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第3話 釣り針は月を掴む

第3話 釣り針は月を掴む


シャッターをくぐった瞬間、空気が変わった。


湿気。

鉄錆。

油の酸化した匂い。


そして、それらに重なって漂う、はっきりとした生臭さ。


「……暗い」


大張大吾が、自然と声を落とす。

足音がやけに大きく響き、倉庫の広さを強調した。


天井は高く、照明はほとんど死んでいる。

外から差し込む月明かりだけが、コンテナの角や床の凹凸をぼんやりと浮かび上がらせていた。


一歩、踏み出した瞬間。


「……」


大張の足が止まる。


「どうしました」


キリコが言う


「……動物のフンです」


一拍。


川山キリコが、耐えきれず鼻で笑いそうになる。


「この状況で踏む?」


「不可抗力です」


ファルコンは会話に混じらず、倉庫全体を見ていた。

視線は常に高所と死角を往復する。


「……いる」


低い一言。


その直後、銃声が炸裂した。


火花が散り、弾丸が床を跳ねる。

金属音が反響し、位置感覚を狂わせる。


「散開!」


ファルコンの声と同時に、三人は動いた。


影から現れる男たち。

数は二十前後。


統制は甘いが、銃は本物だ。


川山が素早く遮蔽物に滑り込み、銃を構える。


「殺すな。足と肩だけだ」


「了解」


川山の指が引き金を引く。


乾いた音。

男の足元が跳ね、悲鳴と共に一人が崩れる。


大張は正面から突っ込んだ。


外骨格により強化された脚力で距離を詰め、掴む。


投げる。


床に叩きつけ、関節を極める。


「制圧!」


一人、また一人。


その間を、ファルコンが縫う。


撃たれる前に、そこにはいない。


銃口の向き。

引き金にかかる指。


すべてを読み、半歩だけずらす。


肘。

掌底。

蹴り。


必要最小限で、敵を沈めていく。


だが――。


「……?」


ファルコンが、違和感に気づいた。


敵の動きが、鈍る。

いや、引いている。


次の瞬間、倉庫の奥から怒号が響いた。


「――おいおい♪ もう終わりかよ♪」


床を転がる、鈍い音。


血の筋。


生首。


「……っ」


川山が息を呑む。


奥から現れた男は、両手に生首を一つずつ持ち、満面の笑みを浮かべていた。


「逃げるからさぁ♪

 つい、もぎ取っちゃった♪」


異常な高揚。

快楽に酔った目。


ファルコンは即座に判断する。


――強敵だ。


「残党は任せる」


短く言い切る。


「大張、川山」


「了解」


二人は迷わない。


大張が前に出て、敵を引き付ける。

川山が射線を制御し、確実に削る。


ファルコンは、謎の男へ向き直った。


距離、五メートル。


男が笑う。


「いやあ……いいねぇ♪

 こういうちゃんとした相手♪」


次の瞬間、ぶつかり合った。


拳と拳。

蹴りと受け。


速い。

重い。


「……っ!?」


ファルコンの腕に、衝撃が走る。


人間の質量ではない。


男は楽しそうに笑う。


「楽しいねェ♪」


その腰から、異変。


刃のついた触手が飛び出した。


一本、二本、三本。

さらに四本。


計五本。


「六対一だよ♪

 燃えるっショ♪」


男は腰に下げていた青龍刀を二本、抜き放つ。


触手が床を裂き、壁を抉る。


ファルコンは跳ぶ。

かわす。

だが、死角が多すぎる。


「……ぐっ」


脇腹を掠められる。


その瞬間。


「ファルコン!!」


大張が加勢に入ろうとする。


だが、触手が閃いた。


「――っ!」


大張の脇腹が裂ける。


「あのバカ!」


川山が銃で援護するが、青龍刀が弾を弾く。


「来るな」


ファルコンが低く言った。


マントを外す。


床に落ちる音が、やけに重い。


外骨格の設定を切り替える。


耐衝撃強度:最低。

駆動反応速度:最大。

密着率:最大。


装甲が“軽く”なる感覚。

同時に、身体と機械の境界が消える。


「……へェ♪」


謎の男が目を細める。


「それ、いいね♪」


次の瞬間。


ファルコンは消えた。


触手の内側へ、一気に潜り込む。


拳。

肋骨に衝撃。


止まらない。


回転しながら肘。

膝。

踏み込み。


すべてが連続する。


触手が追う。

だが追いつけない。


「速い♪速いよォ♪」


青龍刀が振るわれる。


紙一重。


刃が頬を掠める。


だが、当たらない。


一撃でも食らえば終わり。

だからこそ、当たらせない。


月明かりが、裂けた屋根から降り注ぐ。


二つの影が、交錯する。


触手を踏み台に跳び、空中で体勢を変える。


「……っ」


懐に入った。


距離、ゼロ。


左腕が変形する。


パイルバンカー。


出力――最大。


轟音。


衝撃。


謎の男は、壁を突き破って吹き飛んだ。


瓦礫。


……だが。


「……は……はは……♪」


立ち上がる。


興奮に満ちた目。


そのとき。


天井から、音がした。


キィ……ン。


一本の釣竿。


異様な長さ。

異様な存在感。


釣り針が、男を絡め取る。


「おっと♪」


軽い声。


屋根の裂け目に、ローブの男が立っていた。


能面。


感情のない視線。


「回収だ」


低い声。


「ボスがお呼びだ」


「えー……もう?」


謎の男は不満そうに言う。


「まだ遊び足りないんだけどなァ♪」


「計画は次の段階だ」


淡々とした声。


「……そっかァ♪」


謎の男はファルコンを見る。


「今回は殺しきれなかったね♪」


ローブの男が続ける。


「あの少女は、くれてやる」


「役目は終わった」


「使い捨てだ」


釣り針が巻き上げられる。


「冷たいやつ♪」


謎の男は肩をすくめた。


二人の影は、夜へ消えた。



静寂。


川山が呟く。


「……人を、釣るって……」


大張は、裂けた脇腹を押さえながら天井を見上げる。


「……追いますか」


「無理だ」


ファルコンは即答した。


「今の俺たちじゃ、届かない」


外骨格が静かに停止する。


月明かりだけが、倉庫を照らしていた。


夜は、終わらない。

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