表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/35

離さぬ手

"彼女"の登場、です。

今まで出てきた人物少ないので、すぐわかかもしれませんが…。



顔が、あつい。

それもそのはずで、夏の陽射しは今ぐらいの時間が一番強いのだ。いくら風が吹こうとも、ぬるい、体温並の風では意味を成さない。なんだって黒田くんは、ここがいいのだと言うのか、よくわからない。ただ暑いだけではないか。

太陽の眩しさに目を細める。

空が青い。

「あの、黒田くん。話って何かな。昼休みはあと10分で終わるよ?」

あんなに急いでいるように見えたのに、ここへ来るなり彼は黙ったまま、私に背中を向けている。

どうしたと言うのか……すると黒田くんは人の良さそうな笑顔で振り返った。

相変わらず、顔色が優れない。

「あぁ……ごめんね、峰岸小羽さん。僕ね、ずっと君に興味があったんだ」

「……?」

意味がわからなかった。

……興味?

顔をしかめる私に、黒田くんはす、と歩み寄ってきて囁く。

冷たい音が耳から体へ流れてくる。

「ユーレイ、見えるって本当なんだね」


目を見開き、彼を見る。

笑顔だ。

でも―――コワイ。


「何言ってるの」

緊張か動揺か、声が掠れて気持ち悪い。

先程まで胸中に広がっていたドロドロが、鉛みたいに固まって重くなる。

"モウ、逃ゲラレナイヨ"と嘲笑うかのように。

火照った頬は、今や完全に冷えてしまった。

「へぇ、君、わかんないんだ。

面白いね」

クスクス笑うその顔は、ひどく冷やかで、それでいてどこか淋しそうだった。

じっ、と彼の目を見つめてみると、突如びっくりしたかのように小さく肩が震えた。

ほんの一瞬のことだった。 「これでも、わかんない?」

「………え」

何を思ったか、彼の方に軽く顔を押し付けられる。

どこかで嗅いだことがあるような、枯れ葉の匂いがした。

あと、温かみを感じさせない、モノみたいな肉体感。

この感じは、お助け屋さんと同じだ。

予想外の事態に混乱寸前になる。その時、後ろからきつめの女の声がしたのだ。


「一人で何やってんの、あんた。イヤガラセにでも来たわけ?」

私はその声が誰か、すぐにわかった。

――望月璃子。

「いや、イヤガラセのつもりはないよ。ただ、黒田くんと話してて」

黒田くんから僅かに逃れ、彼女の方を向く。

記憶と寸分の違いなく、派手に化粧をした望月璃子が右手を腰に当てて、仁王立ちをしている。

ドアが開いた音はしなかったから、おそらく彼女は私達が来る前からここにいたのだろう。

目を懲らすと、ちょうど入り口から死角になるところに雑誌やら食べ物やらが散らかっている。

随分と寛いでいたと見える。

それはさておき、気づかなかったのは申し訳ない。

「……は?何言ってんの。あんた一人しかいないじゃん」

ギロリと睨んでくる。

今日も見事なアイメイクだ。迫力がある。

別に事実を述べただけだ。

睨まれるようなことは一切していない。そのはずなのに、

「?ここに、黒田くんがいるでしょう?」後ろを振り返る。

にこにこと笑みを浮かべる彼の姿が確かにあった。

しかし、望月璃子の眼光は益々厳しく、苛立ったものになった。

「あたしを馬鹿にしてる?あんたしかいないっつってんだろ。

しかも誰だよ、黒田って」

「誰って、同じクラスの黒田くんだよ」

「そんな奴いねーよ。なにそれ、ボケ?」

「そんな、」

馬鹿な。

愕然とする私に、彼女は嘲笑う。 「あんたさぁ、勉強のしすぎで頭イカれたんじゃないの?それともなに、ユーレイ見えるとか、あれマジなわけ?」

"ユーレイ"。その言葉にはっとして、再び黒田くんを見る。

笑顔はまるで作り物の仮面に見えた。

「黒田くん、生きてないの?

ユーレイ…だったの?」

暑い陽射しの下、私の言葉は冷たく響いた。

そういえば、お助け屋さんに会った時も、私は彼が生きた人間ではないとわからなかったっけ。

とすると、今回で二回目だ

全く改善されていないな、私。

半分自分に飽きれつつ、私は今から自分がどうなるのかを予想してみる。まず、


「あはは!やっと気づいたんだ。案外馬鹿だね、君」


「――いっ、」


左腕に黒田くんの指が深く食い込む。

爪を立てているせいか、結構痛い。人の良さそうな笑顔は、私を殺そうとしている顔へ変わっていた。

そのまま屋上の淵まで連れて行かれ、私をフェンスへたたき付ける。

―――――ガシャンッッ。


色褪せた緑色の金属が視界に写る。衝撃で膝をつくと、一瞬たりとも待たず襟足を掴まれ、強く、強く後ろへ押し付けてくる。

フェンスがギシギシと苦しそうな呻き声を上げる。

加えて、望月璃子の声。

「ちょっと、あんたなんなの?何――」

「あ…すみません、望月さん。今すぐここから立ち退いてくれると嬉しいんだけど。早く」

黒田くんは、やはり、ユーレイとなっても男だという事実は変わらないらしく、ものすごい力で締め上げてくる。だから決して喋るのは楽じゃなかった。

しかし、あくまで彼女―望月璃子は無関係だ。

黒田くんが彼女を襲う可能性も0とは言い難い上に、この後起こるであろう惨劇を目の当たりにさせるわけにもいかない。

惨劇とはつまり、私が殺される現場である。

普通の人であれば、そんなもの見たくないはずだ。

私だって願い下げする。

「はぁ?後から来て何様だよ、あんたが出ていけば」


舌打ちしたい気分だった。

彼女には、私の伝えたいことが一つも伝わっていない。

まぁ、普通伝わらない…か…。


背中が鈍い痛みを感じる中、私はもうほとんど呼吸ができなくなっていた。

今では少し、視界が霞んでよく見えない。




「んなっ!!?あんた何やってんだよ!」


望月璃子の甲高い声が脳内でよく響く。

ああ、驚かせてしまったな。

本当、申し訳ない。

私は黒田くんに締め上げられた体勢のまま、無理矢理立たされた。

背後のフェンスは私の胸元ほどの高さであり、黒田くんがちょっと私を持ち上げて押せば、確実に落ちるだろう。

その先は、あまり考えたくはないが、ほぼ100%、命はない。

全身強打で無惨に死ぬ。

骨が砕け、肉は潰れ、私の血は地面に張り付く。


「へぇ、君、全然抵抗しないんだね?みーんなが君を狙ってたっていうのに。

こんなあっさり殺せるなんて思わなかったよ。

……もしかして、死にたかった?」

ほんの少し、彼の両手から力が抜ける。

私に話す許可をくれたようだ。

欲を言えば、手を離して欲しかった。まだ、苦しい。

「抵抗、してます。あなたの力が強すぎて、意味を成さないだけ。それに私、死にたいわけじゃないのですが…」


嘘じゃない。

できれば死にたくない。

教室から落ちた時も思った。

"私は死にたくない"と。


「じゃあなんで、どうでも良さそうなんだよ。まるで落とされるのを待ってるみたいだ。

言っとくけど、本当に落とすからね」

冷気が漂う。

彼が本気だと雰囲気でわかる。

彼は絶対私を落とせる。

ならばすぐ落とせばいいものを、わざわざ私に「落とすからね」と報告してきた。

それは何故か。


「冗談言ってるなんて思ってない。目が本気だもの。

だけど、仮に私が生死に対してどうでも良さそうな顔をしていたからといって、どうしてあなたが気にするの」

目の前にある2つの目を見据える。嫌がりように逸らされた。不自然に口元を笑う形に見せる。私が言うのもなんだが、下手な笑い方だ。

「つまんないな。そのキレーな顔、もっと怖がったりすると思ったのに。

喚いたり、泣き叫んだりしてさ」

「すみません。期待に応えられず」

見据えたまま、淡々と言う。

緩んでいた彼の手に、力が篭る。

そろそろ落とされるのかもしれない。

最後に一言だけ、謝っておこう。さっきからずっと気になっていたことを。


「それと、あなたにそのようなカナシイ顔をさせてしまって、ごめんなさい」

「…っ、なん、で……!」

目を見開き、私をまるでオソロシイモノでも見るような目で見る。口元が引き攣っている。

「気のせいだった?あなた、ずっと泣きそうに見えたので」

てっきり私のせいかと思って……と言おうとしたところ、予想外にも怒りで震える黒田くんの声で遮られた。

「―五月蝿いよ。なんだって君は平気なの?僕が手、離したら君は死ぬ。

死ぬんだ。

それとも死ぬってことが分からない?じゃあ、教えてあげようか、」

寂しそうに、眉間にシワをぐっと寄せて話し始める。

「後悔しても、喚いても泣いても、やり直しが利かないってことだ。"今まで"が失くなって、"これから"が二度と来ないってことだ。――この世から、存在を消すってことなんだよ。

君はわかってない。

僕らがどれほど…………!!」

最後の言葉を、彼は寸手のところで飲み込み、そして再びそれは言葉として出されることはなかった。肩で大きく息をし、鋭い眼光でひた、と見つめる。体勢が崩れ、私の体はフェンスの外側へぐらりと傾く。

黒田くんが私の襟から手を離したのであった。

奇妙な浮遊感を味わって、そのすぐ後、ものすごい衝撃が私を襲った。




「ふっざけんじゃねぇ!!あたし居るってのに落ちる馬鹿いるかよ!?あんた、あたしを殺人犯にでもする気?!」



「………………望月さん」



酷い声。

この世が割れてしまいそうな罵声。頭がガンガンする。

何が起こったのか。

私は一瞬で理解できた。

彼女の細い腕が、私に向かって伸ばされていて、その手はしっかりと私のシャツを掴んでいる。間一髪、と言ったところか。

私は死んでいなかった。

「一応、あなたに立ち退くようには言ったけど」

「――ちっ、礼もなしにわけ?やな奴」

「あ、そうか。ごめん。助けてくれてありがとう」

小さく頭を下げる。

しかし彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らし、

「おせーんだよ。感じ悪いし。

いいから、さっさとこっち降りれば、」

それもそうだと思い、彼女の引っ張るままに着地しようとした、が。


「邪魔、しないでよ」


低く響く、唸るみたいな声がしたかと思うと、黒田くんは右手で私の体を勢いよく突き飛ばした。


「―――…っは?!」


黒田くんが見えない望月さんは、わけが分からなかっただろう。

彼女にしてみれば、いきなり私の体が重くなったのだから。

「な、んだよ…これっ」

「死んでよ。そうすれば僕は――」



二人の声が重なって聞こえる。そろそろ腕が苦しいだろう望月さんと、何がなんでも私を落とそうとする黒田くん。

どちらが勝つか、それはもう、男と女の時点で分かりきったことだった。


「望月さん。腕、痛いでしょう?無理しないで。離していいよ」

「――!?な…に、言ってんだ…!離したらあんた死ぬだろーが」

「そうだけど……多分、望月さんがどんなに頑張ってもこれはどうにもならない。

私はここから落ちる。だから、」

「うるさい!!!無理に決まってんだろ!目の前で死ぬとこなんて見たくもない。あんたも涼しい顔してないでどうにかしろよ!」

「…これでもいっぱいいっぱいで……。望月さん、私が嫌いなんでしょう?それでもこの手、離せないの?」

「嫌いだよ。大っ嫌いだ。すかしてて、何でもできて、欠けてるよーなとこ無くて、性格悪そうで、他人行儀で見下してるような目ぇしやがって。

目障りだし、関わりたくもない」

「…………」そこまで言われると、さすがにちょっと傷付く。

反論できないが。

「本っ当……あいつ見てるみたいで嫌になる。

どうせあんたも、あたしが何感じるかとか考えてないんだろ!

だからそんなこと、平気な顔で言えんだろ!?」」

歯を食いしばって怒鳴り続ける彼女。

その手はしっかりと私を掴んでいて、決して離そうとしない。

そして何より、私は衝撃を受けたのだ。


彼女の言葉は、とても真っすぐで、純粋なものだった。


どうやら望月さんは、私と"あいつ"を重ねて見ているらしい。

ただ、あまりいい思いは抱いていないようで、顔が泣きそうに歪む。怒りのあまりか…もしくは―



「くっ……そ……っっ」



もう、無理だよ望月さん。

左手を彼女の手に伸ばす。

振り払おうとした。

けれど



"あたしが何感じるかとか、考えてないんだろ!?"


泣いてしまうんじゃないかと

思うほど、感情が滲み出た彼女の顔。私に訴えかける。

やめろ、と。


多分、振り払えば

彼女の体は楽になるはず。

しかし、精神的に傷つけてしまうかもしれない。

――下手すれば、生涯残る傷。

あぁ、そういうことか……


迷いながらも

私は伸ばしかけてた手を引っ込める。





――――ジャリッ。

地面を踏む、上履きの音。

激しい息遣い。

逆光でよく見えない顔。

けれど私にはそれだけで誰だかわかった。


「やっ……と、見つけ、たっ!!」


ガツン。

鈍い音がした。

言い終わらぬうちに、その人物は黒田くんをぶん殴ったのだ。

すると、押されていた力が無くなって、引っ張られる力だけになった。

当然私は、引っ張られる方である望月さん側へ崩れ落ちることになる。

きっと、私よりも彼女の方が驚いたに違いない。

身を起こし、立ち上がって彼女に手を差し延べる。

なんとなく予想はしていたが、その手は払われた。

そして、もう一方の生きている人物へ視線を向ける。


「守屋くん、」

間に合いました。

守屋くん。

次話まで、またもうしばらくお待ちください(*^_^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ