Eternal snow@青木 凛音
歩道橋の上。現実に打ちのめされて、街の灯りを見てる私が居る。
歩道橋は錆びていて、ところどころ塗装は剥がれてる。
今日は12月24日、クリスマス・イブだ。
騒ぐ人波の中を泳いで、此処に辿り着いた。
クリスマスを彩るイルミネーションが、傷心してる私を捉えていた。
・・・・・・・・・
高校3年の私「戸松 雪」は、今日、失恋した。
相手は同じ学校で、同じクラスで……もっと言えば同じ性別だった。
「壱松 里奈」は物静かでスレンダーな女の子だった。身長は170センチあって、陸上部に所属してたのだけど、体育会系のノリが嫌いだったらしく、高校2年になった春に退部。友人は少なかったみたいで、大体一人で居たんだ。
そんな彼女と、あの春に私は仲良くなった。
私もそんなに交友範囲はそんな広くなくて、クラス替えしたら仲の良い友人と違うクラスになってしまい。高校2年の春は結構孤独だった。彼女と一緒に学校生活を過ごすと、面白いくらいに息が合うことに、すぐに私たちは気付く。
そして「親友」になった。自他ともに認める。
何処へ行くのにも2人で。それは夏休みに入ってからも。
夏休みは2人でディズニーへ行ったし、財布にはたくさん溜まったプリクラ。
覚えているのは、色を飛ばすような夏の日差し。
秋になって、更に蜜月になった私と里奈。
「2人ってさー、もしかして付き合ってたりしちゃうの?」
と、クラスメイトに冗談交じりに揶揄されるくらいに。そのくらい仲が良かった。
「そうなの、雪は私のモノだから、手を出しちゃダメだよ!」
と冗談に冗談で返す里奈。他の子に見せつける様に、私の肩に手を回してみせた。
去年まで、陸上をやっていただけあって、スレンダーでしなやかな身体の感触が、制服越しに分かった。何故かドキドキして、不覚にも意識してしまった。多分、その時に私は恋に落ちたみたいだ。そう、恋に落ちる時は、一瞬で、抗えなくて。
里奈の良さも、可愛さも全部分かってる。確かに素敵だとは思っていた。だけど……
「いけない」と「意識するのが駄目」だと。思えば思うほどに……
徐々に熱を帯びて惹かれていく心と身体。
私がこんな気持ちを抱えていると、里奈は知らない。
胸が苦しくて、切なくて……吐き出したい。せめて知って欲しい。
でも上手く伝えられなくて、過ぎていった文化祭。
そして、気がつけば、今年が終わろうとしていた。
・・・・・・・・・・
「ねえ、里奈。私たちって親友?」
そう聞いたのは、ついさっき。クリスマスの夕方。そう確かめるように、諦めるために口から漏れた言葉。その奥のニュアンスを里奈は、まだ知らないけど。
「親友じゃなかったら、クリスマスに2人きりで遊んでないって」
そう言って笑った里奈。何も知らないその無防備な笑顔に……
――そう、常識が感情に負けてしまう。
車が行き交う車道、人で溢れた歩道と、クリスマス一色の街中。
里奈のスレンダーなその胸に頭を軽く当てて、囁いた私の告白。
「……好きなの。何時も想ってる。里奈のことを……」
「……私も好きだよ、大事な「親友」だし……」
それを越えたい。言ってしまう。
「里奈……私は本気なの。友達のままじゃいられない。はっきり教えて」
人混みの中で、止まってしまった2人の時。
無言で、一瞬で、だけどそれが永遠だった。
そっと、私を引き離した里奈。その目は私を見ていない。伏せた瞳で。
「ごめん。友達のままでいたい。ごめんね……私は雪のことが好きだけど、付き合えない……私ね「お母さん」になるのが夢なの。自分の子供が欲しいんだ……だから、ごめん」
里奈のこんなに悲しそうな表情は見た。
と、初めて自分が、取り返しのつかないことをしたと気付いた。
「そっか……それじゃ仕方ないよね……アハハ……忘れていいよ」
何を言ってしまったのだろう……
思っていても、言ってはいけない感情がある……それが、さっきの言葉だった。
私は背を向けて走って、この場から去った。思い出してる里奈の態度。
気持ち悪いとか私を傷つける言葉は言わなかった……そんな里奈の優しさに涙が出る。
・・・・・・・・・
見下ろす車道。こんな夜は、車のライトさえ綺麗に見える。
恋が終わっただけじゃなく、私は親友を失った。
巻き戻せるならば、あの瞬間に戻して。
どうして言ってしまったのだろう。こうなること分かっていたはずなのに……なのに。
雨は雪に変わって、皆はイルミネーションの街から、空を見上げる。
街中に流れる「サイレントナイト」。雪が降ってきた。
今年はホワイトクリスマス。街中が、雪に見とれてる。
――聖なる夜だと、他人はいうのだろう。今日は特別な日だとTVは言うのだろう。
私はというと、うつむいて歩道を見てる。
アスファルトの上に舞い落ちた雪は、すぐに溶けて水になる。
――12月なんて、まだ暖かいから……
綺麗だった結晶は、生暖かいから水に――涙になってしまう。
もっと冷たければいいのに……悲しみも、この胸の痛みも凍ってしまうくらい。
君の優しさも、私の愚かさも、隠すほどに降ればいいのに……
だけど、散りゆく花びらのように、微かに降るだけ。そう静かに、舞い落ちる。
こんなに綺麗で美しい夜にも、
私が見てたのは、汚れたアスファルトだけ……
――何時だって胸に刻まれるのは、こういう場面ばかり。
こんな夜はきっと切なくて、一生忘れられないのだろう。