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密談

エントランスには、藤堂一人が座っていた。

 志村が床に座ろうとすると、藤堂が椅子を指差した。指示されたとおり、白髪の混じる初老の男は、藤堂の前に置いてある椅子に腰かけた。

「どうじゃ、南蛮の椅子の座り心地は」

 藤堂が、にやりと笑った。

「南蛮ですか」

「そうじゃ、向こうではのう、このような家に住み、このような椅子に座って暮らしておるそうな」

 そう言いながら、藤堂がぐるりと辺りを見回すと、志村も、つられたように首を回した。

「はぁ~、大したもんだ。だけんど、南蛮人つっても、妙な着物を着てる他は私らと大して違いやせんね」

「言葉も通じるしなぁ」

「へぇ~」

「まぁ、南蛮人も色々よ。それより志村、同じ武蔵野の草を食んで育った者同士、ざっくばらんに話をしたいがどうだ」

「へぇ、そりゃもう」

 ここで藤堂が少し小声になった。

「駒井は今まで吉良に年貢を納めておったろう。世田谷城が我らの手に落ちた今、お主、どうするつもりだ。まだ奴らに義理立てする気か。それとも半手か」

 半手とは、国境になった村や郷が、両方の勢力に年貢を半分ずつ収めることである。

 駒井郷はそれまで、吉良頼康に年貢を納めていた。吉良家は当時、現在の横浜市から世田谷区にまたがる、広大な領地を有していた足利一門の名家である。

 当主の頼康は、久良岐郡(現、横浜市)に居城をかまえ北条氏綱と同盟関係にあった。

 そこへ、上杉朝興が旧領を奪還すべく挙兵し、まず手始めに、吉良氏重臣の大平氏が守る世田谷城に攻めよせてこれを落としたのだ。

 さらに、駒井郷の目の前に突如現れたこのマンションも、たった今、上杉軍によって占拠された。つまり、駒井郷は完全に上杉朝興の勢力圏に入ったのだ。

「どうするのだ」

 再度、返答を求められた志村は、僅かな唸り声を洩らして下を向いた。

「おめぇ、吉良に何分持って行かれてんだ」

 藤堂は、駒井郷が吉良頼康に収めている年貢の割合を聞いた。

「えーと、五分でございます」

「苦しかろう」

「へぇ、そりゃもう、毎年、今の時期には死人が出やす」

「上杉様にお味方すれば、向こう三年、年貢は免除だ」

「えっ」

「嘘じゃねぇ、これは、今、世田谷に居られる上様、直々のお達しだ」

 この条件に、志村の心は忠義と私欲の狭間で揺れ動いた。正直、郷民の苦衷など眼中に無かった。

「実はな、この話、お主の郷だけの事なのだ。他の郷には、年貢は二部と言う話をこれから持って行こうと思っているのだ」

「なんでまた、内だけなんです」

 志村の顔が赤みを帯びて来た。

「南蛮人から譲り受けたこの石の城を守るには、隣接する駒井の合力が是非とも必要なのだ」

 そう言って藤堂が、志村の右手を両手で握りしめた。志村は驚き恐縮して、より一層顔を赤らめた。

「それと、合力を約束してくれるなら、上様から格別の褒美が下される事になっておる」

「格別の褒美?」

 そう言って、志村が頭を上げた。

 目が合うと、藤堂がにやりと笑った。

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