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Noisy Toy Present!  作者: なろうサンタクロース協会
Noisy Toy Present!
30/30

Sweet Holiday@零零機工斗

「藤岡、ちょっと相談がある」

「ふぁあ……あ、どうしたのさ急に」


 内容もわかりきっていたつまらない授業も終わり、丁度僕が昼寝から目覚めた頃だった。

 いつもヘラヘラと笑っている癖に、今日は何故か真面目な表情をしていた悪友に呼び出されたのだ。 

 呼び出された場所は校舎裏。


 クリスマスクリスマスとはしゃいでいる人混みを抜け、僕は校舎を出てそこに向かった。

 悪友は、いつもとは違った雰囲気を纏って、校舎裏の階段に座っていた。。


「山崎、相談って何?」


 冷えた空気が次第に重くなっていくのを感じた僕は、とりあえず声をかけた。


「よく聞け、藤岡」

「は、はあ」


 お前頭大丈夫か? と僕が聞く前に、山崎はビシッと僕を指差して言った。


「お前と栗原は両思いだ。さっさと告ってこい」


 彼の言葉が耳から脳に入りこみ、読み込まれるのに数秒かかり、更にそれを彼が本当に言った言葉だったのか理解するのに数秒かかった。

 しばらくの沈黙が、いつもより冷たかった空気に染み込んだ。


「………は? ……っはああああああ!?」


 そして僕の思考は困惑と焦りで塗りつぶされ、人気の無い校舎裏で絶叫が響いた。


「な、なんで栗原さんが、僕なんかのことが好きとか、わかるんだよ!」

「見てればなんとなくわかるよ」


 いや、僕は見ていても全くわからないんだけど。


「そもそも!何で僕が栗原さんのことが、しゅ、好きだとか、決め付けるんだ!?」

「……いや、普通わからないかな、それで」


 ハッ、僕としたことが、否定しているときに噛んでしまった!

 これでは僕が怪しいじゃないか!


「つーかもう確信してることだし、結構の人数が知ってっから気にすんな」


 その後、顔が熱くなるのを感じながら、僕はそのまま学校をあとにした。

 呼び止める声が聞こえたけど、無視だ、無視。




***




 いつになく真剣な顔を向けてくる親友に、私は動揺するしかなかった。


栗原優奈くりはら ゆうな

よく聞きなさい」

「う、うん」


 何故フルネームで呼ばれたのかはわからないけど、緊迫した状況なのはわかった。

 深呼吸してから、彼女は私の目を見て予想外の言葉を言い放った。



「今年のクリスマス、さっさとアンタの想い人に告白しやがれ」

「ええええ!?」


 今日は12月20日。

 キリストの誕生を祝う日、つまりクリスマスまであと5日しかない今、校内では誰もがクリスマスとはしゃいでいる。

誰もが、といっても、どす黒い嫉妬オーラを纏う人達とそれを跳ねてしまう幸せオーラを纏ったカップル達の、二種類の『はしゃいでいる』という表現なのだけど。


 私は現在、人の少なくなった教室で、幼馴染ののぞみちゃんにとんでもないことを告げられた、というか、命令された。


「正直、見ていて腹が立つのよ」

「……え?」


何を?と聞こうとするも手で静止されてしまう。


「アンタ、藤岡のことが好きなんでしょ」

「なななんでそれを⁉︎ ……あ、いや、えっと」


 私の本音は、思いっきり口に出てしまっていた。

 それに気づいた私は望ちゃんから目を逸らす。


「……明らかに当たりね」

「ち、違うよ!別にそう言うことじゃないの!」


 目を細めてこっちを見る望ちゃんに、私は慌てて両手を振って否定した。


「ま、別にいいけど。こっちは良い情報があるんだけどな~」

「そ、それって何……?」

「教えなーい」


 わざとらしく両手を広げる望ちゃんを、私は少し腹立たしく思ってしまった。


「ま、とにかく、クリスマスまでには告白しときなさいよ」

「で、でも……」


 望ちゃんはそう言って、教室をあとにした。

 残された私は荷物を鞄にまとめ、数分後に教室をあとにして下校した。




***




 今日は12月23日。

 終業式も終わり、放課後、僕は思い切って行動に出ることにした。

 別に山崎の戯言は信じてないけど、流石に10年間の付き合いで友達から一段階上がる様子が殆どないんじゃ、こちらが動くしかないと思ったのだ。


「さて、まずはどうやって話しかけよう……」

「誰にですか?」

「誰にって、そりゃぁ…………って、栗原さん!?」


 不意に零した独り言を、よりにもよって栗原さんに聞かれてしまった。


「えっと、藤岡くん、どうかしましたか?」

「あっ、いや、何でもないです……」


 目を合わせられず、つい下を向いてしまう。


(くっ、いきなり出くわすのは計算外だった……ここは出直すしかないか?)


「藤岡くん!」

「は、はい!?」


 僕が一時撤退を試みるも、栗原さんに呼び止められてしまった。


(え、何?何で僕呼び止められたの?)


 困惑する僕に栗原さんは何かを決心した様な顔で言った。


「きょ、今日は一緒に帰りませんかっ?」

「…………へっ?」


 こちらが思い切って言おうと思っていたのを、逆に訊かれてしまった。


「ぜ、ぜひ! 喜んで!」




***




 ど、どうしよう。

 少し早まっちゃったかな……


「栗原さん?」

「ふぁい!?」


 突然藤岡くんに呼びかけられ、声が上ずってしまった。


「こほん、なんですか?」

「あ、いや、ぼーっとしてたみたいだったから……」


 現在、私は藤岡くんと下校中。

 なんでこんなことになっているかはわからない。

 気づいたら行動に移していたのだ。


(うー、望ちゃんの言ってた情報って、なんなんだろう……)


 少し下を向いて、藤岡くんと並んで坂道を歩く。


 私達の学校は坂の上にあり、通学がそれなりに大変だ。

 おかげで少しは足腰が強い、のだと思う。


「あっ」

「栗原さん!?」


 何もない所でこけてしまった。

言い訳をするならば、坂道特有の斜面のせいだと言いたいけど、それだけじゃない気もする。


「っとぉぉぉっ!」

「わっ!?」


藤岡くんが飛び込んで私の地面との衝突を防ぐ。

簡潔に言うなら、下敷きになってくれた。


「す、すみません! 大丈夫ですか!?」

「いつつ……あ、うん、全然平気だよ」


急いで藤岡くんの背中から跳び引いた。

すこし背中をさすりながら立ち上がった藤岡くんは、その後何もなかったかのように歩き始めた。


「ほ、ほんとにごめんなさい……私、いつも何もないところでこけたり滑ったりして……」

「あー、僕もよくあるよ、それ。 不思議だよね、普通に歩いてるだけなのに」


彼は苦笑いし、共感してくれた。

私はそれを少し嬉しく思ってしまった。


「あ、そろそろ家だね」

「あ……そう、ですね」


小学校の頃はよく一緒に下校してたから覚えていたのだろう、私の家の近くまで来ると彼はそれに気がついた。


「じゃあ、僕はここで」

「あ、はい……」


十数分の下校の間だったのに、少し寂しく思った私がいた。

行かないで、と胸を締め付けられる様な痛みを感じていた。


でも、何も言えなかった。



「栗原さん、一緒に帰ろうって、誘ってくれてありがとう!」


そう言って、彼は走り去っていった。


でも、何で走っていたのかは、私にはわからなかった。




***




今日はついにクリスマスイブ。

昨日は限界で走り去ってしまったけど、今日こそは覚悟を決めよう。


「でも今日は学校もないしなぁ、きっかけが……」


そう、告白に持ち込むにもきっかけがないのだ。

少し学校にありがたみを持ってしまった僕であった。


「うーん……」


そして終わらせた宿題の広がった机の周りをうろつき、20分近く悩み続けていた。




「で、電話で行くか……?」


小学校の頃、教えてもらった彼女の家の電話番号。

現在、僕は家の電話の受話器の前で立ち尽くしていた。


窓の外では雪が降っている。


『はい、もしもし?』


この声は……栗原さんのお母さんか!


「えっと、藤岡です」

『あー! 藤岡くんて、小学校の頃優奈とすっごく仲が良かったあの子!?』


突然栗原さんのお母さんが声を上げた。


「そ、そこまで仲良かったですか?」

『良かったわよー! あ、待ってて、今優奈と代わるから!』


優奈ー! と栗原さんを呼ぶ栗原母の声をBGMに、僕の心臓は最高速度で鳴っていた。


『もしもし? どなたですか?』

「も、もしもし? 栗原さん?」

『えっ、藤岡くん!?』


栗原さんは事前に誰だったのかは聞かされてないみたいだ。


『あ、ええっと、一日ぶりですね!』

「う、うん、一日ぶり」

『…………』

「…………」



沈黙が痛い。



『えっと、何の用事ですか?』

「あ、いや、とくにこれといった用事じゃないというか、話したいことがあるというか…………」

『ど、どういう意味ですか?』


顔が熱くなるのを気にせず、僕は言った。


「明日、クリスマスだから、その……一緒に遊びにいきません?」

『…………え、あ……はい!! 行きます!!』


やけに声が高いのは気になったけど、僕は既に限界だった。


「じ、じゃあまたねっ」

『え、藤岡く────』


 受話器を元の位置に戻し、僕は部屋に戻ってベッドの上に倒れた。








 しばらくして、家の電話が鳴った。


「はい、もしもし……?」

『あ、藤岡くん? 良かったらちょっとお話聞いてもらえるかな』


 声の主は栗原さんのお母さんだった。

 さっきと違って、少し真面目な感じだ。


「あ、はい、いいですけど……」

『よかった、じゃあ聞いてね』


 それから彼女は深呼吸をし、語り始めた。


『優奈ってさ、昔アナタとすっごく仲良しだったのよ。それが中学になったら別々の学校でさ、高校でまた再会。でも、ずっとアナタのことを想い続けてたの。少し美化されちゃったのは仕方ないけどね』

「え、ちょ、ちょっと待ってください。栗原さんが、僕のことを想い続けてた……?」


 知らなかった。

 というか、山崎の戯言は、戯言なんかじゃなかったということなのか。


『そうよー、一度告白されたときなんて迷わず断っちゃってさ。ま、どうやって断ろうかと何時間も悩んでたけど。もったいないなー、その気になればきっとモテるのに、あの子』

「…………」

『とにかく、アナタも優奈が好きなんでしょ?なら明日はクリスマス、存分に告白してやりなさい』

「…………ぃ」

『んー? 聞こえないぞー?』

「ッはい!! 絶対に、幸せにしてみせます!!」

『気が早いね』


 栗原さんのお母さんは苦笑いしながらも、少し嬉しそうな声で言ってくれた。


『よろしく』





***




 クリスマスの朝。


 ツリーの下にプレゼントなんてなかったけど、私にはもうプレゼントはあった。

 昨日の母の電話を聞き、思わず割り込みたくなってたけど、今は感謝している。



 朝起きて着替えたあと、玄関から声がした。


「栗原さん!」


 それは、小学校の頃からずっと親しく思っていた声。


 玄関の扉を開けると、そこには赤と緑のラッピングで包まれた箱を持った少年がいた。



「メリークリスマス、栗原さん!!」



「はい、メリークリスマスです」





 Its was a story of such a Merry Christmas.




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