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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第四話






 ――雪乃は、男子の中に混じってサッカーやかけっこをするような、男勝りな女の子だった。

 気さくで人見知りのない性格だったことも相まって、彼女の周りには常に友達が集まっていた。ゲームが趣味で、携帯型のゲーム機を持ち込んで数人でモンスターを倒すのが流行りだった。

 正義感も強く、いわゆる“ハブる”といったことが大嫌いで、無視されている子がいたら率先して輪に引き入れる優しさも持ち合わせていた。


「モテモテでしたよ。本人は、多分自覚なかったと思うけど」


 関わっていた男子のほとんどが、彼女が好きと裏で言い合っていたくらいには、恋愛的にも慕われていた。

 だから、百咲は一度、聞いてみたことがある。『恋愛に興味はある?』と。


『んー……わかんない。そういうの』


 本人はまるで、関心がなかった。

 容姿には恵まれ、運動神経は抜群。頭の良さも、飛び抜けていたわけではないが宿題をしなくてもつつがなくこなせるくらいには備わっていて、幼いながら百咲は僅かばかり嫉妬していた。

 なんでも持っているように、見えた。


 ただ、家庭環境は良くなかったんだろう。


 明らかに歯磨きをしていない口臭が時々ではあるが目立ったり、高学年になり胸が膨らんできても下着を身に着けていなかったりと、育ちの悪さが垣間見えた。

 二つ上の姉は身嗜みもしっかりしていて、服装に関しては「おしゃれ番長」のあだ名がつき、同年代の子から羨まれるほどの存在。

 兄である啓介も、イケメンと持て囃されていた。

 雪乃だけが、まともな教育を受けていないようだった。あるいは、本人が無頓着なだけか。

 中学になってからも、それは変わらず。次第に雪乃は、周囲から浮くようになっていた。思春期で、人の目を気にするようになる年頃だったせいだ。


「教えてあげなかった、あたしも悪いんだけど……」


 過去を思い返し、百咲はひどく後悔しているようだった。

 結果的に人気者――クラスの中心人物から一転、田村雪乃の周りには人っ子ひとり寄りつかなくなってしまった。

 そして中学一年生、彼女は姉の影響で不良少女となり、様々な問題行動を起こすようになる。


「重役出勤で昼過ぎに来るのは当たり前。給食だけ食べに来て、ベランダでタバコ吸ったり。授業中にお菓子食べたり。とにかく、好き放題してましたよ」


 ピアスも開け、髪も染め、同年代の子とはほとんどつるまず先輩とばかり関わっては、バイクの後部座席で騒ぎ立てる毎日。

 補導され、厳重注意を受けたことも、何度か。

 気が付けば、学校には来なくなっていた。姿を見かけなくなったのは、中学二年の春先頃からだ。


「妊娠して、出産したって噂もありました」

「妊娠……」

「はい。ちょうど、学校を休んでたのが10ヶ月前後なんです。一年しないくらい」


 空白の期間に何があったのかは、百咲も知らない。田村は当時携帯も持っていなかったために、連絡手段がなかったことも彼女の真相を闇へ雲隠れさせる要因だった。

 次に登校したのは、2月。その頃にはすっかり伸び切った、派手だった髪色は黒く落ち着き、生気のない眼差しをしていたという。


「心配になって、話しかけたことがあったんです」


 目も当てられない変わりように、女子の中では一番仲が良かった自負もあり、勇気を出して声を掛けた。『元気?』と。


『元気』


 返ってきたのは、たった一言。

 以前と変わらない、人懐っこい笑顔を最後に、田村は姿を消した。本格的に、不登校になったのだろう。

 卒業までついに現れなかった彼女のその後を知る者はなく、“未婚のシングルマザー”という噂だけが地元には残った。


「――あ。でも、十八くらいの時かな?同級生のひとりがばったり、ドラッグストアで働いてるのを見かけたらしくて」

「ドラッグストア?」

「はい。ここから車で、ちょっと行ったところの」


 地図アプリで検索、保存。


「それで……同級生の方から、当時の様子とかは聞いてますか?」

「はい。なんか、普通に働いてたっぽいですよ」


 にこやかに接客をしていたそうで、同級生の女性が話題がてら妊娠中で間もなく出産であることを伝えたところ、


『え!おめでとう。今度、お祝いするね』


 そう、祝福してくれたらしい。

 さらに後日、お世辞でもなんでもなく、本当に同級生宅を訪れた彼女は祝い金一万とよだれかけをプレゼント。世間話を少しして、別れを告げた。

 たいして親しくもなかった自分にも、こんなにも素直に喜んで親身になってくれるなんてと感激した同級生が次の日、お礼にドラッグストアへ行くと、田村は欠勤。親しくしていたパートの女性にさえ辞める意志すら伝えず、姿を眩ましていた。


「ほんと昔から、なに考えてるかわかんない子だったんですよね」

「そうですね……」


 出産祝いからの、消息不明。一夜にして、彼女の身に何が起こったのか。どんな心境の変化があったのか。

 探れば探るほど、輪郭を失っていく。

 霧を掴むような気分にさせるのは今も昔も共通で、地元で彼女を知る多くの人間は、田村雪乃について詳しくない。


 次なる手掛かりは、働いていたというドラッグストア。


「ご協力、ありがとうございました」

「いえいえ。……あたしも、人に話せてスッキリしました」


 今、美浦村全体で暗い空気が漂っている。狭い田舎の村から、全国に名を轟かせる殺人鬼が生まれたとなっては面子が潰れるからだ。

 古い人間は沈黙を貫き、吐き出せる場がなかった百咲にとって、船崎の存在は掃き溜めに近い。


「雪乃は……悪い子じゃないです。これだけは、何があっても加えてください」


 荒れるネット上の声に対し、ずっと反論したかった思いをぶつけ、百咲への取材は幕を閉じた。


 






 


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