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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第十九話






 裁判の傍聴席にて。船崎は静観していた。

 期待していた家族については、証言なしという形で終わってしまったため、詳しい家庭環境は不明。母親・兄弟いずれも数年にわたり音信不通であることが判明した。

 家族にさえも見捨てられた殺人鬼に、同情の声を寄せるネット民の声も目立った。あれだけのことをしたんだから当たり前だという意見も、同じだけ多い。

 

 印象的だったのは、


「平等じゃない」


 途中、裁判員裁判の方を指差して、田村本人からの不満が述べられたことだ。

 裁判員は全部で六人。女性が四人に、男性がふたり。年齢差はバラバラで、特に偏りがあったようには思えない。

 強いて言うなら、性別の割合くらいか。しかし、それも被告人が女性であり、考慮に入れての配置だと考えれば何もおかしなことはない。


 ――平等?


 そこで初めて、彼女の中にある“こだわり”を知る。


「おかしい。平等じゃない。公平性を保つため、人員の変更を希望します」


 田村は強く“不平等”を嫌う人間であることも、この時に知った。

 騒ぎ立てる彼女を押さえつけ、裁判は中止することなく進められた。自分の意見が通らなかったためか、後半は終始不貞腐れた態度で俯いていた。

 服装は、真っ黒なシャツに真っ黒なスキニーパンツ。闇に溶けそうな色をした姿に、悪魔やゴキブリと揶揄する声も上がった。もちろんネット上での話だ。


「平等……」


 昨今、よく耳にする言葉がある。


 男女平等。


 田村がこのことに深い関心を抱き、自分の中での価値観が構築され、揺るがないものとなっていたなら――動機になりうる可能性は、存分にあり得る。

 ただ、取材で得た情報の中で、彼女がどうしようもない男尊女卑に晒された形跡はない。口説いてきた男達から、ひどい扱いを受けた話も聞かない。少しの嫌悪はあるかもしれないが、殺すほどの嫌悪も感じない。

 むしろ勧められて柔軟にデートに挑んでみたり、男を弄んでみたり、お金として割り切って利用したり。

 好意的に接することもあり、内情は読めない。

 やはり、レズビアンであり子供を作れないことで、八つ当たり的な感覚で男性相手に恨みを抱いた説が濃厚か。


 ネットでも、“平等じゃない”がトレンド入りした。


 からかって遊ぶ人間がほとんどだが、中には「田村雪乃は何か意図があって殺人を犯したのではないか」と考察に行き着く人間もいた。

 様々な憶測が行き交う中、着実に判決は近づいていく。船崎は焦る気持ちを落ち着けるため、今一度整理しながら取材のため各地へ赴く。


 そうして、再び訪れた美浦村。


 以前と大きく違うのは、他の記者もチラホラと見かけるようになったことだ。今回の裁判で地元、生まれ故郷が公開された影響だろう。

 いずれ、渡辺勝次や後藤に辿り着くのも時間の問題。他よりも一歩抜きん出るため、記者が集まるであろう実家は避けて渡辺へ挨拶に向かった。


「おぉ、姉ちゃん。久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「最近は、ここら一帯都会のもんだらけで落ち着かねえよ。なんとか帰るように行ってくんねえか」

「すみません、同業がご迷惑を……」


 幸い、渡辺のところにはまだ記者の手は及んでいないようだ。

 ひとまず胸を撫で下ろし、今日は明確な理由があって会いに来たことを告げた。


「――家族の連絡先を、教えてほしい?」

「はい。どうか、お願いします」


 唯一、明かされていない情報を得るため、プライドもかなぐり捨て土下座をした。船崎の必死な誠意は届くも、さすがの渡辺もこれには渋る。

 前回は次から次へ地元での人間関係が輪郭を帯びたこともあり、そちらにばかり集中してしまったが、肝心の家族に関しては未だ探れていない。元々、そのために遠路はるばる足を運んだというのに。

 しかし、無駄ではなかった。


「まぁー……あんたは、信用できそうだからなぁ」


 一回、会ったことがある。話したことがある。打ち解けたことがある。経験からくる信頼は大きく、結果的に念願のパイプを手に入れることができた。

 母親の利子、兄の圭介――そして、姉の沙穂。三人の電話番号を入手した船崎はさっそく、その日のうちにSMSにて取材協力の連絡を送った。


 返ってきたのは、意外にも姉の沙穂だった。


 数日後、現在の住まいである松戸市。人目を避けるため、駅前にあるカラオケ屋で合流。初対面にも関わらず完全個室を受け入れてくれたのは、船崎の性別が女性だったおかげだろう。

 さらに、会ってすぐ個室にした理由を悟る。

 おそらく生後数ヶ月ほどの、生まれたばかりの赤子を抱えていたからだ。

 

「お忙しい中……」

「いい。いい、そういうまどろっこしいの」

「あ。はい……」

「どうせ、そのうち応じるハメになるんだから。さっさと聞いて」


 面倒なことは早めに終わらせたい。せっかちな物言いから察し、ボイスレコーダーを置かせてもらう。許可済だ。


「では、はじめに……田村さん。妹の雪乃さんは、沙穂さんから見てどんな子でしたか」

「……かわいかったよ」


 おずおずと聞けば、これまた意外な印象が返ってきた。


「優しい良い子だったし、かわいかった」

 



 

 


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