クリスマスの夜【表】@『螺旋 螺子』
「ついにこの日がきたか」
長かった。去年も勝てなかった。その前も、その前の前も。そのずっと前、俺が幼い頃でも『奴』は挑んできていたらしい。
幼い俺は、いとも簡単になすがままにされていた。
「ここであったが6ねん目! こんどこそ、たおしてやるッッッ‼︎」
今年は、どうしても負けられない。半年前に生まれたばかりの妹がいるからだ。
お父さんとお母さんにはいくら言っても信じて貰えなかった。
「お父さんとお母さんをたよりにすることができない」
これは大きな痛手だった。俺が倒されても、お父さんとお母さんが代わりに倒してくれれば……と毎年思うのだが、今年もダメだった。
時刻はそろそろ20時を回ろうとしていた。
既にお風呂にも入り、夜ご飯も食べた。
「よし」
タオルを頭に巻く。
右手には新聞紙を三重にもして作った武器もある。
「このさいきょーのけんでたおしてやる!」
しかも、それだけには止まらない。左手にはダンボールをホームベース型に四つも切って、それをガムテープで強力に重ね合わせ作った防具。
「むてきの……かべ?」
そして、机の上にはお母さんが作ってくれた攻撃力が上がるドリンクと、おばあちゃんの家から持って帰ってきた最強の緑の粉で作った緑のドリンクもある。
お母さんのドリンクには、最強バナナ、最強ミカンの缶詰、最強リンゴ、最強牛乳を錬金箱にいれて、かき混ぜて作った。おばあちゃんのは、俺が勝手に作った。
「なまえはちょーさいきょードリンクと、けんこーしょくひん? みどりドリンク!」
因みにこの緑のけんこーしょうひん? ドリンクは凄く苦い。
「やつは、まほうをつかうんだ!」
奴は正々堂々と戦わず、俺を眠らせて忍び込むんだ。
だからこのけんこー商品?緑色ドリンクを飲めばたちまち、奴の魔法も吹き飛ぶ。
だが、これは最終奥義であり、本当は違う方法で魔法を吹き飛ばせる究極奥義がある。
「おとうさん。おかあさん。おれがもしまけたら、いもうとの分だけでも!」
ソファに座り込んで、面白いテレビを観ているお父さんと、洗濯物を畳んでいるお母さんにそう告げると、二人に背を向ける。
「ぜったいにへやにきちゃダメだからねっ!」
そう言い残し、自室へ向かおうと歩き出す。
もしやつが来たら、お父さんもお母さんも襲われて眠らされるかもしれない。
それだけは、絶対にダメだ!
「こら、ちょっと待ちなさい」
お母さんが、俺のところへ歩いてくる。何をする気だ?
「ゲーム機を出しなさい」
「――ッ⁉︎」
究極奥義がないと夜に眠くなってしまう‼︎
「お母さん! これがないと……」
「なぁに? ゲームするのは九時までって決めているでしょ? お母さんとの約束を守れないの?」
「きょ、きょうはアイツがくるんだって!」
必死に説得するが、伝わらなかった。
「確か去年も同じ事を言って、夜遅くまでゲームしてたでしょ!」
「だってぇ……」
「お父さんに来て貰うわよ」
「も、もういいもん‼︎」
自分の部屋に入り、ベッドに潜り込む。
「なんで、なんで……」
しばらく泣く。
だが、泣いてはいられない。妹の分もしっかりしなければならない。
だって俺はお兄ちゃんなのだから!
「よーし!」
気合いを入れ直し、机の上においてあるメモ帳を開く。
そこには、俺が七年かけて培ってきた情報が詰め込まれているのだった。
一字一句、見逃す事なく読み上げる。これも奴を倒して捕まえて、いままでの想いをぶつけるためだ!
「その一、やつはまほうでねむらせてくる。その二、えんとつから入ってくる。その三、あかいふくをきている。そのよん、ふとっちょ。そのご、つよい。そのろく、トナカイをぺっとにしている。そのなな、空もとべる。そのはち――」
色んな人から聞いたり、小学校の図書館へ行ったりして、情報収集を重ねた。
「きょーこそ。きょーこそかつぞ! そして……」
☆☆☆☆☆☆☆
「もう寝たかい?」
お父さんがドアを少し開けて、顔を覗かせる。
「おっ。頑張ってるなぁ」
「あ、あたりまへらよ。きょーこほは、ぜったひに……」
ダメだ、意識が朦朧とする。
お父さん、危険だよ‼︎
「まぁ、程々になー」
俺の願いが通じたのか、お父さんは部屋を出ていった。
「くそっ!」
奴が近付いているな!
何としてでも倒して捕まえるんだ!
魔法の効果を消えさせるために、スーパーみどりドリンクを飲む。
「にっが!?」
二口飲んだだけで、挫折した。
「くっ……!」
ダメだ、魔法の効果を充分に打ち消すことが出来なかったらしい。再び魔法が体を蝕んでいく。
絶対に倒さなければならない。倒して、捕まえなければならない。だってお兄ちゃんだから。
「せ、せめてこれだけでも……」
俺は、意識が途切れる一瞬まで、紙に鉛筆を走らせた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
それから一時間後。
「はぁ。またこんな所で寝ちゃって……」
机の上で力尽きて眠ってしまった我が子を見て妻が溜め息をつく。
「まぁまぁ。『今年こそは!』って張り切ってたし、いいんじゃない?」
そう良いながら、今は無人のベッドに本日のプレゼントを置く。続いて我が子を抱いて、ベッドに寝かせる。
「あら? ちょっと、アナタ! この紙を見て!」
「なんだよもう。起きたらどうするんだよ――って、これは……」
二人は食い入るようにその紙を凝視した。そして、穏やかな寝息をたてる我が子を見て積める。
「ちゃんと、……成長してくれているんだね」
「ひとえに、私の教育がいいからじゃない?」
妻は満面の笑みを浮かべながら、机の上に置いてあったペンを持った。僕もそれに習う。
そしてその紙に短く、返答を書いておいた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
さんたくろーすへ。
いつもねむたくなるマホウとかずるいです。
いつもプレぜントありがとうです。
ほんとうはちゃんとあっていいなさいってお母さんに言われたけどマホウにかてなかったです。
きょうはいもうとの分もありがとうです。
いもうとはまだ0さいでしゃべれないのでかわりにおれが言うです。
らいねんはまけないです!
良いお兄さんになって妹を大事にしてあげてね!
後、お母さんの言うことを良く聞こうね!
お父さんが、お正月におばあちゃん家に行こうって言ってたよ!
初めましての方は『メリークリスマス』。知り合いの方も『メリークリスマス』。
『螺旋 螺子』です。
この作品通して、若き頃の気持ちが断片を思い出せて頂ければ嬉しいです。
皆様が、なんとなく幸せな気持ちになれたら嬉しい限りです。
さて、今回のタイトル『クリスマスの夜【表】』ですが、お察しの通り【裏】もあります。
http://ncode.syosetu.com/n1096bw/10/
片方を読むだけでもお楽しみ頂けますが、両作読んで頂ければ、更なる面白味の深みへと誘われる事でしょう。
【表】はどこにでもある日常の1コマを書き下ろしたものです。しかしそれは【裏】を読まなければ知り得なかった事実があります。
この【表裏】を通して、果たして少年に会いに来たのは本物の父親なのか、サンタなのか。
それは『シュレーディンガーの猫』。真実は皆様のご想像にお任せしますよ。
それでは皆さん、ありがとうございました!




