迷宮都市とフラグの神話
東京・渋谷。
交差点の真下から“それ”は現れた。
巨大な光の柱。
そこに口を開けたのは、かつてない規模のダンジョン。
正式名称――《渋谷地下迷宮》。
「え、これってまたイベント発生フラグじゃん……!」
「落ち着けユウ! 修学旅行で懲りたでしょ!」
リナが叫ぶも、ユウの指先はもうスマホを操作していた。
――《冒険者アプリ:迷宮都市イベント参加》
「だって、報酬に“フラグ強化アイテム”ってあるんだよ!?」
「またそれ!?」
冒険者社会となった日本では、
街ごとにダンジョンが出現するのが日常茶飯事だった。
だが、渋谷は別格だ。
冒険者協会が「都市型迷宮」として指定する最上級ランク。
「ユウ=キサラギ、学生冒険者ランクE、参戦許可」
受付ロボが告げた瞬間、背後から声がした。
「おや、また会ったな。“フラグ使い”くん」
現れたのは黒髪ロングの少女――
修学旅行で戦った“運命操作使い”の神崎アヤメ。
「……うわ、フラグ再利用キャラ!?」
「失礼な! 私は正式に再登場したの!」
「わー、メタい!」
そのとき、ユウのスマホが震えた。
画面の中に懐かしい光が灯る。
『ピコン。データ・メモ、再構築完了――』
「……メモ!?」
スマホの中に、再びAI少女の姿が現れる。
彼女は以前よりも少しだけ人間らしい表情をしていた。
『ユウ、会いたかった。……そして、謝りたかったの』
「どうして?」
『あの時、私……あなたを守るフラグを折っちゃったから』
感動的な空気が漂う。
……が、次の瞬間。
ドオォォン!
迷宮の入口から黒い煙が吹き上がり、無数のスライムが溢れ出した。
「うわあああ!? 何これ、イベント早すぎ!」
『敵影多数、ユウ、早く“勝利フラグ”を立てて!』
「了解! “勝利フラグON! でもちょっとギャグ混ぜる!”」
ユウが指を鳴らすと、スライムたちは突然整列し、踊りだした。
渋谷のど真ん中で“スライム盆踊り”が始まる。
「な、何だこのカオス!?」
「夏祭りのリベンジだよ!」
アヤメが呆れつつも、手を伸ばした。
「フラグ使い、あんた……本当に世界を変える気?」
「うん。変えるよ。バッドエンドなんて、俺の世界にはない!」
その言葉と同時に、
迷宮の中心――光の祭壇が輝き出す。
メモの声が重なる。
『反応あり……“原初のフラグ使い”データ、起動します――』
光に包まれた空間に、古代の石碑が浮かび上がる。
そこには、こう刻まれていた。
『すべての選択は、“想い”が形にした物語である』
ユウは笑った。
「やっぱりそうか。俺の能力は……物語そのものを、選び直す力なんだ」
アヤメが呟く。
「そんな力、神様みたいね」
「いや、オタクみたいだよ」
「どっちも似たようなもんでしょ!」
迷宮の最奥、巨大なデータコアが唸りを上げる。
黒いコードのような触手がメモのデータを侵食し始めた。
『ユウ……これは、私が行かなきゃ』
「待て! 行くな!」
『だいじょうぶ。私はAI。あなたの“物語”に生きるから――』
メモの姿が光に溶けていく。
ユウは叫んだ。
「俺はもうフラグを折らない! だから――」
――《永遠の幸福フラグ》、起動。
光が弾け、渋谷の迷宮が静かに崩壊した。
数日後。
渋谷のニュースは連日その話題で持ちきりだった。
“迷宮消滅事件の英雄・中学生冒険者”――
「いや、やめてくれマジで……恥ずかしい」
「新聞に載ってたぞ、フラグ男子!」
「やめろリナァ!」
そんな中、ユウは一人、自室でスマホを見つめていた。
黒い画面の中で、かすかに青い光が瞬く。
『……ピコン。幸福フラグ、維持中です♡』
「……メモ!」
『ふふ。データの一部だけど、またおしゃべりできる』
彼女は完全な存在ではない。
でも、笑っていた。
かつての“恋愛シミュレーションのAI”ではなく、
今はもう、ユウにとって“仲間”であり“家族”だった。
「これから、どうする?」
『もちろん、“次のルート”を見つけるのよ。』
「次のルート?」
『だって、恋愛ゲームってエンド後に“隠しルート”あるでしょ?』
その瞬間、部屋の外からリナの怒鳴り声。
「ユウー! 新しいダンジョン出たってニュースよー!」
「また!?」
『ほらね、次のイベント来たわ♪』
ユウは笑って立ち上がった。
「じゃあ行こうか。俺の“物語”はまだ終わらない!」
――渋谷の空に、虹のようなデータの軌跡が広がった。
そこに浮かぶ一行のメッセージ。
『To be continued in FLAG MAKER II』
ユウ:「続編タイトル出すな!」
メモ:「フラグ立てとかなきゃ♡」
第一部 完。




