一夜限りのサンタクロース@ラヴィ
雪が降り積もり、街中では若者のカップルが歩き回っている。
──クリスマスイブ、リア充の祭典。
こんな若者を恨んでやまない非リア充の話、ではなく、クリスマスイブに仕事が入っている、ある配達員のお話。
とある会社の一室に、配達員達は集められていた
「えー、ここに集まってもらったのは他でもない、君たち、つまりは24日の7時以降の配達をする人だ」
その言葉を聞いた配達員達は、なにかヘマをやらかしたか? 休みかな? など、暗くなる者、明るくなる者、反応は様々だった。
「あー、失態があったのではないので安心を。君たちにしてもらいたい事は1つ、今日の配達はこの服を着てもらう」
部屋にいる配達員全員が静かになった。それもそのはず、先程から話している者の手には赤い服に赤い帽子、つまりはサンタクロースの衣装があったのだ。
「……みんなの反応は分かる、しかしこれは社長の判断なんだ。嫌な者もいるだろうが業務の一環だと思って頼む」
配達員は戸惑いながらもサンタクロースの衣装を受け取り、各自着替えに行った。
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「……社長は何を考えてんだよ」
そう呟くのは1人のサンタクロース。
「……はぁ、配達するか」
そう言うと車に乗り込み、自分の配達する場所を確認する。
「最初は……おっ、近所だな、急いで行くか」
サンタクロースを乗せた雪車もとい自動車は、飾りで彩られた街中を進んでいった。
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ピーンポーン
ガチャ
「はい、どちら様でしょうか?」
「あ、〇〇宅急便です。えっと……佐藤さんのお宅でしょうか?」
「あ、はい佐藤ですが……」
「こちらの方にサインお願いします」
そう言ってサインを受け取り、早々に家を後にした。
「……恥ずかしすぎるだろ……つか、相手もいきなりサンタクロースの格好した人が来たら戸惑うっつーの……」
次の配達先も戸惑われるんだろうなー、と思いながらも車を発進させていった。
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ピーンポーン
「どちらさまー?」
軽い声が返って来て、
「宅急便です」
と、答えると、ガチャっと扉が開いた。
「鈴木さんのお宅でしょうか?」
「あ、はい鈴木です」
出てきたのはチャラそ……軽い感じの男性だった。
「……えっと、その……宅配の方ですよね?」
戸惑いながらもそう聞かれたので、恥ずかしさを押しこらえながら、
「はい、あ、ここにサインお願いします」
そう絞り出すと、相手はサインをした。
「えっと……お仕事頑張って下さい」
そう言われ、ありがとうございます、と言って早々に車に戻った。
「……周りからみたらそんなに大変そうに見えるのかよ……」
そう落ち込みながら、次の目的地に向かって行った。
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「……あと1つか……」
何個かの配達を終え、配達物は残り1つとなった。
「正直、行きたくないなぁ……」
そう言いながらも仕事なので行かない訳にもいかず、ノロノロと車を発進させる。
「ここか……」
行きたくない行きたくない、と思いながらもインターホンをならし、出るのを待った。
留守なら良いのに、留守なら良いのに留守ならいい──
「はい、どちら様で……」
その瞬間、すべてが固まった──訳にもいかないので、
「あ、どうも、宅急便です」
そう告げると、
「あ、宅配の方ですか」
「ママー、誰がきたのー?」
家の中から声が聞こえると、タッタッタっと1人の小学生低学年ぐらいの少年が走ってきた。
「あ! サンタさんだ! ねぇ、おじさんはサンタだよね!」
「おじさんかぁ……」
そうショックを受けていると、
「こら悠斗、お仕事の邪魔しない」
「あ、大丈夫ですよ、ここで最後なんで。悠斗君、いい子にしていた悠斗君にプレゼントを持ってきたよ」
「わぁ、サンタさんほんと? 悠斗いい子にしてたからプレゼント貰えるの?」
そう無邪気に聞いてきたので、
「あぁ! 勿論本当さ、だから来年もいい子にしてたらプレゼント持ってくるからね」
そう言って、
「松元さんですよね? サインお願いします」
サインを書いてもらい、最後に悠斗君に、
「それじゃまた来年会おうね」
そう言って、車に戻った。
「……俺なにしてんだろ、配達物の中身がプレゼントじゃなかったらどうしよ……」
そう考えてると、あ! 変身セットだ! と声がしたので、親御さんがなんとかしてくれたのだろう。
「……ふぅ、疲れたけど、たまには良いな、たまには」
そう言って、一夜限りのサンタクロースは帰って行ったのであった。