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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第十五話






 そもそもの動機を探ろう。


 人となりは調べれば調べるほど迷宮入りすることに辟易としてきた船崎は、気分を切り替えるためにも、初心にかえった。

 田村雪乃を記事にするため、まずは見出しとなりそうなもの――世間が気になる“動機”について考えよう。

 そのために必要となる情報は色々とあるが、まずは被害者の傾向を調べて、そこから仮設を立てる方法を今回は選んだ。


 ニュースで取り上げられている被害者は、男性が十名。女性が二名の計十二名。


 圧倒的に男性が多いことから、男性を狙った犯行であることは確実。大切なのは、なぜそうしたのか。

 男性を嫌悪していた、と考えるのが自然だろう。なぜなら彼女は田舎の閉鎖的な空間で生まれ育ち、男尊女卑に晒されたレズビアンであり、妊娠に関するトラウマ的な過去を持っている可能性も高い。

 異性を憎み、加害に走るのは何も珍しいことじゃない。特定の誰かではなく、不特定多数の誰かを女性ひとりで犯行に及ぶのは、あまりない事例ではあるが。

 あくまでも船崎の主観による偏見にしか過ぎないが、女性による刺殺の大半は痴情の縺れが多いように感じる。現に、“通り魔”と名のつく殺人の犯人はほとんどが男性だ。


「ここまで大規模な通り魔殺人……女が犯人なのは、田村が初めて…」


 田村は人が殺したかっただけなのか、それとも別の目的があって殺人を犯したのか。

 誰か特定の相手を殺すため、他はカモフラージュの可能性もある。被害者の中に知り合いが潜んでいないか確かめたいが、情報が公開されていない今は手段がない。

 完全なる無差別なのか、突発的で無計画なのか、緻密に計算され尽くしての行動なのか、自分が死にたいがための巻き添えなのか。

 今の時点では、選択肢が多すぎて何も特定できない。


 結局は、振り出しに戻る。


「最近、どうよ。由美ちゃんは」


 束の間の息抜きに、船崎は居酒屋へ来ていた。

 ひとりで飲むのも味気ないからと誘ったのは、某大手新聞記者の立野で、彼は田村雪乃を追い始めた初期の船崎に生活保護受給者であることを教えてくれた、親切心に溢れた人間だ。

 元職場の、上司でもある。


「あれから、情報は集まったか?」

「んー……微妙です」

「俺の方でも調べてるんだが、てんでダメ。外に出てた痕跡もねぇ。典型的な引きこもりを拗らせたアラサー女だよ」


 追うだけ無駄だぞと立野は言うが、生憎船崎はすでに地元の場所から行きつけのバー、それから元恋人など。ある程度の人間関係を把握している。

 お世話になっているお礼にと口を滑らせかけたが、なんとなく惜しくなってやめた。

 田村の全てを、公にしていいものか。悩んでいたのもある。


「ここだけの話……いいか?絶対、これは記事にするなよ。こっちより先に出したら、潰すからな」

「は、はい」


 相手は、出し惜しみなく情報をくれた。


「田村雪乃が刺した男の大半が……恋人、もしくは妻を連れていたらしいんだ。中には、子連れの男もいた」

「えっ……」


 それも、有益な情報を。


「俺の見立てでは……引きこもり女の、モテない僻みじゃねえかと。幸せそうなのが、羨ましくて仕方なかったんだろうよ」


 一理、ある。田村は子供を切望していた。自分が白木と叶えられなかった願望を、男女であるが故にいとも容易く叶えている現実を前に、耐えきれなくなったのかもと想像できる。

 一方で、そんなに短絡的とも思えない。

 関わってきた人達の話を聞く限り、彼女の思考は浅くはない。むしろ、考えすぎるタイプなんじゃないか。

 だとしたら、カップルや夫婦を狙ったのには、何か別の意図がある……?


「まぁ、本人も認めてんだ。物的証拠も、目撃証言も揃ってる。起訴されたらすぐだろうな」


 そうなったら話題性は薄れ、いずれ人々の記憶からも消え去る。

 死刑は免れない。後はひっそりと、死を待つのみ。

 牢獄の中、田村は何を思うんだろう。ガヤガヤと人の声で満たされた店内で、船崎は静かに思案へ溶け込んだ。


「記事にすんなら、早いほうがいいぞ。このネタは、すぐ腐りそうだからな」

「……ですよね」

「そんなことより、恋愛の方はどうなんだよ。最近、浮いた話全然聞かねえけど」


 突然、話題は船崎のプライベートへ焦点を当てられる。

 集中したいのに、と僅かばかりイラつくものの、せっかくの休息だ。緩い話をするのもいいかと、田村のことは頭の片隅へと追いやった。


「彼氏なんか、作る暇ないですよ」

「へぇ〜?美人なのになぁ。もったいない」


 髪の束をひとつ持たれ、男女の気配を感じて警戒する。


「バリキャリより、家庭的な女のがモテるぞ〜」

「……結婚とか、まだ考えられなくて」

「女の幸せは結婚っていうじゃねえか」

「古いですよ、そういうの」

「そうかぁ?男は、かわいい嫁さんがいてナンボだけどな。最近の子は気難しいな」


 内心では、いずれは結婚したい気持ちはあった。しようにも、相手がいないので入り口にすら立てていないが。

 異性愛者である船崎には、当然のように結婚や子供という選択肢が存在する。同時に、社会からもある程度は求められる。

 最近は結婚願望が少ない若者も増え、当たり前じゃなくなってきているとはいえ、普遍的で普通の幸せとされる根本の価値観はなかなか変わらない。

 世の中は、多様性。

 しかし蓋を開けたら、差別が複雑化され、分かりにくくなっただけである。




  


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