魔法で産まれたプレゼント@しえ…戯言遣い
クリスマスとは本来イエスキリストの誕生を祝うものであって、別に子供に無料でプレゼントを配る日ではない。
人々の中にはBlackSantaだという悪いサンタが生み出されているがあんなんただの作り話だ、少なくともいるという可能性は低い。
ボクは見たものしか信じないし、信じられない。
でも、赤いサンタはきちんといる。
呪われた、まよう世界で一番不幸な真っ赤かなおじさん。
日本人でボタンがはじけそうなくらいに酷い肥満体系で、だらしなくと生えている白ひげに、おなじみの白と赤い服を着ている。
サンタはいた。
今、ここに証明できる。
だって、ボクが漕いでいるそりに乗っているのだから__。
☆ ☆ ☆ ☆
「いやな、ワイもおかしいと思ったねん」
「なにがですか」
サンタはプレゼントを袋に詰め込んでいた。
さっきのは彼の独り言だったらしい、唖然とした顔してこちらを見たので完璧にそうだったらしい。
此方の困った顔に反応したのか。
「トナカイさん、サンタクロースって信じるかいな?」
と、彼は急に問いかけてきた。
「はあ、まあ、信じますよ」
目の前にいますし。
サンタクロースは幽霊なんかではない、実際にいる人物だ。
いや、職業といったほうがいいですかね。
今のところ彼しか、サンタクロースいませんが。
ちなみにボクはメスのトナカイさんです、一年間しか働いていない新人です。
働け、だって? トナカイはソリを押すだけの仕事ですからサンタとは違うのです。
とか言って、楽な仕事じゃあありませんよ、このくっそおもいジジィを押すわけですし。
「あいまいな答え方やなあ」
彼は年相応に合わないいたずらぽい笑顔で笑う。
多分、痩せれば美形と現在判断する。
「俺さ、最近サンタじゃないんやじゃないかなーって思うんやよ」
この人、くだらないこと考えているんですね。
呆れてしまします。
「くだらないこと考えているんですね」
「ひ、酷いなあ」
ああ、心の中の声が漏れてしまいました。
じぶんって素直だから、すぐその人が気にしていることいっちゃうすぐいっちゃうのよねー。
いつかこのサンタに悪口いいそうで怖いです。
でも、素直っていいことだよね、じゃあいってもいいんですかね、いいですよね。
「だめだめだめ⁉︎ サンタさん繊細だからガラスハートだからだめやよ!」
「ああ、また声に出してしまいました給料上げろ」
「思い切り今心の声出していたやろ!」
「いえいえ、空耳ですよ。年寄りは大変ですね、だんだんと聞き取れなくなっていくんですから」
「まあ、確かに否定できへんが……ででで、でもまだ心はわかいんやで」
「そーですか」
「う、うん」
冷や汗をかきながら、サンタは目を逸らしました。
わかりやすいのがこのサンタのいいところで悪いところです。
すると、自分は急に思い出しました。
サンタに呼びかけます。
「サンタじゃないと思われる理由とかなんかあるんですか」
「え?」
すっとぼけた声を出します。
急に質問されたので驚かれたのでしょう、説明します。
「さっき言っていたのでなんか理由でもあるのかと」
「あ、ああ。理由ね」
ゴホンとわざとらしい咳払いをして、にんまりと笑ってサンタは答えた。
「サンタってさ、ぶっちゃけないない存在じゃないかい」
「いないですか?」
「そや」
サンタは頷きました。
「サンタなんかいなくとも金さえあればプレゼントなんかいらないやろ、サンタを信じていないやつには届かないし届いたとしても気づかないし違うもの盗んだもの夢にされてしまうそーいうシステムや。サンタってもんはな、フィクションやで。作り物にして偽物にして人間が作り出した幻想や、魔法遣いと同じや。俺はなんのために産まれてきたか、この後数分後に行われるクリスマスのために産まれてきたのか?」
サンタは微笑みながら続けました。
「そんなんおかしいやろ? 俺はそれだけのために産まれてきたわけじゃないはずや。だから俺ってただのクリスマスの日に産まれた赤い服着た親切なおじさんなだけなんじゃないかとおもうやんだよね」
____カーン、カーン、カーン、カーン。
鐘の音が高らかに鳴る。
0時0分、クリスマス、年に一度しかないお仕事の開始の合図です。
「............ほら、クリスマスイブは終わりクリスマスの聖日になりました」
「そうやなあ、すまんね。長話聞かせてもうて」
サンタは頭をかきました、長々と恥ずかしかったのでしょう。
自分は言います。
言わなきゃいけないのです。
「あの」
「ん?」
「あなたの巨体をひきずっていくのはボクです。あなたはサンタなんですからサンタを待っている子供だっているんです。待っている子だっているんです。だから、行きましょう、自分は、自分はあなたみたいになりたかった人間ですからそんなこと関係ないです。どうでもいいのです。速く」
サンタはぎょっとした目になり、
「……あんた、トナカイじゃ――――」
ボクを見た。
ボクはトナカイ。
サンタをそりに乗せて送り向かいの役。
サンタはね、寝ている子供の隣にプレゼントを置く、優しくて神様みたいな、神様。
「ボクはトナカイですよ、さあ行きましょうよ。あなたが待っているひとはたくさんいますよ」
これからもボクはトナカイだ。
決してこの事実は変わらない。
☆ ☆ ☆ ☆
お母さんが嫌いだった。
お母さんは暴力振るってくるから嫌いだった。
お母さんはよく背中にめがけて蹴ってきた、一番そこが目立ったなかった、隠すのが必死だった。
お母さんはそのあとすぐ謝って抱きしめてくる、気持ち悪い。
お母さんは虫が良かった。
お母さんはボクを好きであった、歪んでいた、ボクもどうしよもなくお母さん好きでもあった、同じく歪んでいた。
お母さんはボクがいなくなったらだめだった、同じくボクもお母さんがいなくなったらだめだった。
お父さんはずっと前から死んでいた。
お母さんはお父さんが大好きだった。
お母さんはお父さんとボクと区別がついていないときがあった。
お母さんはココロの病気だった。
お母さんは病院にはいかなかった、お仕事に行った。
お母さんが倒れた。
お母さんは寝ていた、いや。
お母さんは死んだ。
お母さんは先に死んだ。
お母さんは黙って死んだ。
お母さんがいなくなった。
お母さんが何も言わずにいなくなった。
お母さん、ボクは一人ぼっちだ。
お母さん、どうすればいい?。
お母さん、お母さん。
お母さん、ねぇってば。
お母さん、クリスマスイブになったよ。
お母さん、雪が降ったけど
お母さん、サンタさんから何貰おう。
お母さん、サンタさんがお母さんってことは実は知っていたけれど願うだけならいいよね。
お母さん、ボクね、欲しいものが決まったんだ。
お母さん、それはねお母さん。
お母さん、お母さんがいないとボク悲しくて悲しくてしたがないんだ。
お母さん、今日はクリスマスの日。
お母さん、ボクは人間を捨てた。
お母さん、ボクはサンタからプレゼントを貰ったんだ。
お母さん、もう悲しみはもう溶けた、私はサンタを支えていくよ。
ボクのサンタさん、さようなら。
新しいサンタさんの所にいくから。
今度はずっとね一緒にいられたらいいな。
☆ ☆ ☆ ☆
一年前新しく入ってきた片方だけ角が変な風に曲がっているトナカイはどこかで見たことがあったが、思い出せなかった。
まあ、トナカイなんて数多く見たからトナカイ違いかもしれなかったが、この生意気なトナカイは普通のトナカイではないことはわかる。
元は人間だ、トナカイ自身が口を滑らして言っていた、もしかしたら狸かもしれないがそれはない。
多分、このトナカイは俺のプレゼントを開けてこうなってしまったと思う。
角も不自然な理由も、優しくも親切でもないただの赤い服を着たおっさんのせいで歪んだ。
何もかも歪ませてしまったのだと思う。
俺とプレゼントを乗せたソリをひいてトナカイは地を蹴り、空へ高く高く上る。
重力なんてない。
魔法に屁理屈も屁もない。
トナカイにシャカシャカリンリンと音を鳴らして駆け上っていく。
魔法で産まれてきた俺と俺の魔法で出来たトナカイ。
何のためにサンタになって、少女をトナカイにしたかは本当はわかっていた。
けど、今はただ俺からのプレゼントを待っている子供たちの所に行くだけ、産まれてきた使命を果たすだけ、偽善いっぱいの幸福に満ちたプレゼントを届けにいく、それだけだ。




