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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第四十四話





「どうして、あんなことをしたんだ!」


 強く咎められているのは、先日田村雪乃の模倣犯として逮捕された船崎由美――


「お前が焚き付けたんだろう!」


 ではなく、田村雪乃だ。


 皮肉にも、彼女がこの世を去る前にと起こした行動が、結果的に死刑執行を延期させ、生き長らえさせた。

 なぜ、船崎のみならず緊急で田村雪乃にも聴取が行われたのか。それは、犯行前の数回に渡る面会にて、洗脳の容疑が浮上したからだ。

 会話の中で田村が船崎を巧妙に先導し、無差別殺人をするようマインドコントロールを図った疑いがある。


「焚き付けてなんか、ないけど」


 しかし、田村本人は呆気なく否定した。


「じゃあ……報告に挙がっているこれは、なんだ!」


 刑事は次々、ふたりの会話で怪しい部分を資料を見せながら詰める。

 机に並べられた紙切れを見下ろし、肩を竦めて首を傾げた。


「普通のお話じゃん。ガールズトークだよ」

「いいや。違う。お前は端々で、船崎由美を洗脳しようとしている」

「はぁー……だったら、なんなの?あいつの罪が軽くなるとでも言うの?十二人も刺しといて?」

「ああ。可能性はある」


 まさか、と。

 ありえない話として出したのに認められ、田村にしては分かりやすい動揺を見せる。

 田村の事件時と同じく、精神鑑定の結果によっては心神喪失での減刑は、決して無い話ではない。実刑は免れないが、限定的責任能力の有無として死刑は免れる線もある。

 頭の中で、どうするのがいいか。彼女なりに、瞬時に理解した。


「……わかったよ。正直に話すよ」


 根負けした風を装って、両手を上げるフリで降参の意を示す。


「私は、船崎由美を操ろうとしてました」

「それは……本当か?」

「はい。試しに、何が怪しいか言ってみて。答える」


 協力的になのが逆に懐疑的で、怪訝に眉をひそめるものの、資料を通して確認へ進んだ。

 まず、面会の中で田村は船崎に対し、“犯行のコツ”を露呈させている。これは、船崎がいずれ模倣犯として動くだろうと見越しての発言だと、警察側は捉えている。


「はい。間違いないです」


 次に、持ち上げては貶し、貶しては認め。感情の波を意図的に揺らすことで、依存しやすい精神構造を組み立てた。

 特にこれは、優しい故に流されやすい性格を利用した、悪質性の高い方法だと警察側は主張する。


「はい。間違いないです」


 ひとつひとつ、田村は頷いていった。ただ、否定するところはきちんと否定した。


「それは考えすぎだよ〜」

「ふざけるな!」

「……ふざけてないんだけどなぁ」


 違うことを違うと言っただけなのに。不貞腐れ、唇を尖らせる。相変わらず子供じみた女だと、刑事は心底嫌悪した。

 全ての確認作業が終わる頃には、退屈そうにあくびを噛み殺した。疲れが溜まっていたのも、眠気を誘う要因だ。


「だからー……認めるって」


 やる気なくウトウトしはじめた田村に、耐え兼ねた刑事が机を殴る。

 音に反応して、微睡んでいた瞼が上がった。幼い頃から暴力や家庭内での騒音に晒されていた田村にとって、今さらそのくらいで驚きもしない。

 元カノである白木と付き合っていた間はまだかろうじて人間味を保っていたため、ビックリして飛び跳ねることもあったが、感情が麻痺した今はどうだっていい。


「最後に、聞かせろ。これで終わりにしてやる」

「……はい」

「動機は、なんだ」


 幾度となくされてきた、質問。


 不思議で不思議で仕方なかった。


「ないよ」


 空っぽな言葉を、吐く。


「動機なんて、ない」

「っ嘘をつくな!」

「本当だよ」


 呆れて物も言いたくないが、ここは合わせてやろう。人間は、得体のしれないものがあると恐怖し、それが何か把握するまで諦められない生き物なんだろう。

 だから、今までも用意していただけだ。しつこく聞くから、鬱陶しいから黙らせたかっただけ。


「強いて言うなら、暇潰し」


 本当の本当に理由なんてないが、捏造する。


「人生、ながーーーーー……いからさぁ」


 途方もない未来を見据えてか、だるそうに吐息した。

 積極的に死にたかったわけでも、殺したかったわけでもない。ただ、死ぬまでにやってみたかったこと、気になっていたことは解消させておかないとなぁ、程度の気持ち。

 ついでに死ねたら、万々歳。

 思惑通りせっかく死ねるはずだったのに、船崎のせいで予定が変更されてしまった。沸々と、理不尽な怒りが湧く。

 船崎に、恨みはない。ちょうどいい退屈しのぎにはなってくれたし、曲がりなりにも感謝している。


 が、いい迷惑である。


「あの人に言った動機も、ぜーんぶ嘘っぱち。適当言っちゃった」

「なんだと?」

「なんかぁ、せっかく来てくれたからー……六花ちゃんの写真も見せてくれたし、なにかしら教えてあげないと、可哀想かなって」


 あの熱弁の全てが、思いつき。詭弁に過ぎなかった。到底信じられる話ではないが、これが田村雪乃の全貌だ。

 最初に“男女平等”を掲げたのも、深い意味はない。それらしい理由を、その日の朝にニュースで見かけたから。男ばかりを狙ったのも、たまたま。的が大きくて刺しやすそうだったから。

 取って付けたやり方で、ここまで大事になるとは。田村自身にも、予想外の事態だった。


 何もかもが、虚栄。嘘の塊。


「……人は、空白を埋めたがる生き物だからさ」


 田村雪乃は、空っぽだ。


「何かあるんじゃないか。なぜなのか……って、勝手に憶測を立てては、勝手に感情を動かすでしょ」


 最初から、最後まで。今も昔も、ずっと彼女は中身がないまま生きていた。

 中学生時代の、妊娠・出産の噂が良い例だろう。いつだって彼女を形作るのは周囲の好奇心であり、身勝手な偏見だ。

 少し印象操作をすれば、この通り。“田村雪乃はこうである”という決めつけの元に人々は行動を起こし、あまつさえその責任を彼女に押し付けようとしている。


「だから、動機なんてないよ」


 ただ、暇だったから殺した。あわよくば、死ねるし。


 それすらも、後づけ。


 罪悪の欠片もなく、呟く。


 調書には、“虚言の疑いあり”と記された。何が嘘で何が真実か、判断に迷った結果だ。


 それがなにより、田村が主張する“人間は意味を求めたがる”ことを表していた。「無い」と言っているものを、わざわざ難しく捉えて“理解不能”としたからだ。


 無いものは、ない。


「私には、何も」


 閉じ込められた檻の中。


 彼女の独り言を拾う者は、ひとりも。



 ―――――――――――――――――――――――




 船崎由美の犯行について。


 調書によると、「なぜ人を殺したのか」という質問に対し、彼女はこう答えた。


「人類は皆、平等だからです」

 


 


 


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