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その女、通り魔殺人鬼につき。  作者: 小坂あと


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第十一話






 田村雪乃の、精神鑑定が始まった。


 生活保護で生活していた時、彼女は統合失調症で診断を受けている。そのため、精神異常を認められる可能性は高い。とはいえ、罪が罪なので無罪放免はありえないだろうが。

 世間は今、鑑定の結果に注目している。加えて、田村が生活保護受給者ということも公表され、ネットは大荒れ状態である。


『20代でナマポとか終わってんだろ』

『国の税金使い潰した上に殺人とかクソ迷惑すぎる』

『これだから女は。感情的でヒステリックになるのも、ここまで来ると救えねえわ』

『どうせ減刑だろ?女ってだけで、美人ってだけで許されるんだもんな。羨ましい』


 好き勝手、ここぞとばかりに女叩きに走るアカウントも散見された。

 この上、同性愛者と広まったら――想像するだけで、船崎はゾッと背筋を凍らせる。それをきっかけに差別発言を平然と吐き捨てるのが、目に見えたせいだ。

 タケチの忠告通り、情報の公開は見極めないとひどいことになる。しかし、先に出されるのも……記者としての実績と良心の板挟みで苦しい。


「起訴されて、拘置所から移動したら……」


 接見禁止が、解除される可能性がある。

 そうなれば本人への取材を通して、世間に伝えたいことを伝えられる。出来るだけ、希望は叶えたい。

 とはいえ、今回の事件は極めて悪質だとして、裁判が終わる向こう1、2年は接触できない未来も視野に入れる。本人による面会拒絶も、ありえない話ではない。

 とにもかくにも、今できるのは情報収集。足で稼いで、彼女を深く知ることが大切だ。


「いらっしゃいませ」


 今日、取材に訪れたのは荻窪にあるBAR。フリーズウィッシュ。

 タケチから、ここで働いている人間のひとりが、田村と関わりのある人間だと聞いて来た。

 立っていたバーテンダーは、長身の女性。髪は短く整えられていて、中性的。薄暗くても、ほんのり赤みがかっているのが分かった。


「どうぞ」


 促され、カウンター席に腰を下ろす。テーブル席は無く、背後の壁沿いには背の高い丸テーブルがふたつ並べられていた。

 平日の開店直後だからか、客は船崎ひとりだけ。話を聞くにはチャンスだと瞳を輝かせるも、一般客を装うためビールを一杯とつまみのナッツ盛り合わせを注文した。


「……どなたかの、お知り合いですか?」


 一見さんのほとんどが、紹介で来るからだろう。キンキンに冷えたグラスを差し出しながら、店員は何気なく確認する。

 相手から聞いてくれたことに、ここだとはやる内心を隠し、船崎は愛想笑いを浮かべる。


「だいぶ前に……雪乃さんから、聞いて」

「……そう。たむたむから」


 随分と可愛らしいあだ名を持っていたらしい。呼び慣れた様子で呟かれた名前に、ギャップを感じた。


「逮捕、されちゃいましたね」

「……うん。あんなことする人じゃ、なかったんだけどね」

「店員さんは、雪乃さんと仲が良かったんですか?」

「まぁ、ね。一時期は、毎日のように飲み歩いてましたよ。一緒に」


 これは、また新たな一面を聞き出せる予感。

 期待に胸を高鳴らせ、自分の身分がバレないよう気を遣いつつ、会話の流れを利用してほじくっていく。

 店員――青嶋と田村が出会ったのは、約6年前。互いに二十代前半だった頃。

 二丁目のバーで知り合い、意気投合してインスタを交換。そこから2、3年はたまに会う程度の仲だったが、ある時を境にふたりの仲は深まった。


「自分が失恋した時……わざわざ人を集めて、励ましてくれたんです」


 共依存の関係にあった恋人との縁が切れ、自殺未遂の後に病院へ。目が覚めて退院してから、気晴らしに行った二丁目の店で再開。事情を話すと、田村はひどく傷付いた顔で、


『つらかったんだね……』


 共感と同情を見せ、人で囲むことで孤独を癒やそうとしてくれた。


「そこから、よく会うようになって」


 少なくとも、週に2回。土日はバーの仕事で忙しい青嶋に合わせ、平日に飲むことが多かったそう。

 土日も、月に一度か二度は遊びに来てくれ、酒を交わしては帰る。終電を逃す時にはラストまでいて、仕事帰りの青嶋を連れてカラオケに行くこともあったと懐かしむ声色で話した。


「……ん?あれ?」


 最初は違和感なく相槌を打っていた船崎だったが、ふと気が付いてしまう。

 青嶋と田村が交流を深めたのは、四年ほど前。二十五歳の時だ。

 その頃には、田村はすでに生活保護を受給していたはず。そんなにも飲み歩けるほどの金銭的余裕があったとは、到底思えない。


「雪乃さんって……その」


 疑問を投げようとしたが、はたして自分が生活保護受給者だと、公言するだろうか。

 ネットの反応にもあるように、生活保護に対するイメージの悪さや、当たりは強い。となったら、隠していたと考えるのが自然だ。

 どうしようか頭を悩ませている間に、青嶋の話はどんどん進む。


「付き合ってた彼氏さんも、本当にいい人で……」

「彼氏?」


 奇跡的に、答え合わせのような内容に繋がった。

 

「はい。一年くらいかな?別れた後は散々だったみたいだけど……付き合ってた時は仲良しでしたよ」

「え。でも、雪乃さんは……」


 レズビアンの、はず。いや、確定ではなかったかと、すぐに思い改める。

 田村雪乃には、彼氏がいた。

 しかも、船崎の考察が正しければ、彼女は飲み代のほとんど、もしくは全てを男に支払わせていたんだろう。そう考えれば、辻褄が合う。

 魔性の女疑惑が、ここに来て浮上する。

 女好き?男好き?田村の恋愛傾向は、未だ掴めない。恋愛に限らず、思考回路が想像もつかなかった。

 まだまだ、未知の存在だ。おぞましいほど。



 


 


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