あの日の雪は、まだ冷たいか。
――あの日はたしか、雪が降っていた―――
璃子の記憶です。
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雪が、降っていた。
細かくて、手の平に乗せたら消えてしまいそうな。雪。ひょっとしたら、積もるかもしれない。
―12月28日
午前8時43分
黒髪ショートの少女は、その日付けを目覚めた時から認識していた。
だって、今日は。
「璃子っ、誕生日おめでとー!!」
同じバスケ部の仲間、斎藤あやめが、ストレッチをしながら笑いかけてくる。
「ありがと」
こそばゆい気持ちになって礼を言う。璃子は今日で14歳になった。
中学に入学して、早くも2年が過ぎ去ろうてしていた。入学当初、特に部活には関心がなく、入るつもりはさらさらなかった。
しかし原則として、ここの中学では帰宅部を認めていない。
やる気はないものの、幼なじみであるあやめに、半ば引きづられるようにして今のバスケ部に入部した。
元々、運動神経は良い方だったし、何より皆人辺りがいいから、部内で浮くこともなかった。ついには、部の副キャプテンに選ばれたのだから不思議なものだと思う。
冬休みに入るなり、その初日から部活が始まるほどやる気のある部活だが、それでも毎日が楽しかった。
「りーこ、本当に誕生日パーティーやらなくていいのー?」
突然後ろから抱き着かれる。こんなことをするのは、優花しかいない。
「明日、練習試合入ってんじゃん。今日だって、先生張り切って午後まで練習あるし。
早く帰って寝たいよ。
はい、そろそろ離れようか優花」むー、と口を尖らせて、優花は渋々離れる。
「つまんなーい。折角色々楽しみにしてたのに」
彼女は部内の妹的存在で、おかげで場が和んだことは幾度と知れない。
甘える仕草も、彼女には自然と許されていた。
「気持ちだけ、頂くよ。でも優花、あんた、あたしを祝うってのより、何かおいしいもの食べに行きたいだけでしょ」
「えっ!?ひどーい、そんなことないもん」言いつつ、瞳がキョトキョトと動き回る。
苦笑すると観念したみたいにヘヘ、と笑う。
「いいなぁ。ケーキ食べられるんだもん。
今年はオネーサンの手作りなんだって?
羨ましー。りーこのお姉さん、ものすごーく頭良いし、キレイだし。私もそうゆうお姉さん欲しかったなぁ」
転がっていたボールを手に取り、おもむろに弾ませながら言う。
「そりゃどーも」
わたしには、3つ歳の離れた姉がいる。
入れ違いでこの中学を卒業し、この辺ではエリート校として有名な県立高校へ進学した。
中学でずっと成績が1番だったらしいから、当然だろう。だから、中学の先生たちは姉のことをよく知っていて、入学当初は色々な先生に話し掛けられた。
"もしかして、望月梢さんの妹さん?"
"お姉さんは大変優秀でねぇ、――"
比べられることは少なくない。
けれどわたしは、そんな姉が誇らしかったし、憧れでもあった。本人には意地でも言わないけど。
――容姿端麗で成績優秀。
みんなが姉をそう言った。
「望月 梢」―モチヅキ コズエ
あたしの姉の名前。
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