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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第十七話






 思い出したことがある、とレイから連絡を貰い、船崎は以前のカフェを訪れていた。


「それで……思い出したことって?」

「や、たいしたことないかもしれないんすけど」


 レイは交際していた時に一度だけ、田村と成田山へ初詣目的で立ち寄ったことがある。ついでに、うなぎが有名だから食べに行こう、と。

 時期は、冬。年始だからか相当な込み具合で、人の波に揉まれて、なかなか進めない中で何十分も立ち往生していた。


『混んでるねー』

『そうだなぁ。寒くないか?大丈夫?』

『うん!人いっぱいだからかな?なんか、あったかいかも』


 人口密度が暖房代わりだ、人間カイロだ。そんなことを冗談交じりに会話しながら、棒立ち状態でさらに数分。


『……こんなに人がいたら、後ろから刺してもバレなさそう』


 脈絡もなく、田村がぽつりと呟いたのだ。

 本当に思いつきで言った。ただそれだけで、意図や感情が含まれていなかったのが逆に不穏で、戦慄したのを覚えている。


「それは……いつ頃?」

「えっと、三年前?とか。その辺だったかと」


 三年前から、犯行を企んでいた?

 “思いつき”という部分が引っかかる。ここで、突発的で無計画であった可能性も浮上した。

 事件があった当日、田村はなんとなく出かけ、なんとなく包丁を持ち込んで、なんとなく刺した。気まぐれな好奇心による行動だったと言われれば、それはそれで納得できてしまう。 


「その時から、ヤバ女だったんだよ。今思えば……恋は盲目って、怖くないですか?」

「そうですね……」

「まぁもう目が覚めた今は全然、魅力も何も感じないけどな。冷静に考えたらイイ女じゃなかったし。てか、そもそも――」

「っそろそろ、失礼しますね!」


 グチグチとした負け惜しみのような愚痴が始まってしまい、船崎は慌てて話を中断させ、立ち上がった。

 レイは不服そうに口元を歪ませたものの、引き止めることまではしない。彼は誰にでも良い顔をしたがる傾向にあり、田村に対しても「俺はよき理解者だった」と自信満々に話している。

 ――理解者、か。

 真に彼女を理解できた人間は、いたのだろうか。ふと、孤独に目が向いた。

 長らく付き合っていた白木でさえも、闇深い一面は知らなかった。レイは言わずもがな。他の人間関係においても、田村は浅いところしか曝け出していない。

 あえて一面だけを見せているのか、全ては見せられない何かがあるのか。


 もうすぐ、裁判が始まる。


 ほぼ確実に起訴される。そうなれば、彼女は再び民衆の前に姿を現すことになる。そこで、何を発言し、どんな態度を見せるか。

 また新たな一面を披露するかもしれないし、これまでに調べ上げていたうちのどれか――


「――もしかして」


 船崎の頭に、突如としてまた違った可能性が舞い降りる。


「田村は、多重人格者……?」


 精神科では診断されていないが、あまりの百面相に疑いを持たざるを得ない。彼女なら、あり得ると思ってしまう。

 仮に多重人格だとしたら、なんだという話ではある。記憶の解離は起きてなさそうだし、不都合なく生活も送れている。

 ただ、本人はつらいだろう。無自覚で切り替わる人格。そのうちのひとりが、殺人を犯し、ある日突然逮捕。


「……いやいや。考えすぎか」


 血迷ったことを反省し、裁判後に接見禁止が外されることを祈って、今の時点での情報をまとめた。


 ・数年前から殺人願望あり。


 今日追加されたのは、それだけ。

 けど、かなり重要な気がする。人間としての欠落が、ここに詰まっているような気がして。

 ――裁判が始まったら、家族関係について少しは把握できる。

 どんな環境で生まれ育ったのかが判明すれば、動機についても絞れそうな予感がする。

 

「警察は、どこまで把握してるんだろ……」


 今のところ、“私がやりました”と容疑を認めた供述以外に、公表されていることはない。大規模な事件だ、警察も慎重になっているんだろう。あるいは、肝心の動機が聞き出せていないか。

 謎に包まれているが、罪は確定しているこの事件。


 事態は、思わぬ方向に進む。


「本当に……心から、反省しています」


 裁判にて、田村がしおらしく涙して深々と頭を下げたからだ。


 世の中が想像していた“サイコパスな殺人鬼”の影もない、純粋無垢な気持ちで謝罪したことは大きな反響を呼び、さっそくニュースとなった。

 新聞も一面、“殺人鬼、謝罪”で埋まり、ネットは賛否両論。否が多い印象ではあるが、擁護の意見も湧いていた。


『反省したフリだろ。絶対に減刑するな』

『今さらになって死ぬのが怖くなったか?』

『そもそもこいつ、なんで殺したの?何が目的だったの?』

『可哀想……彼女もある意味で被害者なのかも』

『どうせ女だから死刑免れて無期懲役。女はいいよな』

『一生、マズい飯食って生きてくださーいwwwナマポ受けてるやつは死ね。ザマァ』

『女さん、同情を買おうと嘘の涙まで流してしまうwww』

『同情なんかしねえよ。しっかし、顔いいな。今日はこれでいいや』


 完全なる、ネットのおもちゃ。

 好き勝手に叩かれている現状を本人は知らないが、知ったらどう思うのか。

 裁判初日は、涙ながらの謝罪で幕を閉じた。容疑は認めていて、被害者の状況や人数を改めて告げられた時にはショックを受けた表情をしていたらしい。

 基本的には、黙秘。

 裁判は、裁判員裁判となる。そのため、ある程度は世間の声に近い価値観も反映されるだろう。


 死刑となるか、無期懲役となるか。


 ふたつの選択肢に分かれた。



 


 


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