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cold

璃子の中学生時代に戻ります。

12月のあの日に。


*******************

**********


ピピ――――。

顧問が吹く笛の音が、体育館いっぱいに鳴り響く。

練習中断の合図。

体育館の壁に掛かっている時計で、時刻を確認する。

――11時55分。

お昼休みになるのだろう、と思いながら顧問の元に集まる。

「よし、皆そろったな?今日はもう、練習は終わりにする」

え?

周りと目を合わせ、皆が不思議そうに首を傾げた。

今日は3時までのはずだったのに、何故。

「どうやらこれから雪が更に激しくなるらしい。

この間の時みたいに、バスが止まるかもしれないだろうし、まぁ、とりあえず、家帰って明日の試合に備えろ。じゃ、解散!」ワンテンポ遅れて、はい!と返事をする。

前に整列していた優花が、振り向いてにやりと笑った。



「一応、1時までは体育館は開けておくから、弁当食うなりバス待つなり自由にしろ」最後にそう言って、バスケ部顧問の松尾先生は去って行く。

先週の大雪でバスが止まり、バス通学の生徒が帰路を断たれた。数人であるのならまだ良かったのかもしれないが、生憎この中学では、全校生徒の約半分ほどがバスでの通学だ。あたしも例外ではなく、その日は母親の車で帰宅するしかなかった。そのことに迷惑被った親が多数、学校に苦情の電話をかけたと言う。

多分、松尾先生も二度目は避けたいのだろう。


「りーこっ♪疲れてる?疲れてないよね?

この間オープンしたばっかの喫茶店、すごい人気なんだって。ね、行こ?」とてもいい笑顔で優花が言う。

「―――喫茶店?」

「うん、知らない?りーこちゃん家から歩いてすぐのとこ。

店長さんがすっごい可愛い良い人で、しかもお菓子もランチも美味しいって、地味に評判なの!ねっ、お願い!行こう?」

両手を合わせて上目遣いであたしを見る。

「わーかった!行くよ。ただし誕生日ってことで優花、あんた奢ってよね」

「えー!!まぁ……う〜、わかった!りーこちゃんのために、私っ一肌脱ぎましょう!」

ヤケクソになって立ち上がる優花を見て、あたしは笑った。


*******************


そんなに信じてはいなかったけれど、優花に案内されて行った喫茶店はそれを覆した。

つまり、あたしはその店を気に入った。

どこか懐かしい童謡が流れる店内は、広さこそないものの、穏やかで優しい雰囲気で包まれており、それはどうやら店主の女性のせいでもあるようだ。

童顔で小柄。

花が咲いたような笑顔で話しかけてくれる人だった。元々すぐに誰とでも話せる優花は、帰り際にはもうすっかり彼女と意気投合し、「また来るね、ユイちゃん」と、まるで友達のように接していた。

「うん、またいらっしゃい。今日は冷えると思うから、ちゃーんと暖かくするのよ?

明日の試合頑張って!」

「はい」

自然と口元が綻ぶ。

そうだ、家に帰ったら梢姉にも教えてやろう。

あの人はあたし以上にこういった店が好きだから。それにあの人は勉強し過ぎだ。

テストか何かがあるのかもしれないけど、飯を食う以外は大概部屋に引きこもる。あたしから見たら体に毒だ。冬休みくらい、連れ出さなければ。



「ねっ、気に入った?」

自信満々の笑みを浮かべて、優花が言う。憎たらしくなるほど可愛らしい。

悔しいが、

「まあ………居心地よかったし、美味かったし。

なんか感動した。誘ってくれてありがとね」

言うなり、ガバッと優花が抱き着く。

嬉しくてたまらないといった感じで

「どういたしまして!

お誕生日おめでとう!!」


不満を言おうとした口をつぐみ、自分よりかなり下にある頭にぼそりと呟いた。

「………そりゃどーも」



雪は依然として降り続いている。

音なんかしない。

時折吹く風に身を委ねながら、静かに静かに地上に降り立つ。




また

この喫茶店に来よう。

梢姉を連れて来たら、ユイさんはどんな顔をするだろう。きっとあの優しい笑顔で迎え入れてくれるはずだ。


そうすれば梢姉も

ちょっとは楽しそうな顔をするだろう。


軽く心を踊らせて、あたしは優花と別れた。




* * * * * * * *



「……あれ、」


鍵穴にキーを差し込み、ぐるりと一回転させる。

普段ならばそれでドアは開くはずだった。

しかし、


――ガチッ。


ドアノブを回しても、確かな手応えが邪魔して開かない。

何故か。それは明らかだ。

最初から、鍵は掛かっていなかった。


おそらく梢姉が帰っているのだろうと直感的に思った。

しかし、それだと妙だ。

梢姉は午後は1時から4時辺りまで塾が入っていたはずなのに。

―――午後1時35分。


梢姉は真面目だ。やると決めたことに対する責任感は人一倍強い。何かなければ、既に普段通り家を出ている時間帯。

首を傾げながら玄関に入った。 「姉ちゃん、帰ってんの?」

少し声を張り上げる。返事はない。

靴を確認しようとしたが、それもない。

とすると鍵を掛け忘れて出かけたのか。

釈然としないまま靴を脱ぎ、リビングで重たいスポーツバックを下ろした。すると、あたしはまた首を傾げなければならなくなった。

――テーブルの真ん中に置かれた、鍵と白い封筒。

銀色の鈴が付いたこれは、梢姉の物で間違いない。

しかし

こんなわかりやすい所に置いて、あの人が忘れるのか。普段であれば絶対有り得ない。あと、この封筒は………?封筒のピンとした角に、心なしか背筋が伸びる。

微かな威圧感。

気のせいだと笑い飛ばし、封筒を開けてみる。

出てきたのは丁寧に三つ折りされた一枚の紙だった。冬のこの季節だからか、微かにひんやりとした手紙。

最初の1行、そして2行を読み、あとはもう貪るように目を走らせた。

―そんな馬鹿な。

嘘だ。

有り得ない。

汗でぐしゃぐしゃになった手紙をそのままに、玄関へ走り出す。


嘘に決まってる。こんなの。

靴も満足にはけないまま、特に深く考えずにあたしは一カ所へ向かう。

何故かあそこしかないと思った。

姉はあそこが好きだから。それにもし、姉にその気があるならば、適当な場所にちがいないのだ。



震える手で、エレベーターの1番上のボタンを押した。

止まらない時間を追いかける。

待って。いかないで。

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