雪の日@暇人さん
「おはよう」
そんな言葉が一々うれしかったあの日が懐かしい。
俺はそんなことを思い出しながら待ち合わせ場所にたどり着いた。
「よっ! 待たせちゃってゴメンねー!」
「待ってねーよ……とは言わないけどな」
「そーゆー時は俺も今来たところ、でしょ! あの時は言ってくれたのに……」
「ん? なんだ? わりぃわりぃ」
彼女の名前は柊由梨。
俺の彼女である。
「バカ悠斗! 何ボーっとしてんの!」
「え? 痛っ! おい、つねるな!」
俺の名前は宮坂悠斗。
中学の時に由梨と出会った。
「ねぇ、悠斗? 初めて会った時の事って今でも覚えてたり……する?」
「あぁ、まぁ覚えてるけど」
一昨年の冬、だったか。
雪が降るはずの予報が外れ憂鬱な雨の日になったんだよな……。
2年1組と書かれたクラスに入って行く。
まぁ、そりゃ俺のクラスだからな。
「うぃっす」
「おぅ、悠斗おっはー」
「なんでお前は朝からテンション高いのかねぇ、いつもいつも」
「んー? そりゃ中学生ですから! 短い間のJCを楽しめるグハッ」
「黙っとけ」
こーんなどうでもいい会話をしていた気がする。いや、していた。
「悠斗っ! おはよっ!」
由梨だった。
「お、おぅ……おはよ」
「何ー? テンション低くない?」
「あの、柊さん? 俺たち一応会話するの初めてなんだけど?」
「そだっけー? あはははーまぁいいじゃん」
由梨とは2年で一緒のクラスになったが全く接点もないただのクラスメイトだった。
「それでさ、悠斗!」
「いきなり呼び捨てですか……」
「気にするなっ! 今日暇?」
「あぁ、暇っちゃ暇だけど雨だし……外出るのだるい」
「いいじゃーん! 一緒に出掛けない?」
俺は俗に言う鈍感だったのだろう、初めてしゃべる相手と二人で出掛けたがる女子に対する違和感を全く感じていなかった。
「はぁ……分かったよ」
「んじゃっ! 4時に校門前で待ってるねっ!」
「あぃよ」
この後は、確か男共にあいつと何かあったのか! とか聞かれたが俺はただ遊ぶだけと答え続けていた、気がする。
「お待たせっ!」
「大丈夫、俺も今来たところ」
「さて! どこ行こうか!」
「決めてなかったのに誘ったのかよ……」
「よし! 買い物行こう!」
「はいはい、仰せの通りにー」
最初は乗り気でも無かったのだが行ってしまえば楽しいもので、久々の買い物も出来た。
「さぁて、買う物買ったし、帰るか?」
「えー、もう帰るのー? 私も言おうとしてたところだけど」
由梨はイタズラをする子供のようにクスクスと笑う。
「帰り、送ってくよ」
「おー、気が利きますなー」
二人で歩く夜道は耳障りな雨音のせいで台無しになっていた。
由梨は家の前まで来ると俯き、立ち止まった。
「あのさ……悠斗?」
「ん? どした?」
「好き……なんだけど……」
「ん? 何? 雨のせいで聞こえねぇよ」
「だからぁ……好きって言ってるの!」
突然声を荒げてこんな事を言うもんだから俺はかなりビックリした。
「え……と」
「何よ……男だったらシャキッとしてよっ!」
「あぁ、もう……俺も好きだっつーの!」
由梨は何も言わず頬にキスをしてきた。
俺は恥ずかしすぎて何も言えなかった。
そのままの流れで俺たちは帰った。
帰り道、静かに雪が降っていた。
「いやー! なっつかしいねー!」
「だな……おっ、雪降ってきたぞ」
「ホントだっ! あの時も雪降ってたよね」
「まぁ、お前帰った後だったけどな」
俺はわざとらしく笑って見せる。
「ずっと……一緒にいようね?」
「え? 何だって?」
俺はつい照れ隠しをしてしまった。
「なーんでもないっ!」
「おぅ、そーですか」
ずっと、この時が続けば良いな……。




