小話 ファルコンについて
小話 ファルコンについて
ファルコンが戦う理由
――受け継がれた夜
ファルコンは、ひとりではなかった。
最初に夜へ立ったのは、
今の彼ではない。
黒瀬渉。
ひとりの男であり、父であり、
そして――復讐者だった。
彼は奪われた。
愛する者を、ある組織によって。
正義でも、使命でもない。
最初のファルコンは、
怒りそのものだった。
拳に込めたのは理想ではなく、
喉が裂けるほどの憎しみ。
夜に出た理由は、ただ一つ。
取り戻せないなら、
せめて奪い返すため。
⸻
復讐は果たされた。
だが、
夜は終わらなかった。
街は変わらなかった。
弱い者は、今日も夜に落ちていった。
そして彼は気づいてしまった。
自分が殴ってきたのは、
敵だけではない。
同時に、見過ごされてきた現実だったことに。
だから先代ファルコンは、
戦いをやめなかった。
警察と手を組み、
誰にも知られない夜の事件に介入し続けた。
それはもう、復讐ではなかった。
自分と同じ場所に、
誰も立たせないための戦いだった。
⸻
だが、
夜は代償を必ず求める。
N市で続発する失踪事件。
偶然ではない、意図された消失。
先代ファルコンは、
その“向こう側”に触れてしまった。
犯人はいた。
組織は、まだ生きていた。
戦闘の末、
彼は帰らなかった。
残されたのは、
破損したレコーダーと、
断片的な記録だけ。
最後まで、
彼は助けを呼ばなかった。
⸻
その記録を見つけたのが、
黒瀬悠希だった。
父のもう一つの顔。
夜に生き、夜に死んだ男。
そこに映っていたのは、
英雄でも、怪物でもない。
ただ、止まらなかった背中だった。
黒瀬悠希は知った。
復讐は、まだ終わっていない。
そしてこの街の夜も、
何一つ終わっていないことを。
⸻
今のファルコンは、
父と同じ理由では戦っていない。
怒りはある。
憎しみも、確かにある。
だがそれだけなら、
彼はもう壊れている。
彼が夜に立つのは、
先代が立ち続けた場所が、
まだ空席だからだ。
誰かが、
そこに立たなければならない。
誰かが、
夜を引き受けなければならない。
それを知ってしまった者が、
彼だった。
⸻
ファルコンは、
名前ではない。
装備でもない。
覚悟の継承だ。
父が倒れた夜を、
息子は忘れない。
そして今日も、
その続きを生きる。
夜にしか救えないものが、
まだ、この街にある限り。




