嘘つきケーキ
璃子の心情に飛びます。
「ねぇ、璃子。
苺とチョコ
どっちがいい?
ケーキ作ろうと思うの。
そう。
璃子の誕生日ケーキ」
そんなことを言っていたのは、一体いつの日の夕方だっただろう。
突然夕方の空が見たいと言い出したあの人に仕方なく付き合い、あたしは屋上に行った記憶がある。あたしたち家族はマンション暮らしで、梢姉はよく屋上に行きたがった。
何をするでもなく、ただ目の前に広がる空と空気を見つめるだけ。
不思議と、いつもあまり楽しそうじゃなかった。
けれど、あたしよりも
顔が良くて頭も良い。
入っていた美術部でも結果を残していた。
姉のように、
あたしはなりたかった。
それなのに。どうして?
「璃子、どっちがいい?」
口の端っこをくっ、と持ち上げて、嘘だか本当だかわからない微笑みを向けられた時、
どうしてあたしは気づけなかったのか。
あの人は多分、最後にあたしに気づいて欲しかった。
だから
屋上に行こうと誘ったんじゃないのか。
あたしは、姉が泣きそうな顔で言ったから、面倒だと思いながらもついていったんじゃないのか。
「ケーキ、作ろうと思うの」
――ほんとうに?
今となって思う。
あれは、あの人の最後の強がりではないかと。
いつかの予定があれば、少なくともその日までは生きているつもりだ、と分かるから。
ケーキを作る気なんかなかったくせに。
「んー、チョコ」
―――畜生。
思い出すたびに、胸の中に苦い後悔が広がる。
あの寒空の下、優しいオレンジ色に照っていた色白の肌。
風になびく長い髪。
取り返しのつかない所まで沈んだ瞳の黒。
―何かしていたら、
―救えていたら、
その時が絶対来ないのが、いつまで経っても腹立たしい。悔しい。
「了解。頑張って作るから、楽しみに待っててね?」
嘘つき。
大嘘つきだ。
なぁ、あたしはいつまで待ってりゃいい?




