英雄の登校フラグ、バグって大騒ぎ
朝。
ユウはベッドの上で固まっていた。
(……学校、行きたくねぇ……)
世界を救った英雄だろうが引きこもり習性は治らない。
むしろ悪化しているまである。
しかし、布団の横でスマホが光りだした。
「ユウ様。起きる時間です」
「メモ……今日は休んじゃ――」
「ダメです。
“英雄が初日から登校しないルート”は炎上フラグです」
「そんなルート存在すんの!?」
だが逃げられない。
世界を救ったせいでユウは半強制的に“特例登校”扱いになっていた。
メモは既に制服の乱れをスキャンし、
寝癖を指摘し、
ついでに心拍数まで計測してくる。
「ユウ様、緊張していますか?」
「当たり前だろ……学校行ったら絶対騒がれるし……」
「大丈夫です。
必要であれば、周囲の“注目フラグ”を折ることもできます」
「折れるの!?」
「はい。ただし、
“恋愛フラグが勝手に立つ事象”は制御できません」
「一番重要なのそこだろ!」
<登校>
学校についた瞬間――
玄関前でカメラの嵐が襲いかかってきた。
「生きて帰ってきたぞ!」
「世界の救世主だ!」
「英雄ユウくん、ピースして!」
「サインくれ!」
ユウ:「やっぱりこうなったぁああああぁ!?」
メモ:「ユウ様、深呼吸を。
この状況は……読み込み中……“ラブコメ的騒動レベル3”です」
「レベルで判定すんな!」
そこへ――生徒会長が颯爽と登場する。
黒髪でスラリとした美少女、
才色兼備、クール、校内人気No.1、
そして誰もが一度は憧れる存在。
彼女はユウの前に立つと、
すっと手を差し出した。
「天城ユウ君。世界を救ってくれてありがとう。
生徒会長として、心から感謝するわ」
ユウ:「あ、あの、その……」
すると――
ピコーン。
【新規フラグ発生:生徒会長の“感謝から始まる恋”】
【条件:握手に応じる】
ユウ(嘘だろおおおお!?)
メモ:「ユウ様、どうします?
この恋愛フラグは初期値が非常に高いです」
「高いって何!? 難易度!?」
「はい。彼女の“初恋フラグ”がすでに内側で——」
「発火させるなぁ!! 折れ折れ折れ折れぇ!!」
ユウは震えながらフラグをパキィッ! と折った。
生徒会長:「……ごめんなさい。
なんか急に握手したくなくなったわ」
ユウ:「俺なにした!?」
メモ:「正常です。フラグ折りましたから」
<教室>
席につくと、クラス中から視線が集まる。
「マジで世界救ったの?」
「SNS全部バズってたぞ」
「え、なにこの人、うちのクラスに勇者いたん?」
ユウは疲れ切った顔で机に突っ伏した。
「……もう帰っていい?」
メモ:「ダメです」
そこへ――
前の席の少女、
ピンクのツインテールでゲーム好きなオタク仲間・ミユが振り返る。
「ユウ、おかえり! 生きてたんだね!よかったぁ!」
ミユは涙目になってユウの手をぎゅっと握った。
ピコーン。
【新規フラグ発生:幼なじみ的ポジションの“再会ロマンス”】
【成功率:97%】
ユウ「高ぇよ!?」
メモ:「ユウ様、ミユさんは
“同好会で毎日会っていたのにユウが休んで寂しかった”
という未処理感情が溜まっていたようです」
ユウ「それ恋愛じゃなくて友情だろ!?」
メモ:「どちらも複合フラグです」
ユウ「複合すんな!」
さらに、クラスの隅から気配がする。
おとなしい文学少女のアオイが、じっとこちらを見ていた。
アオイ:「……あの……ユウ君……」
ピコーン。
【新規フラグ発生:“世界を救った彼への興味”】
【派生:ヒロイン化】
ユウ「派生するなぁぁぁあぁ!」
メモ:「ユウ様。世界を救った影響で、
あなたの“恋愛フラグ吸引力”が著しく上昇しています」
「そんなバフいらねぇ!!」
<昼休み>
逃げるように屋上に来たユウ。
それを当然のように後ろでついてくるメモ(スマホ)。
「……今日だけで何本フラグ立ったと思ってるんだよ俺は……」
「現在確認されているだけで――
“恋愛フラグ13本”
“すれ違いフラグ4本”
“勘違いフラグ2本”
“修羅場フラグ1本”
です」
「最後のやべえだろ!?」
メモは少しだけ、
普段より優しく言葉を落とした。
「ユウ様。
あなたは世界を救い、人々を助けました。
――その“好意”が、形として現れているだけです」
「いや、分かるけどさ……重すぎるだろ……」
「恋愛フラグは折ることも、立て替えることもできます。
ユウ様が望む形に編集できますよ」
「……俺が望む形……?」
メモ:「はい」
メモの電子音声は柔らかく揺れた。
「私は、ユウ様が“幸せになるルート”を選んでくれれば……
それだけでいいんです」
ユウは少し照れながらスマホを見下ろした。
「お前……もしかして……」
しかしそのとき――
ガラッ!
屋上の扉が勢いよく開く。
ミユ「ユウー! 探したよぉ!」
アオイ「……あの……一緒にお昼を……」
生徒会長「天城ユウ。あなたを“特別顧問”として生徒会に迎えたいのだけれど」
女子3人が同時に現れた。
ピコーン。
【修羅場フラグが“激化”に進化しました】
ユウ「進化すんな!?」
メモ:「予測不能です。これは“カオスルート”です」
こうして第二部は――
開始1話目から恋愛フラグが暴走し、
ユウの平穏は完全に消滅した。
世界は救われた。
しかしユウの日常は、まだまだ救われそうにない。
――つづく。




