『ごめんなさい。』『今日だけ。』『大好き。ありがとう。』@鵠っ子
短いかなー……と思い3篇書いてしまいました。ちょっと見苦しくて『ごめんなさい』。『今日だけ』ってことで許してくださいね?
・[ごめんなさい。]男女どちらとも取れるような口調にしたつもりなので、お好きなようにお読みください。
『ごめんなさい。』
かちゃかちゃ。がちゃがちゃがちゃ。
――うるさいなぁ
かちゃかちゃ。がちゃがちゃがちゃ。
――うるさいってば
かちゃかちゃ。がちゃがちゃがちゃ。
「もう! うるさいよ!」
「おはよう」
え、キミ、なんでいるのさ。昨日聞いたときには来られないみたいなこと言ってたくせに。
かちゃかちゃ。がちゃがちゃがちゃ。
「さっきから、何をしてるのさ」
「クリスマスだからね。準備しとかないと」
笑顔で答えるキミ。クリスマスだからって、なんの準備が必要なのさ。そもそも何で、クリスマスの準備を当日になって始めるのさ!
「やっぱりさ、綺麗にしたいじゃない。クリスマスくらい」
……さっぱり分からない。キミが何かの予定をすっぽかしてまで、家に来た理由とか。そもそもどうやって、家の中に入れたのかとか。
「そこは……まあ、サンタに協力してもらってー、とか?」
たしかに、クリスマスはキミと一緒にいたいって思ってたけど、サンタさんに手紙なんて書いてないんだから、サンタさんが知ってるわけないんだよ。それに、子供じゃないんだからね!
がちゃがちゃがちゃがちゃ。……ドンッ! ころころころ。
「よっと。……はい」
「さんきゅ」
なにこの重いの。すごい音したよ。下の階の人に怒られないかな。
「そんな心配そうな顔しない。これくらいなら大丈夫だって」
がちゃがちゃがちゃがちゃ。キュッ、キュッ。
「いったい何を作ってるのさ。教えてくれてもいいんじゃない?」
キミは笑顔を作るだけ。そんな大掛かりなもの、いったい何を作っているのさ。ドンッ! ころころころ。……またかい。
――ぴんぽーん。サンタクロースだよー。
……サンタさん、ノリ軽いな! しかもサンタさん、インターホン口で言うの⁉︎ 夢がない演出だこと‼︎
「よし、やっときた。これで仕上げができる」
そう言ってキミが部屋に入れたのは一三〇センチくらいの何かの木。なんか惜しくないそのチョイス。せめてモミの木じゃないんだ。クリスマスなのに。
「それでも一応は常緑樹だし。広葉樹だけど、堅いこと言わない言わない」
かちゃかちゃかちゃ。かちゃかちゃかちゃ。かちゃかちゃかちゃ。トントン。トントン。
「これでどう? 少しはそれらしくなったでしょ?」
一応ツリーらしくはなってるけれど、よく分からないものがたくさん付いてる。
「さ、このボタンを押すと……」
「……押すと?」
「やってみなよ」
ツリーからながーく伸びたコードの先にあるボタンを押してみる。
――パァーーン!
「うわあ! なにこれ!」
……強烈なライトアップと破裂音。腕で目を庇いながら、なおも続く爆音が音頭になって、ミオクローヌスみたいに肩を躍らせる。
「みんなに協力してもらって、大量のクラッカーを録音したんだ。すごいでしょ!」
うん。確かにすごいけどさ。
「う、うるさーーい‼︎」
眩しくて目が痛いし、耳が痛いし。それに――ドンドンドンドン――ドアをたたく音が……。ご近所の皆さん……
「ごめんなさーーーーい‼︎‼︎」
頑張って声を張り上げた結果――のども痛くなりました。
『今日だけ。』
家族で囲む食卓。ボクの正面で『お正月』なんて歌ってる人についてのお話……。
「お正月の前に、明後日はクリスマスだよ」
「お正月のほうがいいじゃない真樹。お年玉もらえるし」
お年玉の前に、クリスマスプレゼントがもらえるなんてことは、頭にないのだろうか? そんなこと、ボクが心配する必要もないか。今年はなにもらおっかな。
「そういえばそうだね。クリスマスプレゼント、今年は何にしよっかなー」
この人、そんなに特徴はないんだけど、学校では結構人気者らしい。やっぱり天然さんは萌えるのだろうか。ボクからすれば、ただアホっぽいだけなんだけどな。
「そうだ! お父さん、お母さん。この子が欲しい」
「は⁉︎ なに言ってんだよ!」
ホント、なに言ってんだいきなり!
「はぁ。いつかそう言い出すんじゃないかと思っていたわよ」
「しょうがないな」
父さん、母さん、しょうがないじゃないでしょうが。きょうだいだよ!
「真樹。クリスマスはデートだからね」
「……う、うん」
勢いに負けてしまった。なんでこんなことになるんだ。そもそも、なんでいきなり……。
「真樹には言っていなかったね。かずは真樹が生まれる二年前にこの家の子になったんだよ」
ちょっと待った。この人はボクより五つ上のはずだ。話によると、父さんと母さんは中々子供が出来ず、身寄りのないこの人を引き取ったらしい。が、その二年後、ボクが生まれたそうだ。
この人のボクに対する言動が、前からおかしかったのはそのせいか、とちょっぴり納得する。……いや、やっぱり出来ない。
「でも、今まで普通にきょうだいとして育ったのにいいの? 本当に」
「い、いいわけない! ボクはイヤだからね」
ボクは部屋に逃げ込む。ここなら、あの人もこられないはず。そう、安心してベッドに転がる。
ボクが舟を漕ぎ始めたころになって、部屋に近づく足音で覚醒した。この気付かれまいと神経質すぎる歩き方は、今はあの人しか考えられない。
「ねえ、真樹? そんなに、イヤだった? ……ゴメン」
「謝らないでよ。ボクこそごめん。……でも、なんで?」
扉に手をかけるような気配はなかった。ドア越しの会話。顔が見えないけど、今までこんなことしたことなかったから、なぜかその分緊張する。
「真樹が好きだからに決まってるじゃない。真樹は、その、……嫌い?」
「嫌いじゃないけどさ、そういうことじゃないと思うんだ」
そう。絶対に違う気がする。違うと思わないとやってられない。……ボクが意地っ張りなだけかな?
「それじゃあ、名目はデートじゃなくていいから。お互いにクリスマスプレゼント。二人っきりで過ごしてくれるかわりに、何か買ってあげる。これでどう?」
「……そこまでして一緒にいたいっていうなら、しょうがないな。いいよ、その条件で」
こうして、クリスマスの日に一緒に出かける約束を取り付けられてしまった。
そして、クリスマス当日。
「ちょっと。服キメすぎ。デートじゃないんでしょ」
「いいじゃない。気分気分」
はぁ。この人が人気者な理由がちょっと分かった気がする。何事にも本気だ。ボクのことが好きだと言ったのも本気かもしれない。そう思うと、とたんに意識してしまう。
――パァーーン!
今のはいったい何の音だったんだろう。この人は全然気にしてないみたいだけど。
「ねえ真樹。楽しくなさそう。もしかして、ホントにイヤだったの?」
「あのさ、そういうこと何度もきかないでくれる」
思い返してみれば昔からこうだった。ボクのちょっとした態度から、ボクのことをすぐに見抜いてしまう。
「ねえ、もし。もしだよ? ボクが好きだって言ったら、どうする?」
「相思相愛だね。すっごい嬉しいよ」
この人、こんなこと言って恥ずかしくはないのだろうか。まあ確かに、もしもの仮定の話ってことにしたけどさ。
ふと顔を上げる。どんな顔してるんだろうと思ったからだった。とっても綺麗なイルミネーションをバックに、とっても嬉しそうな顔をした人が隣を歩いていることに気付く。ボクは恥ずかしくってまた俯いてしまう。
「ねえ真樹。いい加減に名前、呼んでくれないかな。今日はこんなに素敵な日なんだから」
そういえば、ボクは何年この人を名前で呼んでいなかったのだろう。もちろん、忘れたからというわけではない。何となく、この人を苦手に思っていたから。そんな気持ちも、もうとっくに見抜かれているのかもしれない。
「か、か、か、和葉、……ねえさん」
「折角なんだから呼び捨てでよかったのに。男らしくさ」
「……無理」
こんなに恥ずかしいのは、もう今日だけにしたい。
『大好き。ありがとう。』
「ぼく知ってるよ! クリスマスって、赤い服着たトナカイさんがカボチャをかぶってお蕎麦で鐘を突きながらおがらを燃やしてカラフルなタマゴを奪いに来るついでにお餅を食べながらチョコのお金をくれるんだよね⁉︎」
な、なによその凄そうなイベント。クリスマスとハロウィンと大晦日とお盆とお正月とイースターとバレンタインが一緒に来ちゃったみたいじゃない! しかも、一つ一つ取ってみると、なんだか笑えるようなシュールなような……。うん、意味が分からない。
「あのね、クリスマスってのは、みんなでクリスマスツリーを眺めるってイベントなの。……なに、そのあからさまに、ちぇ~って態度」
「ぼくはサンタさんにプレゼント貰ったんだ。いいだろ!」
こう、純粋な子供っていいな~。よく分からないことを適当に誤魔化す私みたいにはなって欲しくないかも。クリスマスって、本当はなにを祝うんだっけ? サンタクロースがプレゼントを届けに来るようなことしか思い浮かばない私って、なんて薄識なのかしら。はぁ、自虐なんて私らしくないわ。
聖なる夜なんていって、恋人たちが集まるイルミネーション。電飾をたくさんつけて、ものすごくキラキラしている普通のお家もあれば、窓の近くに室内用のプラスチックの小さいツリーを飾ってるお家なんかもある。なんとかタワーなんかは、ライトアップするらしいし、街路樹なんかにも電飾が巻かれているところもあったりしてとにかく明るい夜になる。大人になったらクリスマスのイルミネーション街を歩いてみるのが夢だったのに、実際は一人で行く勇気なんかなくて……。
「そんなに外が気になるんなら行ってみりゃいいのに。年に一度のお祭りなんだから、行かなきゃ後悔するよ」
「アベックだらけのところに一人でうろつくなんて恥ずかしいじゃない。それに、みんなのお守りも任されちゃったからねー」
「ぼくらのせいにするつもりなの? はっきり言って見苦しいよ?」
なんで、こんな子供にやり込められなきゃならないのよ。クリスマスなんて来年もあるんだから、今年後悔しても来年はどうなるか分からない。来年に期待することにしようかしら。そんなことを思いつつ、表情は取り繕って、笑顔笑顔。
「そんなことしてて虚しくないの? そう、『コンビ二でも行ってくるね』って出かけちゃえばいいよ。辛気臭いんだよ。おねーさんのその表情」
バタン! イラっとして思わず飛び出してしまった。バカみたい。突っかけで、上着もなしに真冬の寒空に曝される。体の芯まで冷え切って、まるで心臓まで冷えていくみたいに感じる。もう、全然寒くなんかない。それでも、腕をまくってみるとそこには立派に鳥肌が立っている。そんなことを確認してしまうと、やっぱり寒くなってきたじゃない。ブルッと震えるけど、勢いで飛び出してしまった手前、取りにもどるのも恥ずかしいし……。
折角なので、念願だったイルミネーション街を歩いてみることにする。何も感じない。体だけじゃなくて、心まで凍えてしまったよう。なんにも楽しくなんてない。下を向いてトボトボと歩く薄着の女なんて、クリスマスに振られたみたいに見えるんじゃないか。ほら、あのテンションの違いすぎるカップルの男の子の方だって、私の方を見て苦い顔をしているじゃない。ふとそんなことを思い、姿勢だけでもシャキっとしてみた。とたんに寒さが増す。丸まってるのって、案外とあったかいのね。
それから何を考えてどこを歩いていたのかはよく分からないけど、気が付くと見知った道に出ていた。私には動物並みの帰巣本能でもあるのかと疑ってみるけど、どうやら無意識に歩くと体が覚えている道を通るものらしい。数時間前に飛び出した家の前に立ち尽くしていた。
「遅いよ。みんなで待ってたんだから」
さっきはよくもあんなことを言ってくれたわね、と言い募るのは大人気ないとどうにか踏みとどまり、代わりに「何を待ってたの?」と問い返すことにした。
「いいから早く入ってよ。そんなカッコじゃ寒いでしょ?」
温かいを通り越して熱く感じる手に引かれて、中へ中へと連れて行かれる。私の手、相当冷たいんだろうな。
『ハッピーバースデー、おねーさん!』
リビングの戸を開けると、お誕生日おめでとう! と子供たちのシュプレヒコール。そうか、十二月二十五日は私の誕生日。このサプライズを準備するために私を追い出したかったのね。憎いやつらだ。
「みんな、ありがとうね」
凍えていたはずの心は、あっという間に溶かされて。温かいを通り越して熱いものが胸に込み上げてくる。私はみんなが――
「……みんな大好き。本当にありがとうね」
――みんなが大好き。本当にありがとう。
読んでくださった皆さん『大好き。ありがとう』!!
・[ごめんなさい。]ミオクローヌスとは、たとえば、授業中にウトウトしてしまって突然「ビクッ」となって無性に恥ずかしくなるアレです。