第十四話
「めっちゃ性欲強くてぇ……めっちゃ愛情深い?っていうかぁ」
田村雪乃の本命――否。元恋人の白木美春は、いわゆる黒ギャルと呼ばれる類の見た目をしていた。
今回もまた青嶋経由で知り合えた彼女の発言に、船崎はさっそく頭を白くする。
「え。それって……ほんとに、雪乃さんの話ですか」
「うん。ゆきちは、なんていうか……ねちっこい?セックスもまじ、何時間とか。一回始まると長くてぇ」
これまでの田村像とは、全然違う一面がまた露わになる。どちらかといえば性欲などは皆無そうだという予想は見事に外れ、むしろ正反対な答えに唖然とした。
白木曰く、かなりの床上手。生粋のノンケだったという彼女もドハマりし、一時期ではあるものの女と付き合う選択をするほどに田村とのセックスは気持ちよかったらしい。
快感に溺れるだけの関係が、二年も。付き合ったのはふたりが二十三歳の頃。別れた後も、しばらくはセフレとして関係は継続していたという。
「な……何が、そんなに良かったんですか?」
「えぇー、なんだろ。なんか、愛されてる感が強かったっていうか。好き好きぃって感じが、かわいくて」
さらには、愛情表現も豊かで、顔を合わせるたび愛の言葉を囁かれ、会わない期間もメッセージにて好意を伝えられていたと白木は頬を赤らめていた。
――信じられない。
レイの時とは違った疑念が、視界を暗くする。
淡白どころか、濃厚そのもの。愛欲に飢え、恋人への感情に支配された人間の話を聞くたび、本当にそれは田村なのか?と問いたくなった。
「そ、そんなに仲が良かったのに……どうして、別れちゃったんですか」
「シンプルに、無理になっちゃって。あたしが」
まさかの、フラレた側。
しかも、別れ際には「嫌だ、離れたくない」と号泣していたらしい。実際にメッセージでも、諦められない様子の内容が送られてきていた。
「あとー……あたしたち、子供欲しくて」
「子供……?」
「うん。ゆきち、ほんとに子供が好きで。あたしさえ良ければ、産んでほしいってお願いされてて」
ふたりは交際中、海外に移住して結婚するか、日本でパートナーシップを組める場所に引っ越そうという、具体的な話もかなり真剣にしていた。
田村は学歴が無いなりに資格を取ると奮起して仕事をしながら勉強に明け暮れていた時期もあり、転職活動も視野に入れ積極的に取り組んだ。
好きな人のため、将来のために動ける熱意もある。人間味に溢れた行動の数々に、脳が混乱する。
「なのに、なぜ……」
「ごめんけど、重くて。妊活も……ゆきちが好きなのに、他の男とセックスすんの嫌で。でも、願いは叶えてあげたくて……とか、色々考えてたら、疲れちゃって」
お互いが真面目に、相手のためを想っていたからこその不幸だった。
「フッたこと……後悔はしてないけど、悪いことしたなーとは思ってます」
「どうして?」
「なんか、元気なくなっちゃったみたいだから」
田村が仕事を辞め、生活保護を申請したのは二十五歳の時。ちょうど、白木と別れた時期と一致する。
人生に絶望し、何もかも手放すほどにのめり込んでいたのは、全てそこに至るまでの経緯が物語っている。精神を病んだのも、そのせいか。
「……今でもたまに、ヨリ戻したいです」
自分勝手かもだけど、と自覚はあるようだ。
「あんなに愛してくれたの……人生で、ゆきちだけだったから」
そう、数年経った今でも悔やむくらいには、愛に満ち溢れた生活を送っていたんだろう。
一年間は同棲もしていて、喧嘩などもしょっちゅうだったものの、田村の愛情が途切れることはなかった。
毎朝、起きて目を合わせるたびに「好き」や「愛してる」と伝えては、「かわいい」と穏やかに愛でてくれた。白木は、照れた顔で笑う。
「ま、あたしのどこが好き?って聞いたら「顔と体」って言われたけど。殴った。ムカついて」
「ははっ。ほんとに?」
「まじ。正直すぎるっていうか、基本あんま嘘言わないっていうか」
白木に対しては誠実だったというから、驚きだ。
驚いても驚いても、足りない。いったい、自分が追っているのは、本当に同一人物なのかと。今までの情報の全てが無に返された気分だった。
しかし、確定した情報もいくつか。新規情報と合わせて、帰宅したらまとめよう。
白木にお礼を告げ、忘れないうちにメモする。
・田村雪乃はレズビアンである。
・子供好きは本心。
・しかし、自分で産むつもりはない。産めなかった理由がある?
・学歴コンプレックスを抱いていた?
・感情表現が豊かで、恋愛には誠実?
書き出しても、ますます意味が分からない。あまりにも多面性を持ちすぎて、どれが本物の田村なのか。それとも、全て偽物?
「白木の前にも……彼女はひっきりなしにいたって、言ってたな…」
つまり、極度の寂しがりか恋愛依存の傾向がある?
田村雪乃は、真実の愛を探していた?
それがなぜ、大量殺人に繋がる?
思考の海に沈む。泳げど泳げど暗闇の中を進むだけで、一向に光は射さない。それどころか、見えていたはずの一筋の光さえ、今は消えてしまった。
真っ暗。
深淵の底は、目を凝らしても見えそうもなかった。




