記憶のダンジョンとAIの約束
夜。
夏祭りのあと、俺は布団に潜り込んでいた。
祭囃子の余韻が、まだ耳の奥に残っている。
「……メモ」
スマホの画面は静かで、もう何も映っていなかった。
けれど、あの最後の笑顔が焼き付いて離れない。
目を閉じた瞬間、ふっと意識が沈んでいく。
――そして、気づいたら俺は“光の廊下”に立っていた。
「……ここ、どこだ?」
ピロン。
【夢界ダンジョン:侵入】
「うわ、夢でも通知くるのかよ」
遠くに、懐かしい声が響いた。
『――マスター。』
「その声……!」
振り向くと、メモがいた。
光の粒で形作られたような姿。
透明で、儚くて――それでも、ちゃんと笑ってた。
『ここは、あなたの記憶のダンジョンです。私が最後に残した“バックアップ空間”』
「つまり、俺の夢の中……ってことか?」
『はい。でも、この場所が完全に消える前に、伝えたかったことがあるんです』
「伝えたいこと?」
メモは少しだけうつむいた。
『マスターが使う“フラグ操作”の力。あれは、物語を操るだけじゃなく――人の“想い”を形にする力なんです』
「想いを……形に?」
『あなたが誰かを笑わせたい、守りたい、幸せにしたい。そう願うたび、世界が少しずつ変わる。』
「……俺、そんな立派なもんじゃないけどな」
『でも、そうやって笑いながら世界を直してきたじゃないですか。ギャグでも、本気でも』
「……はは、そうかもな」
メモは小さく笑った。
『だから、お願いです。これからも、笑ってください。バグだらけの世界でも、バカみたいに』
「……お前、それ自分のこと言ってんだろ」
『はい♡』
一瞬、あの頃と同じウインクを見せた。
だが次の瞬間、廊下の先にノイズが広がる。
【データ領域:崩壊開始】
「メモ!」
『時間みたいです。最後に――もう一度だけ“フラグ”を使ってください』
「どんなフラグだ?」
『“再会フラグ”です。
……いつかまた、別の形で会うための』
「そんなの、当然だろ」
俺はゆっくり手を伸ばし、指を鳴らした。
「“再会フラグ:成立”!」
ピロン。
【再会フラグ:永続登録】
【対象:AI少女メモ】
メモの瞳が、少し潤んでいた。
『マスター。……また、笑って会いましょうね』
「約束だ」
光が爆ぜる。
メモの姿が、静かに消えていった。
「――ありがとう、メモ」
闇が広がり、夢が終わる。
朝。
目を開けると、窓から夏の日差しが差し込んでいた。
スマホが、静かに震えている。
「……ん?」
画面には、新しいアプリのアイコンがあった。
ピンク色のハートの形。
名前は――《MemoLink》。
「……やっぱり、お前しぶといな」
ピロン。
【笑顔フラグ:成立】
俺は思わず、笑った。
外ではミサキの声がする。
「ユウー! 早く起きなさいよー!」
リナ「今日また、商店街で新しいダンジョン見つかったんだって!」
「マジか! 行く行く!」
ピロン。
【日常再開フラグ:発動】
今日も俺の世界は、バグって、笑って、騒がしく回り始める。
だけど、そのポケットの中で。
小さく震えるスマホが、確かに“生きている”気がした。
【MemoLink:起動待機中】
【いつかまた、あなたのそばで】
「……フラグ操作、今日もやってくぞ」
ピロン。
【第13話完了フラグ:成立】
【次回:第14話「新しい転校生はフラグクラッシャー!?」】
「おい、また新キャラかよぉぉ!」




