他のアパートにはない共同スペースなるものがあるため、そこを見学していれば時間は潰せそうだ。
結局、大まかに荷物が片付いたのは9時近くだった。
寝るにはまだ早いが、わざわざ出掛けるには遅い時間だった。
オーナーに聞いた話では共同スペースなるものは夜の11時に消灯らしい。
ちょうど良いとばかりに神楽は1階にある共同スペースへと向かった。
そこは一見学生食堂のような作りになっていた。
違うところは食堂ではないこと、テーブル・椅子・巨大テレビの他に、ソファーやらパソコンやらがいくらか置いてあることだった。
神楽がそこへ入ったときには既に3人ほどの人がいた。
1人はソファーにゆったりと腰掛け、コーヒーらしきものを片手にタブレットをスライドさせている男性。
後の2人はテーブルにつきポテチをつまみながらおしゃべりをしている双子とわかる女性だ。
先に神楽の存在にきづいたのは双子の女性だった。
「「新入りさんがいる。」」
2人の女性はまったく同時に同じことを言う。
神楽が少々驚いていると、2人がクスクスと笑う。
「失礼、驚かせたみたいね。」
「新入りさんなんて珍しかったもので。」
今度は2人で1つの文を完成させている。
「どうも、まだ、新入りになるかはわかりませんが、神楽 達海です。よろしく。」
ある程度調子を取り戻した神楽はいつもの無表情に戻り、淡白で当たり障りの無い挨拶をした。
が相手はある程度事情を理解したようだった。
「もしかして、期限1週間中?」
「人と接するのニガテなんだ。」
「もしかして、お2人も1週間の期限があったのですか?」
後者の質問を避けながら神楽は2人にたずねる。
「「そうだよ。」」
今度はまたキレイにハモった。
「嫌じゃ、無かったんですか?」
神楽が遠慮勝ちに聞く。
「最初は戸惑った。けど、結局すぐに訳を話してここに住むことにした。」
「他に居場所の無かった私たちを本当の意味で受け入れてくれようとしてたから。」
「?」
どういうことだろう、と神楽は疑問に思う。
それに気づいたのか、2人がまた喋り出す。
「訳ありと分かっていて受け入れるならその訳を聞かず、ただ場所だけ与えとくのが1番楽。」
「でも、ここでは訳を知った上で対処法も考えながら、私たちのいて良い場所を作ってくれる。」
そう言って2人はニッコリと笑う。
「「そういえば自己紹介がまだ。」」
「私が、白木 沙耶。」
「私が、白木 麻耶。」
「「見分けはつかなくて良い。」」
神楽が呆然としているうちに、2人、沙耶と麻耶はまた自分達のおしゃべりを再開してしまった。
---居場所ね。そういえば、2人ぬはどんな事情が…まぁ、想像はつくけど。---