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Noisy Toy Present!  作者: なろうサンタクロース協会
Noisy Toy Present!
21/30

さて@マツの鶏養鶏場



 サンタさんというのは、子供に夢を見せるものではなく現実を見せる為にあるのだと、サンタ歴十年の僕はふと思ってみたりした。

 思っただけなのでその思いつきをどうこうしようという気はなかったのだけれど、これまた思いつきでこうして記している。全く、この歳になって思いつきであれこれ行動してしまうとは、僕という人間はどうしてこうもダメなのだろう。


 なんて、思ってもいないことを書いてみたり。


 さて、……いや、そうやって切り出すのは何となく嫌だな。インテリぶっているような気がしてならない。

 「さて」から話題を切り出せるのは、賢者の特権だと思っているわけではないのだけれど、何となくそんな気もしないでもない。どうでもいいけど。

 ああ、本当にどうでもいい。こんなどうでもいいことを長々と書き綴り、一体僕は何をしているのだろうか。

 そう言いつつ、僕は昔、話を切り出すときによく「さて」を使っていた。愚かしい極まりない。賢者の特権ではなく愚者発見器ではないのだろうか、これは。

 

 少し話は変わってしまうのだけれど、道端でアリを踏み殺してしまった程度に気に掛けて欲しい。

 本日はめでたくもなんでもないが、クリスマスである。本当にめでたくもなんでもない、無宗教の僕にどうしろというのだ。キリストの前で一発芸でも披露すれば良いのだろうか。

 さておき。

 さっき僕はサンタ歴十年と言った。それは本物のサンタなわけでも、サンタのバイトを十年連続で続けているわけでも、ましてやサンタだと十年間言い張っているおかしなおっさんでもない。

 単純に一人息子が十歳であり、プレゼントを買い与えているという意味でのサンタ歴十年である。

 うちの息子は確か、六歳の頃にサンタなんてものは存在しないことを知ったはずだ。間違えた、僕が教えたのだ。

 「サンタなんていない」「全てはお父さんの仕業だ」と、そんな血も涙もある人間らしい人間な行為について教えてあげた。ああ、夢をぶち壊したとも。悪いかっ。

 とまあ、開き直ったりしてみたものだが、正直開き直る必要があるほど悪いことをしたとは思っていない。これこそ開き直りなのだと言われれば、反論の余地などないのだけれど。

 

 開き直りうんぬんの話はさておき、今日が何の日か言おうと思う。

 本日の天候は雪。見事なホワイトクリスマスである。

 うちには庭で駆け回る犬もコタツで丸くなる猫もいないが、雪だるまを作る子供ならいる。全く、こっちは朝から雪かきだっていうのに……。

 子供の頃は雪にはしゃいだものだが、年を重ね歳を重ね、雪が重なるほどに憂鬱になっていくのはきっと気のせいではない。雪の冷たさに冷めてしまうのか、それとも覚めてしまうのか……まあどちらでもいいが。

 僕がこうして文字を書いているのは、今日がクリスマスだからだ。おいおい、クリスマスを男女がイチャイチャするだけの日だと思わないでくれよ。懺悔だって立派な行事なのだから。

 そう、懺悔である。まごう事なき懺悔である。懺悔をなにとまごうのかと聞かれても答えられないので、どうか質問しないで欲しい。

 しかしまあ、誰か読む前提でこうしてキーボードを叩いているわけだけど、誰が僕の懺悔など聞きたいのだろう。

 

 つまらない愚か者の僕の懺悔を見たいのだろう。

 賢者を気取っていた僕の過去を見たいのだろう。

 「さて」をやたら使っていた頃の僕の愚行を見たいのだろう。

 

 そもそも誰かに伝える前提で行う懺悔に意味はあるのだろうか。いや、自宅でキーボードを叩いている時点でこれを懺悔と呼ぶには苦しいものがあるのだが。

 しかし仕方のないことだ。僕はキリスト教徒ではないのだから。

 キリスト教徒でもないのになぜ懺悔をしようと思ったのかといえば、つい一週間前、妹が死んだからだ。

 交通事故で死んだ、普通乗用車にはねられて。

 家族総出……とまではいかないが、そこそこの葬儀が行われ、しっかりと火葬らしい。

 ああそうだ、らしいだ。とまではいかなかった理由はこの僕だ。

 僕は実家に帰ることを、いや、妹に会うことを法的に制限されている。そうなったのは全て僕のせいであり、責任転嫁をするならば「さて」乱用者であった頃の僕のせいだ。


 そうとも、結局は僕のせいだ。


 全てをこれから記そうと思うのだけど、そう焦らないでくれ。一応言っておくけれど、焦っていないのは分かっている。安心して欲しい。

 こんなつまならない人間の、つまろうとした過去のつまらない結末など誰が知りたいのだろう。ははは、滑稽でならない。僕も、そしてこれから人生の貴重な時間の一部を捧げて読もうとしている君も。

 少し図に乗ってしまった。申し訳ないと思っている。

 あらすじ……とは違うけれど、それに類するかもしれない何かをまず記す。それを読んだ上で、どうかそれ以上先には進まないで欲しい。今になって恥ずかしくなってきた。

 

 これより先は、今思えば病的なまでに妹を溺愛していた僕と今は亡き妹の、どうしようもなくなってしまった過去である。今も僕の後をついて回る過去の出来事である。

 起があって結するだけのお話だ。承転を求められても困る。

 「さて」ばかり使う僕の愚行だ。粋なギャグを求められても困る。

 妹を病的に溺愛していた僕の過去だ。社会的な言動を求められても困る。

 つまり言うと、困らせてばかりの過去である。

 物語る気はない。騙る気もない。傾る気だってない。

 あくまで今の気持ちで記そう。過去の僕に同情せず、当然、過去の妹に欲情……いやいや、同情せず。

 

 さて、そろそろ始めよう。




 ◆ ◆ ◆



 これは僕がまだ高校生の頃の話である。何年生だったかは覚えていないが、一年生から三年生までしかないのだから別に何年生でも一緒だろう。たかだか数年だ。

 その時の僕は、というかその頃から僕は、つまらない人間であったことは確かだ。

 つまるつまらないの境界線はどこだろうかと考えてみたが、何だかんだで分かっていなかったりする。つまるところ、いやいやつまらないところ、適当なのだ、自分の事だというのに。

 それは僕の正確に起因するのではないかと考えれば納得がいくのでそういうことにしよう。

 僕は自分に関心がない。怪我をしても大抵は放っておくし、髪は誰かに言われるまで切りに行かないし、服や靴だって誰かに言われるまで買い換えない。

 関心がないなんて気取った言い方をすればそれっぽく聞こえるのだけれど、これまたつまらないところズボラなだけである。つまらない人間というより、ダメ人間に近いのではないだろうかと書いていて思った。

 だからどうしたという話なのだが。

 

 さて、本題に戻ろう。

 

 僕には妹がいた。今となっては過去形だが当時は進行形である。

 二つ下の中学生であった妹は思春期真っ盛りで僕を避け……はしなかった。

 僕の妹への愛は常軌を逸していたと自負する。好きだとか気になっているだとか、もうそういう領域ではなかった。愛していた。

 どうしてそんな風になってしまったのかといえば、そんなの僕が教えて欲しい。恋愛は脳の病気だなんて言うつもりはないのだけれど、それでもあの時の僕は確実に病気だった。愛情が病的だった。

 時効だろうから言うけれど、妹の為に犯した犯罪などごまんとある。

 そして、妹の為についた嘘もごまんとある。


 全ては、僕のついた一つの嘘から始まった。

 

 その嘘をついたのはいつだっただろうか。かなり前なのは覚えている。おそらく僕が物心ついてまもない頃、つまりそれは、妹が生まれてまもない頃ということだ。

 僕は言ったのだ。なんのためらいも悪意もなく、ただ当たり前のように正しいように、正しくないのにも関わらず知っているにも関わらず、僕は言ったのだ。


「サンタさんはいる」


 なんて、ありふれた事を――。

 誰だって一度はついたことがあるのではないだろうか、この嘘を。僕を基準にした話で大変恐縮なのだが。

 余談となるが、いやいや、単なる僕の雑談披露になるが、サンタというのは実際に存在はしているらしい。当然空飛ぶソリとトナカイを使って無償でプレゼントを配るような存在ではないが、そういう検定があるらしい。子供の頃の夢が検定で得られるとは夢の無い夢の話である。

 さて、話を進めよう。

 幼かった妹は、僕の言葉を信じて疑わなかった。両親が非常に厳しかったせいか、優しくしていた僕に妹は大変懐いていたのだ。そんな僕の言葉を疑うはずがない。

 つまり僕は、妹のそういう所を利用し嘘を埋め込んだ最低の人間だということだが、その議論はまた今度にしよう。というより、僕が最低であることは最低たる僕が既に理解している。

 

「本当⁉」


 くったくのない笑顔で確か妹はそう言った。ああ本当だとも、的なことを返したような気がするけれど、実際のところは覚えていない。

 妹の発言はよく覚えているのだが、どうにも僕は自分に興味がないのか、いや、妹を溺愛している時点で僕は僕の欲求に忠実であり、つまり誰よりも僕は僕に興味があったということのなのだろうけれど、しかしだからといって過去の発言を一語一句覚えているわけがないだろう。

 と言いつつ、なんだかんだで妹の発言だけは覚えている。


「ソリで来るの⁉」

「トナカイさんは⁉」

「プレゼントは⁉」


 どういった感じでその質問攻めを回避したのかは分からないが、僕のことだ、当たり障りの無いそれっぽい言葉で幼い妹をいなし騙し調教し、晴れてサンタさんを信じ切った妹ができあがったわけである。

 いもしないものを信じているという感覚は、サンタを教えておいてなんだが僕には理解することができない。僕は目に見えるものしか信じない、そういうロマンチックな部分の片鱗すら持たない全くもってつらならい男なのだから仕方がないだろう、などと逆ギレっぽく言ってみたがどうせ僕のことだから迫力がないことは分かりきっているので無駄な逆ギレは謝っておく。

 本当に申し訳ございませんでした。


 さて、それからの妹について少し触れておこう。

 

 まず、サンタさんに手紙を送るようになった。電話をするとも言い出した。幼稚園や小学校の友達にサンタを布教し始めた。微笑ましいこの上ない。

 妹が中学生になった時、彼女のそのあまりの僕に対する執心具合に僕は異変を覚えていた、とまあ、まるで自分の罪から逃れるかのように言い訳じみたことを言ってしまったわけだが、本当のことを言うと僕はその状況をおおいに喜んでいた。

 だってそうだろう。僕に、高校生の僕に執心し感心する存在なんて妹しかいなかったわけで、つまり僕にとって世界でたった一人というわけであり、そこには希少価値があるのだ。つまる人間でありたかった頃の僕にとって、これほど特異性の塊のような存在はいない。

 つまりどういうことかといえば、僕は喜んでいたのである。妹が中学生でありながらもサンタを本気で信じ、兄の言葉を絶対的なものだと勘違いしている極めて異常な状況を。

 そんなことが許されるわけがないのは、誰だって分かるだろう。言うことを聞くだとか、素直だとか、もうそういう領域ではなかったのだ。

 誰が許さないのかといえば、お察しされているかどうか分からないがおそらくお察しているだろうから僕が言うけれど、『周り』である。


 あれはクリスマスの日のことだった。

 その年は観測史上がどうとか言うくらいに雪がひどかったことをよく覚えている。

 今年も今年とてサンタさんにお手紙を出す妹を見てニヤニヤしていたのだけれど、後から父に怒鳴られたらしく、泣きつかれてしまったのだ。

 ここから全てがおかしくなった。

 その時、僕はなんと言ったと思う? 僕の言葉を神の言葉か何かだと思っている妹に向かって、なんと言ったと思う? 


「お父さんの言うことは聞かなきゃな」


 僕は、そう言って妹の頭をなでた。

 言葉は時に凶器と化すというけれど、僕はそれを間違っていると思っている。言葉は二十四時間年中無休で凶器だ。毒が使い方によっては薬に変わるように、凶器を使い分けているに過ぎない。故に、たまに変な風に言葉を捉え勝手に傷つく人のがいるのだとう、といった感じに言えば僕の行為が正当化されて悪くないように聞こえるのだけれど、残念ながらそれは大きな間違いで僕はとても悪いことを、というか考えなしなことをしてしまい、自分で築いた世界を自分で壊すはめになってしまった。


 具体的にどうなったかといえば、妹が狂った。


 絶対であった僕が「お父さんの言うことも」ではなく、限定的な「お父さんの言うことは」と言ったのだ。その時、妹の中の優先順位や今までの言動が一気に崩れ去っていったのだろう、音も無く。

 日本語とは難しい。たったそれだけで人間一人を壊すことができたのだから。

 その後は実に簡単である。あれやこれやと僕と妹は引き離され、なぜか全てが僕のせいにされ、まあ実際に僕のせいだから良かったし、そもそもそういう状況を作り出したのは僕なわけだけど、結局法的な処置がとられることとなったのだ。

 あっけないだろう? みっともないだろう? どうしようもないだろう? つまらないだろう?

 そう、つまらないのだ、何もかも。僕そのものが既につまらなかった、あの嘘をついた時からずっと。ずーっとだ。

 

 以上だ。

 文句は腐るほどあるだろうけれど、今となってはどうすることもできなし、僕はどうするつもりもない。これ以上つまらない僕にどうすればいいのだ、などと拗ねているわけではないのだけれど、これ以上この件に触れることはあってはならないだろうし、何より僕が嫌だ。なんともつまらない理由である。

 さて、時間を忘れて書いてしまった。そろそろ子供の相手をしなくては。



 ◆ ◆ ◆



 こんなことを言うのもなんだが、というか本当は言わないほうがいいのだが、しかしだからといってこの言いたくなってしまった衝動を抑えられないから言うのだけれど、僕は子供が苦手である。自分の子供すら例外ではない。

 ただ、苦手だからといって可愛くないわけではない。そりゃあ可愛いに決まっている、と言っておけばいいお父さんのイメージがつくだろうか。いや、今更だな。


「パパー!」


 僕の妻にイタズラでもしてきたのだろう、そういう顔をしている。それを裏付けるように台所で妻は何かを叫んでいるのだが、残念ながら何を言っているかまでは聞き取れなかった。正直、別に残念でもなんでもないのだけれど。


「おいおい、ママの(・・・)言うこと(・・・・)は聞かなく(・・・・・)ちゃいけ(・・・・)ないぞ(・・・)?」

 

 と、僕は父親面で言った。

 

 一つだけ、締めとして一つだけ言わせて欲しい。

 つまらない人間は世の中に数多くいるだろうし、そして僕はその中の一人であるのは明白なのだけれど、一体全体どこが一番つまらないのかと言えば誰も気づいていないだろうから親切心の欠片もないくせにそれっぽい風に言わせてもらう。


 僕は学習しないつまらない人間だ――これを読んだ人はぜひ、こんなものは二度と読まないと学習することを願う。だがしかし、僕はそれでも学習せずこういうのをまた書くことになるだろう。

 さて(・・)、一つ以上言ってしまったところで、これぐらいにしておこうか。

 メリークリスマス、またどこかで会おう。


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