枷
人を頼るのって、なかなか勇気がいることだなと思います。
異常に人を信じられないわけじゃなくても。
「ちょっとまて」と、
自分で自分に待ったをかける。
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ちょっとした違和感は、3時間目の授業中辺りから始まった。
授業内容はたまたま生物の実験で、私は生物室にいた。
名前の順に二人ずつ席に座って、与えられた顕微鏡で観察をしたのだが、その最中、やたらと視線を感じた。
隣からでも前からでもない、妙な視線を。
「………………?」
変だと思ったものの、あまり周囲をキョロキョロしていては不審に思われる。それは勘弁だ。無理矢理気のせいだと自分に言い聞かせ、授業に集中した。
しかし、4時間目にはその視線はほとんど感じなくなり、しまいには全く感じなくなった。完全に安心したわけではなかったが、少なくとも先程までの胸騒ぎは納まりつつあった。
お助け屋さんは、何故か3時間目が始まる前に何も言わずどこかへ消えてしまったので、このことについて尋ねることはできない。
あの人のことだから、きっとこの視線の正体ぐらいわかっていそうなものなのに。
右手に握ったシャープペンシルをくるり、くるりと回してみる。
ペン回しなどというものは、それ程器用でないのでできないが、ただ手持ち無沙汰だったから。
何でもいいから動かしていたかった。
人間には、わからないものほど怖いものはないんじゃないだろうか。私は………コワイ、と思う。
けれど、今までだってコワイことは沢山あったわけで。
他人がどうこうしてくれるのを待っていても、解決するわけじゃない。何より私がそれを許さない。
4時間目が終わる、チャイムの音。ぴん、と張り詰めた空気が切れ、辺りがざわつき始めた。
いち早く教室を飛び出す男子生徒たち。きっと購買に行くのだろう。早く行かないとすぐ混んでしまうから。隣の守屋くんは大きく伸びをし、「あーよく寝たー!」と言って、周囲の人達にからかわれていた。
もしも、私が守屋くんに「助けて」と言ったとする。
おそらく守屋くんは、自分に被害が出てしまっても、惜し気なく私に手を差し延べてくれるだろう。私でなくとも、彼は助けを求められれば何も考えずに助ける。そんな人だから。
私はそれが嫌だった。
別に守屋くんの性分が嫌いなのではない。むしろ私は彼のような人を尊敬しているし、そういう人になりたいとさえ思っている。
私が嫌なのは、守屋行人という人間が、自分を顧みることをしない人であることだった。
それは言い換えてみると、自らを犠牲にしてまで他の誰かを助けようとする、ということ。私と友達になるということに関しても、守屋くんは自分の評判が下がるかも、とか変な噂が立つかも、を全く考慮していないようだったから。
多分、守屋くんは気にしないと言うだろう。
いつもの笑顔で、しかも本心からそう言うのだ。
でも、
「峰岸さん、今日もお昼一緒に食べていい?」
本当に、屈託なく笑う。そんな彼に、
「守屋くんさえよかったら」
ぎこちなく笑う私は、やっぱり頼ることはできない。
喉元まで競り上がってきたものを、寸前で飲み下す。
もしかしたら、「助けて」と言おうとしていたのかもしれなかった。
しかし、聞こえたのだ。
"これ以上、他人に頼ってでも、お前は生きたいのか"と
厳しく叱る誰かの声が。
たしかに、大きく、
聞こえたのだ。




