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トモダチ。

学校編です。

楽しんで下さると嬉しいです


目覚ましはないが、自然と目が覚めた。

今日は朝から日差しが強い。瞼の上から、その眩しさを感じながら目を開けて身を起こす。

肩を越えた、伸ばしっぱなしの髪が首筋に張り付いて気持ち悪い。

手短にあったゴムで髪を一つに束ねていると、視界に人影が入った。

一瞬ぎょっとしたものの、脳の対応は早かった。

すぐさま昨日の記憶を引っ張り出してくれた。

「…………」


静かな寝息をたて、寝ている男。

昨日私が置いておいた座布団を二枚重ねた上に胡座をかき、布団を頭から被っている。

…暑くはないんだろうか。

しかしあまりに気持ち良さそうに寝ているので、極力物音を立てぬよう作業をした。

作業をしながら、そういえば自分以外の人の気配がある中で目覚めるのは幾年ぶりだろうかと思う。

小学生だった時には、父と母の気配があった。

二人に挟まれるようにして寝て、起きる。

あの頃はそれが普通で、なんでもないことであった。

「ん―――っ……ん?」

猫が伸びをするみたいな感じで、お助け屋さんは目を覚ました。

細い腕を天井に向かって、思い切り伸ばす。

その顔が徐々に不思議そうに歪み、辺りをキョロキョロ見回す。

これはもしやと歩み寄ると、顔をぐいと近づけてくる。あぁ、やっぱり。


「…えぇ――とぉ―?

どちらさんでしたっけ??」


ボケているのかと思った。失礼かもしれないけど。

だけど何分、彼の銀色の瞳が真剣そのものであったので

「小羽、です。あなたと契約を交わした者でして、ここは私の家です。

昨日から、あなたは此処に――」


「あ―!思い出した、思い出した。小さい羽で小羽ちゃんね。

いやねぇ、ここら辺にはちゃんと記憶として入ってたんですよ―」

言いながら、頭の一部分を人差し指でつつく。

「…はぁ。」

「ってことで、おはようございま―す。」

欠伸を噛み殺しながら呑気に言う。

ペこりと頭を下げ、私も「おはようございます」と返す。

蝉がけたたましく鳴きはじめる。

「ねね、今日って学校行く日なのかい?」


朝食中――と言っても、食べているのは私だけなのだが。

お助け屋さんは体を左右にユラユラさせて尋ねてくる。妙な動きだ。

「はい。今から30分後に家を出て、徒歩15分ほどで高校に着く予定です。」


「ふんふん。なーるほど。じゃあ、私も今から着替えとこっと。」

「……?」

「だって、つまらないでしょう?昨日と同じなんて。」口元をにぃっと吊り上げて笑う。

私としては、"何で着替えるのか"ではなく、"何に着替えるのか"の方が気になった。


なぜなら、お助け屋さんの荷物など、一つもないのだから。


すると、何も気にすることなく、彼はいきなり右手を何も無い空間に突っ込んだ―と思ったが、突っ込んでいる右手の先が見えなくなった。

つまりそこは

"何も無い"空間ではなかったのだ。


しばらくその右手は、探し物をするようにあちこち動き回っていたが、ついに求めていたものを見つけたのか、ぐぃっと引き出した。

抜き出した手には、青紫色のものが握られていた。

よくよく見ると、それは高価そうな装飾が施された見事な着物で、菖蒲の花がとても美しい。お助け屋さんはさも当然といった顔で、今まで着ていた着物を脱ぎ、しなやかな手つきで菖蒲の着物に着替える。

あっという間だった。


それにしても、だ。

初対面の時から思っていたことが一つ。


「――男ものの着物じゃないんですね。」


「あ、やっぱし気づいた?」

へらりと笑うと、帽子の上から頭をかく。

「着物とか、特別詳しいわけではありませんが…

あまりに、その、

華やかなので。」

「ですよねぇ―。流石女の子だ。

これね、ある女性の形見なんですよ。」


「形見、ですか。」

思わぬ答えに一瞬固まった。しかし、お助け屋さんは気にしてなさそうだったため、私も気にしないことにした。

「羽織るみたく着やぁ、着られんことも無いんで借りてるんですけどね。

やっぱり変ですよねぇ。」


「いえ。なんで女物着てるんだろう?とは思いました。でも変ではないと思います。一般論は分かりませんが、少なくとも私はそう思います。」

お助け屋さんは

"ある女性"としか言わなかったけれど、何となくわかる。

きっと、大切な人なのだろう。


「そりゃどーも。

にしても本当、お前さんは受け答えがはっきりしてる。立派なことだね。」

いまいち釈然としない。

残った味噌汁を一気に飲み干す。

「…立派、ですか。

でも実際、そんなこと思ってないですよね。」わたしより遥かに上の方にある、お助け屋さんの顔。上目遣いに見ることしかできない。


少し笑ってみせた。


ふぅ、と息を吐く。 「気の抜けないお嬢さんだね、まったく。」

私は、食器を片すため立ち上がった。



――食器洗いで5分、洗顔・整髪で約15分、着替え5分として見積もると、いつもより5分ほど家を出るのが遅くなるが、さして問題ではないだろう。

少し早めに歩いて行けば余裕の範疇で学校に着くはずだ。


お助け屋さんとの会話で、少し乱れてしまった予定を立て直していると、後ろで妙な笑い声がした。

あえて聞こえなかったことにしよう、と、下げた食器洗いのスポンジに手を伸ばしたところ、


「見て、ゴキブリ――」

振り返ると、お助け屋さんが片手に黒い小判大の物体を持って、自慢げに見せている。


「…………………」


声が出ない。


顔を引き攣らせながら、

無言でゴミ袋を差し出した。


結局、家を出るのは大幅に遅くなり、走るしかなくなった。

遠慮なく言うと、99%、お助け屋さんのせいである。残りの1%は私の適応能力がついていけなかったせいだ。

それにしても、あまりに酷すぎるのではないだろうか。

食器洗いを手伝うと言うので任せれば、食器用洗剤でなくポンプ式薬用石鹸で洗われた。

幸いと言うべきか、途中私がそれを目撃したため注意はできたが、最終的に3枚の皿のうち、2枚が帰らぬ皿となった。

割れた破片を素足で踏んだらしく、彼が歩き回ったであろう所には点々と赤いシミができてしまっていた。

何故痛みに気づかない。そう言いたくなったが、当の本人はのほほんとしていて言う気が失せた。

そして皿の残骸や血の処理をしているうちに、みるみる時間が過ぎてしまった。

まったく計算外だ。


横を並んで走る男を、軽く睨みながら走り続けた。

* * * * * * *


「よかったですねぇ。

なんとか間に合って。」


涼しい顔して机の横に立つお助け屋さんを尻目に、なかなか止まらない汗にハンカチをおっつける。

夏場の全力疾走は

17歳といえど堪える。


「あれっ、峰岸さん珍しいじゃん。

いつも余裕で登校してるのに。」

お助け屋さんとは逆方向、左隣りの席から声をかける者がいた。

「――あぁ、おはよう守屋くん。」

先月行われた席替えで左隣りになった、守屋行人(モリヤ ユキト)くんは、何と言うか、かなり顔が広い。

ヤンキーのような見てくれの友人から、分類してしまうと言わば地味な感じの友人までいる。

女子ともいつの間にか打ち解けるので、非常に社交的な人間であることに間違いない。

皆からは確か、モーリーと呼ばれていたと思う。

にっ、と笑って「おはよ」と返してくると、一瞬私じゃない方に視線が行った。私が小首を傾げると、愛想の良い顔で「何でもない」と言って、直後に誰かに話し掛けられたので

私との会話は途切れた。


「ほーう。小羽ちゃん、お友達いたんだねぇ。」おちょくっているかのような言葉だが、言い方からして悪意は感じられない。

悪意がないのなら、こっちが気にすることではない。

(友達……というか、ただのクラスメイトなのですが、)


教室に入る前、お助け屋さんに言われたこと。

"心で喋って"


昨日言われた通り、見えない人にとって彼は存在しないものだ。

しかも、"見えない人"というのは世間一般の人間をさす。

そのことを分かった上での配慮だとすぐに気づいたので、素直に従う。


「幅広――く、色――んな人と親しいようだ。

お友達が沢山いる方なんですねぇ。」

……?

なんだか意味深な言い方だ。私の考えすぎだろうか。

間もなくして、1時間目の授業の先生が

大柄な体を揺らしてやって来た。

腹の底から、よく通る声で話す先生を見るなり、お助け屋さんがくくっ、と押し込めるように笑う。

私以外には見えないし、聞こえないというのに。


「この教室を支配する、大魔王みたいだねぇ。」


……………。


1時間目が始まって、15分も経たない頃だった。

「ちょっと、散歩してくる。」

昨日と同じ言葉を吐いた。きっと授業に飽きたのだろう。

始めの方こそ、先生の顔をまじまじと眺めてみてはクスクス笑っていたけれど、それで何十分も潰せるわけなく、今では机の脇で胡座をかいている。


(はい。)

「よっこいしょ」と立ち上がって、黒板をかじりつくように見る生徒の中を、避けようともしないで突き進んで行った。

"物"は触れる、と言っていなかったか?

しかし、目の前で歩いて行く姿は完全に机や椅子を通り抜けている。



「ねぇ、峰岸さん。」

授業終了後、「次までの宿題」と教師に言われた解きかけの問題にシャーペンを走らせていると、左隣りから声がかかった。

見て確かめるまでもない。守屋くんだ。


そう分かっているので、頭を上げずに「待って」と言った。

「あと1分ほど待って。

今やってしまわないとキリが悪くて。」

「うん。 」



「よし、解けた。」

シャーペンを机に置き、一息つく。

「待たせてしまってごめんなさい。それで、何の用かな。」

真っ直ぐ体を左に向ける。

「あぁ、うん。」

悪戯っ子がそうするみたいに笑う。



「友達にならない?」



* * * * * * *


急だ。

授業終了後、先月席替えして隣になっただけのやつに言う台詞じゃない。

それくらい、私にだってわかる。


「―その意図は?」

「気が合うと思うんだ。

てか、仲良くなりたい。」 相変わらずニコニコ嬉しそうに笑い続ける。

疲れそうだな。

それにしても、どうしたものか…。


「あのね、守屋くん。」

「うん?」

「意味がよく分からないのだけれど…」

「え―――っ!」

「そんな、え―!って言われても。」…面倒臭い。

宿題はあと3問残っている。

学校で済ませたかった。

少し皮肉をもって、自分の机に乗っている宿題に目を落としていると、「俺さ、」と口を開いた。

「変な人好きなんだよね」


は…………

何を言い出すのかと思えば。

「……それは、私を"変人"だと言いたいのかな。」

「あ、ごめんごめん…!!!言葉選び間違えた!!なんてゆーか、独特の雰囲気ってやて?俺、めちゃくちゃフツーのヤツじゃん。

だから峰岸さんみたいな秀才美女ってすっげー憧れなんだよね。」

一気にペラペラと話す顔は、さも当然って感じで呆気に取られた。

しかし、納得できる要素は充分にあった。

守屋行人は顔が広い。

一般的に"類は友を呼ぶ"方式で周囲が友達作りをする中、彼だけは自分とあまり縁のなさそうな派手な人、陰気な空気を醸し出す人へ、自ら進んで笑い寄って行った。

それが、彼等に対しての"憧れ"から来るものだったとは知らなかったけれど。

自分が持っていないものを持つ人に、崇拝する傾向があるのだということを言いたいのだろう。

平穏を好む私には、到底理解できるはずもないが。


「そういうわけでさ、友達になってくれない?」

尻尾を振る犬の如く、カラリと乾いた笑顔で返事を待っているのを見、わしゃわしゃ頭を撫でてあげたくなる気もしなくもない、とか何とか思っていると、後頭部を手でぐっと掴まれる感触がした。

振り返ろうと身をよじる―が、その手の力が上回ったため、そのまま無理矢理下を向かせられた。


「いっ………!?」

下を向かせられると、直ぐに手の感触は無くなったので、後ろを見た。


「た―だいま―」

まっさきに視界に入ったのは菖蒲の花と鮮やかな青紫色。

そして着物の結び紐。

次に頭をぐっと上へ向けて見えたのは、青白いほど色素の薄い顔でヘラヘラ笑う若い男。―お助け屋さんだ。

「何す……」思わず声を出しそうになって、急いで止めた。守屋くんがいることを忘れていなかったからだ。

「そっか!!よかった!

これからもよろしく、峰岸さん。

俺のことはモーリーって呼んでくれていいからさ。」 「え!ちょっ……」

何故、守屋くんの要望を了承したことになっている……?

反論しようと口を開いたところで、タイミング悪く始業の鐘が鳴り響き、先生が入ってきてしたまった。

愕然として、思い当たることが一つ。

お助け屋さんが頭を掴んだせいで、"友達になってくれない?"に頷いてしまったことにされたのではないか、と。

……サイアクだ。

今更断るにも、言い訳できない。

顔中の筋肉が強張る。

(この男………、まさか故意にやったんじゃ。)

引き攣る顔で、机の右下で胡座をかくお助け屋さんを見下ろす。

視線に気づいて、目が合う。

帽子とくたびれた茶の髪の隙間から、左目が意地悪そうに銀色に笑った。


「あいたっ」声を出して怒れないストレスで、無意識にお助け屋さんの頭をチョップした。

数秒間、周囲から奇異の視線を頂いたのは言うまでもない。

しかし、私はチョップしたことに何の後悔もしていない。それだけは、胸を張って宣言できるのだ。


――まぁ、冷静に考えれば"友達になった"

ただそれだけのことだ。

今までとなんら違いはない。

思わずお助け屋さんに手が出たのは、私の体を使われた感じがしたからだ。

私の体は、本来私の意志で動くはずのもの。

なのに先程は、私の意志関係なしに、体を動かされたから。

だから、なんというか…はっきり言って嫌だったのだ。

「くくくっ………」


足元で忍び笑いが聞こえる。ただし、私の耳にだけ。

しまった、と思った。また心を読まれた、と。


「小羽ちゃんは本当、面白いねぇ。

そんなに不本意なことがお嫌いかい。」

ちら、と足元に目を落とすと、ばっちり目が合う。

銀色の静かな輝きに魅入ってしまう。

悲哀に満ちて、消えてしまいそうで、

(嫌い、です。予想外な展開なんて期待してません。できるだけ、頭の中で作ったシナリオ通りに物事が進んだ方が、私としては困りません。

嫌なんです、)


心の中で言って、すぐお助け屋さんの陶器のような唇がそのままの口調で言葉を口にした。


「不本意に、あんたのご両親は亡くなったから?」


―――――ああ、そっか。

この人には何も隠せないんだな。隠してるつもりは微塵もなかったけどね。


(まぁ、そうなんでしょうね。)

意外とすんなり認めることができたのは、もう吹っ切れたからだろうか?

やはり何年も経つとだめだ。思い出しても涙すらでてこない。

もしかしたら、人間としてすでに私は終わっているのかもしれない。


あの日流れたアカイロも、今はぼんやりとしか思い出せない。



「はい、じゃ問5答えて峰岸さん。」


女性教師の鋭い声が私に向けられた。自然と周囲が静まり返る。

「わかりません。」


問題を解いてないから、嘘は言っていない。

ただ、少しだけ視線が痛い。

問題一つ答えられないせいで、時間を無駄にしてしまった先生には悪いことをした。

「あら……珍しいわね。

じゃあ、鈴木さん。わかる?」

「あ、はい。」

とりあえず、しつこく聞かれなくてよかった。

ホッと一息ついていると、左から守屋くんが「大丈夫?」と聞いてきた。


「平気。」


心配してくれているのだから、できる限りの感謝をこめて言った。じゃなきゃ失礼だ。

守屋くんはあまり納得はしてなさそうだったけど、「それならいいんだけどさ…」と言っただけだった。


30分くらい経ったとき、突然腕を掴まれた。

正直、心臓が跳ね上がった。

(今度は何です、お助け屋さん。)

軽く睨んで見下ろすと、ややしょんぼりした顔を向けてくる。


びっくり、した、


「ごめん。」



え―と………

「よくよく考えてみたら、授業中に言うことじゃなかったかな―って。」

ずっと考えてたのか、この人!

久しぶりに笑いそうになったが、寸手のところで止めた。自然と穏やかな気持ちになる。

(別に気にしてないです。大丈夫です。)

お助け屋さんは驚いたように銀の瞳を見開いて「ええ―」と間の抜けた声を出した。

「ほんとに?」

(嘘ついてどうするんですか。)

「だってなんだか、怒ってるみたいじゃないの。」

(すみませんが、元々こんな顔です。それでは、私は授業に集中しますので。)


負い目を感じているのか、それ以降お助け屋さんは静かにしていた。

ぼ―っとしているのかと思ったらよく考えてたり、何も考えてなかったり、

お助け屋さんって変な人だ。私が言うのもなんだけど。

次話に引き続きます。

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