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お説教

長らく放置してしまい、すみません。読んでくださる方々にはとても感謝しております…(>_<)


* * * * * * * * * * *


「――で、守屋と峰岸。お前ら二人とも5時間目どこ行ってた?

ちなみに守屋、お前、保健室に行くと言ったそうだが、瀬戸内先生は来てないとおっしゃってたぞ。

一体どこの保健室に行ってたんだ?え?」


瀬戸内先生とは、この学校で多分結構若い方に入る女性保健医である。

清潔な印象で、生徒からの評判も良い。

そして今、私と守屋くんの目の前にいる男性教師は、クラス担任の坪倉先生。

恰幅のいい、大柄な人で、前にお助け屋さんが"クラスを支配する大魔王みたいだ"と爆笑した先生でもある。

あの時は、その言いようはあまりに失礼だと彼を非難したが、なるほど、こうして改めて説教されてみると大魔王並の迫力がないとも言えない。

むしろそれ以上の威力があると言っても過言じゃないのでは。

大きくギョロリとした黒目がこちらへ向けられる。 「守屋はともかくとして、峰岸。お前が授業サボるなんて、こっちが驚いたくらいなんだ。なんかあったのか?」

「うわっ、先生ひでぇ!なんだよ守屋はともかく、って!俺がサボり魔みたいじゃん」


たしか教員歴16年のベテランだと言っていたか。

さすが、ベテランともなると生徒を頭ごなしに叱り付けることはしない。

話し合おう、という姿勢が窺える。


「―……すみません。ちょっと、探し物をしていて。うっかり時間が経つのを忘れてしまいました。それを、守屋くんがたまたま通りかかって手伝ってくれたんです」何となく、こうなることは予想していたので、既に頭の中に作っておいたセリフをそのまま言った。

ぎょっ、とした守屋くんを見て、坪倉先生が「探し物?」と怪訝そうに顔をしかめる。

多少無理があったかな。

でもまぁ、言ってしまったからしょうがない。

「はい。あの…私が特別にアルバイトを許可してもらっているのは、坪倉先生ご存知ですよね」

「ん?ああ……まあな」

守屋くんが心配そうにこちらを窺ってくる。

ちらちと一瞬目配せをして、言葉を続けた。 「許可をもらう際に話したと思いますが、私は生活費を叔父や叔母にお世話になっています。ですから少しでもその分を返そうと思って、月に一度、僅かではありますがバイトで貯めたお金を送っているんです。学校に大金を持って来るべきでないのはわかっていたのですが、土日はどちらもバイトが入っているため忙しく、やむを得ず、そのお金が入った袋を持ってきました。そしたらどこかで落としてしまったらしく…

守屋くんに事情を話したら、わざわざ授業を投げ出して探すのを手伝ってくれて。守屋くんが嘘をついたのも、私を気遣ってくれてのことなんです。守屋くんは悪くありません。叱るのは、私だけでお願いします…」


深めに頭を下げる。

すると、先生の声色が少し変わったのがわかった。 「―――で、」

短く言葉を切る。

私は下げていた頭を、様子を伺いながら上げた。

「見つかったのか?」

「あ……はい。守屋くんが見つけてくれました。ですが、先生に何も言わず………授業をサボるかたちになってしまったのは、今更ながら反省すべきことだと思います…すみませんでした」


軽く目を伏せてみる。

先生が手首に付けている腕時計。その文字盤が目に入る。

あぁ、これ以上の説教はあまり私にとって宜しくないな。今日は月曜日だ。バイトがある。

「守屋、峰岸が言ってる通りなのか?」

いきなり先生に話を振られて、びっくりしたように目を丸くする。

「えっ、まぁ……ハイ」守屋くんは正直な人だ。

なるほど。嘘はあまり上手ではない。

目が不安げに揺れている。大丈夫だろうか…。

心配になって、伏せていた目を上げて先生の様子を盗み見ると、

「とりあえず、事情があったということはわかった。今日は二人ともサボり1回目だから大目に見てやるが、今後はもうサボるなよ。何かあるならちゃんと報告しろ。

じゃ、そんだけだ。帰ってよし」

ほっと胸を撫で下ろす。

信じてくれたようだ。これで帰れる。

「「はい」」

たまたま返事がハモり、守屋くんが照れ臭そうに笑う。心臓がくすぐったく感じたのは気のせいだろう。そうして、私と守屋くんはお説教を終え、職員室を出た。安堵のため息が零れ、そろそろと歩き出す。


「あ―――びっくりした!峰岸さん、何気に嘘上手いなぁ!!てっきり正直に全部話しちゃうんじゃないかと思ったよ―」

悪戯が成功した子供みたいに、表情をキラキラさせて言うものだから可笑しい。目に見えて足取りが軽かった。

守屋くんほどわかりやすい人ばかりだったら、誤解を受けずに一生生きて行けるんじゃないだろうか。

「そうかな。そうでもないと思うけど…。それに、さっき言ったことも丸っきり嘘ではないし…」

「えっ!じゃあ、お金送ってるの?毎月??」

「あ、いや……私はそうしたかったんだけれど、あちらがどうしても受けとってくれなくて。

結局一度も送れてない」

そういえば、最初にそのことで叔母に電話をかけたとき、電話越しに泣かれてしまったっけ。あなたのために生活費くらい出させて、と。

さすがに私でも焦った。

何を言ったかは覚えていない。

「――ってことは、ほぼ嘘ってことだよね??」

「そうなる……かな」

守屋くんは笑いを押し殺している。弁解をするわけではないが、付け加える。

「こういうのは、いかに本当らしく聞こえるかが大事だから。しかも先生がなかなか触れづらい内容でしょう、私の家庭事情って。

それに、」

手首の時計に目をやる。

少し走れば間に合いそう、かな。

「早く帰りたいなって思ったから」

「ははっ、俺も思ってた!水曜からテストあるしさ。数学で全然わかんないとこあるからヤバいんだよね。今回こそ赤点とるかも…」

苦々しく笑う。

私は別にテスト勉強がしたいという意味ではないのだが…

そうか。守屋くん、数学で困っているのか。

友達としてすべきことは、一つに絞られた。

だって赤点は、あまりにヒドイ。

「…もしよかったら、協力するよ。明日にでも―」

「え!?」言った途端、バッとこっちを見る。目は点になっていた。

「まじ!?教えてくれんの…?!」

「あ………っと、偉そうなこと言ってごめんなさい。一応、数学得意だから」 「そんなこと!思うわけないじゃん。

……うわ――、すげー嬉しい」


―――顔が真っ赤だ。


満面の笑顔。

笑顔が咲いた。

自惚れだろうか。

こんなに喜んでくれるなんて、思ってなかった。


「………じゃあ、私、今からバイトがあるから急ぐね」

「あ、そうなんだ。頑張ってね。また明日っ!」

ヒラヒラ手を振るのを見て、ぎこちなく振り返す。

ここで、にこりとでもすれば感じいいのだろうな。しかし、私にはそんな余裕はなく。

思った以上に、感謝されたことに動揺した。ドクドクと五月蝿い心臓の音を隠すように私は逃げ出した。

体の中が、無性にカユイ。じっとなどしていられなかった。


なんだこれ。




幸い、この時の異変はこの時だけで済み、喫茶夕凪で大きな失敗をするとか大それたことはしなかった。

ただ、店へ入った時は店長に「どうしたの?変な顔して」と指摘を受けただけである。

特にしつこく聞かれたわけではない。

「大丈夫です」の一言で引き下がってくれた。

小羽は自覚ありませんが、確実に守屋くんとの距離は縮まっています。

今後も温かく見守ってくださると嬉しいです

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