一日遅れのバッド・メリークリスマス@月影
――クリスマス。
それは、リア充の、リア充による、リア充のための企画である。
クリスマスを楽しめるのは、彼氏彼女持ちのリア充どもか、仲のいい家族、それか妹や姉に連れ回される奴だけ。
俺は、その三つの条件のいずれも満たしていないのだよ、ふふふ、参ったか。参ったな、俺が。
なんて考えていると泣きたくなる。俺はベッドへダイヴしてみる。ダイヴの発音を良くしたことに意味はない。
「……クリスマス、なんであるんだよ……」
俺は、都会の高校へ出てきて一人暮らし。まぁ、親と仲良くなかったし、甘えたがりな妹もツンデレな妹も色っぽい姉もいなかったけどね? あはは。幼馴染? なにそれ、美味しいの? ああ、美味しいんだろね、リア充からすればなぁっ!
あ。ちなみ俺はぼっちではない。彼女がいないだけ。あはは。
……笑えねぇっての! なに、クリスマスを男だけで過ごせと!? 死ねとでも言うのか!
「舐めやがって、神様のヤロウ……」
会ったら絶対ぶっとばす。
会えない? そんな常識、ムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダァァァァ!
さて。寝るか。
一人で漫才してるのも虚しくなってきた。
俺は迷わずもう一度ベッドへとダイヴして、眠りについた。
ダイヴするとき、角でちょっと手を打ったのは内緒の方向で。
あ。あとサンタさん。プレゼントくれるなら可愛い彼女をお願いします。『可愛い』彼女をお願いします。
ーーーーー
チュン、チュン……。
朝チュンで起きた。マジかおい。
朝チュンなんて、リア充にのみ訪れるイベントだと思ってたよ。
……え? イベントじゃない? うるせえよ。
俺はむくりとベッドの布団をどかし、起きようと上半身を起こした。
イベントでなにか変わってないかなぁ、昨日はクリスマスだったしなぁ。
まず、机の上。変わらない。
天井。変わるかボケ。
ベッドの下のエロほ……いや、なんでもない。
カバン。変わってたまるか。
ベッドの上。全裸の美少女。ウホッ。
よし、まぁなんだかんだいつもと変わらないな。
クリスマスなんてこんなもんだ。わかったか?
「ってちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺、今さっき「ウホッ」で済ませたけど「ウホッ」じゃねぇぇぇぇぇぇぇよ!
まさか俺、リア充を憎むあまりリア充と同化しようとして誘拐してきた!? 無意識に!?
俺なら、やりかねない……っ!
「んん……っ」
「すみませんしたぁぁぁぁ!」
ザ・DOGEZA。
これこそ、日本人の究極の謝り。ちなみに、謝ってすむなら警察は要りませんので。
「あ、大丈夫です。そんな謝るほど嬉しがらなくても」
「いやいや、そういうわけに……って、は?」
嬉しがる?
うん、確かに嬉し……ゲフンゲフン! い、いや、なにをわけのわからないことを言ってるのだろうか、この人は。
俺はそこで初めて、美少女の頭の上に真っ赤なサンタ帽が乗っていることに気がついた。
まさか。
「あ、あんた……サンタか⁉︎」
「お。上手いですね」
「別にあんたとサンタを掛けたわけじゃねーよ!」
「醤油でも掛けると美味しそうですね」
「掛けられるか! 食えるか! そして俺はソース派だ!」
「残念……私たち、ここまでです」
「始まってもねーよ! そして醤油かソースかで別れるのってどんなんだよ!」
いや、まぁ確かに卵が半熟かどうかで別れる人はいるらしいけど、醤油かソースって、それもはや調味料までランクダウンしてんじゃん!
「調味料だってバカに出来ませんよ? では、あなたは塩を無しに塩焼きを作れますか?」
「それ、作れたら塩焼きって言わねぇよ!」
なにそれ怖い。塩なしで塩焼きって。無理でしょ、塩がどうこう以前に。作れたら、それはもはや塩焼きではない。
「それに、始まってもないって。始まってるじゃないですか」
「……はぁ? なにが?」
「だって私、あなたの恋人ですし? あなたが可愛い彼女を下さい、って願ったじゃないですか」
…………え?
それは、俺が昨日サンタに願ったことで……。
俺は当然、あの時は一人。
それを知ってる。
てことは。
「マジでサンタかよ‼︎」
「はい! マジでサンタです!」
あ……ありえねぇ。
俺は目の前の事実に呆然とした。
サンタ……実在したのな。
お父さん、お母さん、疑ってごめんなさい。今のうちに全国の小学生は謝っとけ。
「……でもあんた、美少女の彼女が欲しいって、自分を差し出すって」
「ふふん、満足ですか?」
いや、満足だけど、可愛いけど。
そのドヤ顔のせいで台無しだっつの。
「で、なんで裸だったの?」
「日本ではそのシチュがいいかと」
「あんたは日本を誤解してる!」
しかも日本だからってどんな理由!? なにを思って日本にプレゼント配りに来てんだあんたは!
そしてそのシチュが良かったことは否定しない!
「やれやれ……。まだご不満が?」
「強いていうなら日本を誤解してたところだな!」
「ご回答願いまーす」
「ふざけてんのか!」
「今頃気づきました?」
「うがあああぁっ!」
俺は頭を抱えた。
サンタのイメージが……どんどん瓦解していく。だれかご回答してくれよ。俺が精神的に死ぬから。これいずれ物理的に死ぬんじゃね? あ、終わった俺。
「と、まあ! そんなわけで、よろしくお願いしますよ、彼氏さん♪」
「…………」
「ちなみに、三食昼寝付きでお願いしますよ? あ、カキ氷は必須ですからね!」
「帰れぇぇぇぇ!」
あぁぁぁくっそぉぉぉぉ!
やっぱりクリスマスなんてロクな事がない!
俺はたまらず部屋から飛び出した。
「あー! 何処へいくんですかこの獲物!」
「獲物じゃねぇぇぇよ! てか服! 服着ろ馬鹿ぁぁぁ!」
あぁぁぁぁぁぁ!
もう嫌だ、こんなの!
やっぱり、クリスマスなんて大ッッ嫌いだぁぁぁ!
「せめて名前! 名前だけでもっ!」
「それ男女的に俺のセリフだからな! 教えたら服着ろよ⁉︎」
「気分で」
「変態か!」
「ド変態ですよ!」
「お前本当にサンタか⁉︎」
「いいから名前ぇぇぇぇ!」
「わかった! わかったから! ってそのカッコで出てくんなぁぁぁ!」
この変態が全裸で外へ出てこようとしたもんだから、慌てて押しとどめた。
あぁ、毎日これからこの生活……?
勘弁してくれ、マジで。
名前で収まるなら……まぁ、いいか。
俺は逃げながら息を吸い、そして。
「俺の名前は――――」
ちくしょう。
負けちまった。
いや。勝ち負けないけど。
一日遅れの、バッド・メリークリスマス。
本当に、迷惑でした。




