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願いは弟であることだった。

背理がイチャイチャしてたから方向性が変わってしまった。軋轢ではない。

みんな正気があんまりない。。。

 よぅく見知った天井。幼少期から青年期の間目覚めて目の前にうつるこの景色を苦痛に感じていたので、忘れることも間違えることもない。

だってガイアは未練がましくいつか父が迎えに来てくれないかと、夢に見ては毎朝この景色を直視してきた。それは今日も同じ、で、、、?


「は?」


 かすれて酷く痛む喉など無視し、直近の記憶を探る。随分と朧気だが、ガイアは確かに過去の遺物とともに奈落に落ちたはずだ。

それなのになぜ"見知った天井を見上げている"?パニックに陥った状態で何とか事態を飲み込もうとし、これまでの経験則と、命脈を保つために癖づいた反射神経に基づき寝かされていたベットに敷き詰められているクッションの海から抜け出して、立ち上がろうとした。だが全く体に力が入らず床に横たわる、音のわりに痛くはない。

意味が分からない。

 怠いなどという領域を超えて、筋肉をどう動かせばいいのかわからない。うーーーーんそもそも動かす必要はあるのだろうかと、諦めの悪いガイアの行動に反して逃げに走る思考にそのまま身を任せ、目を瞑ってしまいたい。目が覚めてからずっと頭の中はひっちゃかめっちゃかで、皆が手と手を繋いでダンスを踊る、記憶と思考のムラとギャップが気持ち悪く、何も、何がどうなっているのか全く分からないし、分かったところでどうにかなる気がせず、頭の中に浸透していく混乱、焦燥、無力感。そんな愚にもつかぬ感情に誘われるままに何某と踊ってやる。あーあ騎兵隊長様がなんと情けないおっと騎兵隊長はやめたんだっけな。新しい名(名?)のエバハートととしてまた騎士団にでも顔を出してみるか。上半身と下半身がお別れするかな。


然し動かなければという使命感がガイアの自問自答過去回想に拍車をかける。

___だが反省はされど、過去を悔やんでも自己嫌悪をする価値はないので、確り状況を確認する。予想が正しければここはとっくに客室になったはずのガイア・ラグウィンドの部屋で、館の持ち主かお節介なメイドが音に気が付いているのならばここにくるはずだ。それは、嫌だ。

合わせる顔なんてない。この館が絡むとだめなのだ、自他ともに優秀とめいをもらっている脳が勝手に過去を羨み回想する。殺すぞ。

カーンルイアで死んでしまいたかった。風も自由もないあの場所は居心地がよかったのだ。ガイアの始まりの記憶はテイワットに繋がる大扉に実父と手を繋いで目指したところからで、そこに何があったかもどう育ったかも覚えていないのに、二度と与えられないと諦めていたあたたかな感情がそこにはあって、かえりたくて仕方がなかったから、だから使命も信頼も捨て、血と鉄で耕された土地で蹲っていたのに。


 コツコツコツと早足にこの部屋に近づく足音が聞こえる。嫌だ嫌だ嫌だ!頭の中で喚くが無常にも扉は乱暴に開く。はあ。


「…なにを、しているんだ。」


最悪だ、館の主様の堂々ご登場。


「っどっかの誰かさんに、ケホッ、ご招待された被害者だと思っているんだが、いきなり随分な挨拶じゃあないか?」


 ベットとの添い寝をやめて、館の主___ディルックに笑いかけるが仏頂面に拍車がかかる。モンドの住民には優しそうとか気安そうとか好評なんだがな、此奴と旅人とその相棒には胡散臭いやら好き勝手言われてて悲しいぜ。

嗚呼頭の中はぐちゃぐちゃなのに、普段となんら変わらない態度をとれる自分が嫌いだ。まあ本音など言える環境でも立場でもなかったので、幼少期から根付いた処世術である。


「口は回るようだが頭のほうは無事ではないのか?客ではなく請求対象者だ。君にかかった医療費、従業員の心的外傷、アビスの活性化で被ったブドウ畑、は負けてあげる。少なくとも君の貯金では賄いきれないと思うけど?」


「当たり屋かよ、、、」


「ほう。つまり助けてほしくなかったと、そうだよね風神像と騎士団本部一帯を凍らせて清泉町の放火。これも君がやったことだもんね。」


「ふーん。知ってて助けたのか。まさか天下の旦那様が金の無心ってわけでもないんだろう?何がお望みなんだ。なんでもしてやるよ例えば英雄様のコレクションにでもなってやろうか?風神の吐息よりも生きたカーンルイア人のほうが貴重だぜ、なんせアンタラが皆殺しにしちまったからな」


 マアバレてるだろうな。そうだろうそうだろう。派手にやらせていただいたからな。だが、死に逃げするはずだったので今生きていることが予定外なのだ。嗚呼此奴はいつもそうだ俺の予定を悉く壊して悪びれもなく尻拭いを他人ヒトに任せて、誰が!隠蔽、隠匿諸々後処理をしてきたと思っているんだ!庶務長に上がる以前から今の今まで!公僕の癖に関係性とか、情、とかで見逃し続けてた私刑執行マシーンを増長させたことには目を瞑らせてもらう…。理性をで堰き止めていた怒りとかいう不快な液体が脳に染み出す。吸水。殺菌。乾拭き。はあ。

…今回は普通に俺が悪いな。

目下議論すべきは賠償金のことである。人間って全部売ったらどれほどになるんだったか、肝臓や胃諸々贓物は状態が悪いことに自覚があるので期待できないが髪は長ったらしいままなので高く売れたはずだ。女ではないので物理的なモノの有無で多少値段は下がるがきっと1.5億モラはくだらない。いやしかし、医療よりはコレクターへのプレゼントとしてホルマリン漬けとかかな、目とかさ。マトモな機関での全モツ売買は不可能ってワケ。


「...いいんだな?」

「………は?なにが?」


 なにか聞き逃した?。


「君が言ったんだよ、僕のものになるって。」


 ……少々神経を逆撫でしすぎたのだろうか、それとも言葉選びが最悪な人身売買なのか?


「まだその冗談を覚えていたのか、君ってそういうところあるよね。」

「…旦那の冗談は冗談に聞こえなくてな。」

「そう。僕からの要求は3つ。1つに僕の許可なく外出を禁止する、2つに誠意のない人付き合いの禁止。もし、交際したい相手がいるのなら先に僕に通せ。最後に、幸せになる努力をしろ。以上だ。」

「………それが、それは、生きろっていうのか?お前が、俺に…ハハ…」


 空回る舌、絞り出された空笑い、押し流されたお品書き。育ちの義兄サマは俺のことをようく理解されている、おかげさまで血が脳へ廻り廻りショート。データ検証。あれって結構長い、。もてるリソースを凡て割き冷めぬ神経回路ニューロンがシナプスと間違った情報伝達を繰り返す。熱くなった端末ってなかなか冷めなくて困っちまうよな………。そう困っているのだ。だって、あの雨の日まで双子だとまで言われるほど理解ができていたはずなのに、もう此奴が何故まだ俺を生かしているのかわからない、殺したいんじゃなかったのかよ。今わかるのは此奴の死滅した表情筋が「殺意」「怒り」この二つを醸し出しているということだけ、あんな、あんな世界で一番可愛い顔と表情をもってして「好意」を伝えてきた世界で一番可愛いディルックは、、、まあ、俺が、壊したんですが、、、、、、。


 そんな犬も食わぬステキで素敵な過去に思いを馳せて、ここが頑張りどころなんだと気合を入れる。お前が殺してくれないのならその辺でくたばるから。

神の目どころか愛用していた儀式剣も手元にないが仕方がない。偏桃体が活発に反応しだすのを縛り付ける。確りと激しくなる頭痛。思考を続ける恐怖から逃げても仕方がないので立ち向かい麻痺していく思考回路!

力の入らなかった体も多少、何かを支えにすれば歩けるくらいにはなったんじゃないかと自己評価し、壁伝いにディルックを押しのけ扉から出ようとしたが、左肩に熱を感じ足を止める。


「おい、外に出るつもりか?そんな体で。」


そういってディルックは肩に置いた手に力を籠め、重心がかかった左足を払う。宙に浮いたガイアの体が重力に従い落ちていくのを見下ろす。

そんな一瞬の出来事がガイアに随分とゆっくりに感じられる。クソが、分かっていたのに体が追い付かずされるがままに地面と背中が仲良しする。俺が仲良くしたいのは手の内で踊る玩具(例えば愚かでかあいい宝盗団 通称:おろかわ!やら、俺に気のある没落貴族の皆々様方、etc…)と酒瓶だけなのに!


「カハッ」


すかさず首を掴まれ、のしかかられる。背中を打ち付けた拍子に飛び出そうとした酸素が首を絞められた影響で喉元に留まり、結構苦しい。

悔しくてディルックを睨む。

「いい顔じゃないか。普段の憎たらしい顔よりそちらのほうが好ましいよ、真っ赤で、汗ばんでいて、ふふ涙ぐんでしまっているね。嗚呼わかったかい、君の命は、権利は僕が握っている。君はこの部屋からは出られないね。」


「ッはな、せっ、!」


視界が白む。なーにが好ましいだよド変態野郎、故郷など滅びているのでもうなんにもないのだ。アルベリヒ一族だけかカーンルイア人の文化か知らないが、情報を記したものは用が済めばすべて燃やすよう実父に教えられており、年端もいかなかったガイアが今も持っているものは躾けられた剣技と、焔に投下された、実父がガイアの名前を紙に書いたものを火傷承知で取り返したガイアの女々しさの顕れ。それだけだ。これから期待も掌の体温も与えられることは決してない、おれは父さんが迎えに来てくれなら20年だってひとりで待っていられたのに。


地脈の秘密も、ヒルチャールの言語もガイアが自身で調べたものであり、ホムンクルスのことなんて青天の霹靂でしかなかった。

否、ホムンクルスがアルベリヒの情報を残せなかったことをみるにやはりこれは”同族共通のルール”であるからして、破ってしまったガイアを迎えに来てくれなかったのは当然のことだった。

嗚呼なんにもしらないただのガイアとして、モンドに生まれて隣人と同じ肌の色で、酒と自由を愛する人として生まれ父と生活をしたかった。否そもそもガイアなど生まれるべきではなかったのだ、どこでどう生まれようがこの性根が変わらないからきっと、同じ幸せはないんだろう。


意識がもうろうとしてきており、支離滅裂な思考が廻り続けばたつかせた手足もとっくに地についてるにも関わらず首を絞める手の力は変わらない。

おいこのままじゃ此奴の目の前で泡を吹くんじゃないか!?と焦りが顔を出す、遅すぎる。本当に嫌だ!

泡を吹く宝盗団の若者がどんな有様になるか知っていて(この時ガイアは大笑いしていた)あんな!顔の痙攣だけで済めばいいが失禁までしてしまったら耐えられない!人間として!(若者は小も大も漏らした、勿論むせるほど笑った。)


もう声なんて出せないし睨めているのか曖昧なフェーズまできてる。というか此奴終始無言で顔見てきやが、って、ッく…そ……







「...やっとおちたか」


この阿呆な弟は1か月も目を覚まさなかったのに随分と元気で、心配していたこちらの心をぐちゃぐちゃに掻き乱してくる。

口が回ってないと死ぬのか?なんで動けるんだ畜生。ついそうひとりごつのを許してほしい。

何故ってモンドを、騎士団も裏切ってこちらを出し抜いた優秀で厄介なカーンルイアに一人で向かった弟を裏切者と覚悟を決め殺しに行ったのに、アビスも耕作機もいない耕地で死にかけており心底肝が冷えた思いをした。

千切れそうな足首に、今にも零れんと脈動を打つ臓器、絶え間なく滴る命。家族の灯が消える瞬間。刺激を受けた心理的外傷の赴くまま喉をかきむした衝動的行動。再三になるが実に肝が冷えた。


幸いにもきれいに落とせたので、少々口からでている泡を拭き取りそのままガイアをシーツの上に寝かせた。

少しでも水を飲ませてやりたかったが、素直じゃない弟が素直に感情のままに顔をゆがませていてちょっと、うれしくてその、やりすぎてしまった。嗚呼あとでアデリンに怒られてしまうな…


ガイアの眠る(締め落とされたのを眠るというのだろうか)ベッドに腰かけ前髪をさらう。


「君のこと理解わかっていると、今も思いたいんだ。」


そう、なんと言おうとディルック・ラグウィンドという男の人生は半数以上なにもかもを燃料にし怒りを燃やし続けている。そうして周りなど見ず走り続け、自分を無碍にした結果ついにはジンを差し置いて英雄様などと呼ばれるに至り、期待も羨望も背負い自分だけが頑張ればいいと本気で思っていた。そうして無理に無理を重ね、命を燃やし続けるディルックの生き方は皮肉にも邪眼と似通った性質をしていた。

そんな自分を支え続けた先代の代からワイナリーの従業員や、自分が身体的にも肉体的にも傷だらけにしたにしたにも関わらず(左目が失明しなかったのは奇跡だろう、本当に…)回りくどく気にかけてくれた弟、本気で嫌おうとしても嫌えなかった家族をどう愛せずにいられようか。


そんな弟は殺したいほど憎くて同じくらい愛していたから、殺すのは自分だとまあ、ようはなめて腐っていた、侮っていたのだ。のにも拘らず酷くやりこまれ出し抜かれ目が覚めたのだ。(詳細は語りたくない、しいていうならば”何者か”に意識を奪われて(僕はクスリにの類だと睨んでいる)目が覚めたら靴下以外は着脱された状態で椅子に縛られていたことくらいならば、話せる、、、)


地獄で内臓も傷だらけで、骨は罅だらけの死に体なのに心底幸せそうな顔、そんな頭が優秀なくせにクソ馬鹿な弟。見つけた時には燃え続ける焔が大層揺らめいたがそれはガイアの誠実さの証明であった。久方ぶりに怒りの燃料ではなくガイアという人間の本質を垣間見れた気がして気分が高揚した、実に成人したあの雨の日以来だろう。


さて、如何に気分が上がろうとやらなければいけないことはあるので、ベットから重い腰を上げる

まずはアデリンに声をかけて医者を呼ばなくてな。言葉を交えるためには大前提として相手の意識が必要なので。

窓にはめ込んだ鉄格子の状態を確認し、扉にしっかりと外鍵をかける。



「旦那様、こちらを。」


「...アデリン、いたのか。」


「えぇ、医者の手筈もととのっております。それと本日異邦の旅人様が”旅立つ”ようですよ、ご挨拶はお済ですか?」


彼女には恐ろしいくらい何もかも筒抜けで、敵わない。

ワゴンの上には水とすりおろしたリンゴ、原形が分からなくなるほど煮込まれたスープ。カトラリーは鉄製品、本当に敵わない。

これは余談だが僕が出張で不在にしているときにガイアは彼女に会いに来るらしい、出て行ったくせになにを未練がましくコソコソと…。なんでも怒りの燃料にする癖に自覚的でありながら、これはこれと正当化する。


「ご苦労、旅人には手紙を届けさせる。もう下がっていい。」


ペコリ。メイド長は頭を下げ去っていく。


ワゴンを受け取り、ガイアの部屋へ戻る。枕もとのチェストの上に置いておいたものを引き出しにしまう。

これから、幸せになる。条件は凡て揃っている、緊張することはない。

ディルックの中にいる子供が「ガイアは僕のためにうまれたんだろう?」と叫ぶ。馬鹿だ、馬鹿なガキ。違うよガイアは僕ら親子を利用するために、ここに来たんだよ。そう呟き丁寧に丁寧に心中にいる僕を隅に追いやる。

この小さなぼくを殺せないのは僕の女々しさの証だ。

輝かしい幼少期の思い出、どれだけ血塗られようとこれだけは輝いているのだ。

そう、元来からディルックは傲慢不遜でありそれはラグウィンドというモンドの3大貴族にして、その中で唯一の男児として生まれ落ちた赤子(赤き星)の運命であった。






 再び相まみえる見知った天井。疲れた、もういいじゃないか天秤には何ものっていない。ガイアにはもうなんにもないので。


「…酒が飲みたい。」


ベットに腰掛ける育ちの義兄がため息をつく。


「君がこれを食べきれたらな…」


トレーに乗った水とスープにペースト状の何か、湯気がないのできっと冷めている。酒が飲みたい。どうせ味などわかりやしない、食欲なんて湧くはずがない。神の目に監視されるようになってからというもの温度も、味蕾も磨り減って鈍くなった痛みと感情、あるんだかないんだか煩わしい性欲、薄い正気と分厚い狂気。どうでもいい、空になった客席。

焦点が微妙に合わないので膝に乗せられたトレーがあるんだろうなという場所に目線を集めて耽っていたら何時も着けている黒手袋を外した傷だらけの手がスプーンを取り、水を掬う、必然口元に近づく手と銀食器。あ、おまえこんなとこにも火傷の跡が。


「あぇ…んっ……」

「さっさとしろ。」


ディルックからスプーンを奪い飲み下す。嚥下しずらいのでたぶん、喉腫れてるかもな。時間をかけていただいたそれらはやっぱりなんの味もなかった。もっとこう、ミントゼリーとか豚肉の油炒めとか刺激的で酸味のあるものなら多少楽しめるのに。

ディルックを見つめる。なァ、全部食べたさ約束通り酒をくれよ。期待の眼差しに男はゴミを見るような目で対抗してくる。でも此奴はなんだかんだ甘いから。ほら部屋を出ていく。そういうところがアマちゃんってロサリアぼやかれるんだぜ。さあて、さっさと此処からでますか!


ガチャガチャ


あれ、ドアノブになにかが引っかかる感触。

開閉の「開」の方向にもう一度。


ガチャガチャ


ガチャ、ギィ…


おや、ドアノブを捻るのとは違う音。暫く来ないうちに鍵、つけたんだな。うんうんワイナリーの防犯対策はどれだけ厳重にしてもいいもんな、でも鍵つける方間違えてるんじゃないか?マァ誰にだって間違えることはあるさ。今度腕利きの業者呼んでやるよ。


バン!!


「危険」デカデカと脳を埋め尽くす警報。開閉の「閉」の方向に全力で回す。空回る感触、少しずつ押される扉。足元を見ると扉の隙間に入り込んでくるブーツ=足。冷や汗。

少しずつ着実に押し負ける、まてやり直しを要求する!万全な状態ならば拮抗できるし、勝ち目がなくもない。今そうではないのだから愚にもつかない物凄くダサい言い訳を並び立てる。


「ひっ......」


隙間から覗き込まれる赤。どんな悪漢もションベン散らして逃げ出すだろこんなん。


「どうしたの、開けて」

「い、いやだ」

「ガイア。」

「うぁ、わかった、わかったから、、待ってくれ…」


足が下げられる、赤も見えなくなる。安堵の息。

兄の顔をするディルックは苦手だ。吐き気がする。いつもみたいに冷たくあしらって吐き捨ててくれよ...お前にはその権利も理由もあるだろ。

くそったれ。


「はぁ...入ってもいいぞ。」

「ほら、蒲公英酒でいいか?飲みすぎるなよ。グラスはそこにある。」


男が後ろ手に扉を閉じる、酒瓶を渡される。そこと指さした先は窓際、懐かしい旅行先でつくった3つのグラス。そのうちの1つはもう二度と使われない。なんだってこんなグラスを飾っているんだか、使えるわけないだろ、もうラグウィンドではないし。マァそうでなくても使わないのですけど。


さてと、どうやらコイツは俺を殺す気も、裁く気もなく今更和解?ってやつをやりたいようだ。そんなものは許せない。だから仕方がないよな?もうお前に道を踏み外してほしくないからさ。

ということで、義兄サマは否定したいようだが暴力は最も容易いコトは事実だ、すまんすまん。先に謝罪を済ませておく、後ろをついてくる育ちの義兄の頭蓋に向かって酒瓶を力いっぱいフルスウィング。


ガシャン!!!


飛び散る血だか赤ワインだか見分けのつかない赤が部屋を汚す。相も変わらず石頭で安心したよ、頭蓋骨は砕かれず砕けたのは瓶のほう。

アァ皆様は酒瓶を叩きつけた経験はおありだろうか、アニメとかでよくあるギザギザに鋭利な凶器になるアレ。ここで軽く雑学を披露しよう、割っても案外断面は尖らない。そして、問題なく凶器になる。


「、っがァ...」

「すまんなァ、お前の要求何一つ応える気はない。そのまま気を失ってくれればこれ以上痛めつけるつもりはないぜ。」


衝撃にふらつき膝をつく男。お気の毒なお気楽道中。この程度で気絶なんてするわけないよな、可哀そうに。気絶した方が楽だったのにな。

男の腹に断面を突き付ける、ニコリ。


「このまま腹かっさばかれるのか俺を殺すの、どっちがいい?」


返答はない。ふむ、脳震盪でも起こしているのだろうか。だとしたら膝をつくだけなど大したものだ、折れることのない信念ってヤツ?あーあ羨ましいな。

木偶の坊にようはないので、凶器をさげるつまらない。選択ができるお前を気に入ってるのに。

ここで首をつっても楽しそうだけれど、邪魔が入ってツマラナイ結末になるのは御免だ。気怠い体と死に体の倫理観。あ、アップデートは終わってます。お使いの言語バージョンはカーンルイアになっていまーす。はい、はい...。


「はあ~~~、酒もったいねぇなー...」


然しまァどうでもいいか。一瞥。今度こそ振り向くことなくこのまま出よう。

然し扉まであと少しというところで羽交い絞めにされる。


「はぁ!?、っ~~!」

「また、嘘をついたな。僕は言葉にしてくれなきゃわからない、そうやって一人でやりたいようにやって自己完結するな!」

「はっ、なんでも一人でやり遂げるお前にはわからないだろうな、コミュニケーションは向き合わない方が円滑にまわるもんだ。」

「、もういい君がその気なら僕にも考えがある。」


そう云って手に在るのは銀色のケース、そのケースに貼ってあるシールに覚えがあり、どんな行動理念でそれを人に打とうとしているのか察する。最低だ...!


抵抗虚しく容器に入った液体が注入される、育ちの義兄にはどうやら人間標準記載の理性(ブレーキ)がないらしい。そのステキな液体がハッピーでシアワセセットだと実験したこの身をもってよぉく知っている。だって、お前に使おうとしてたから。

荒ぶる息針先から目が離せない。巫山戯るなクソ野郎。まさか騙し討ちなど選ぶとは!

嗚呼、人が我慢してたことを……!俺がどれだけお前の笑顔が見たいと思ってたか知ってんのか、俺の知らない3年間で増えた筋肉量、傷、全てひん剥いて指折り数えたいのを理性をもってして我慢していたのに!いつからそんな卑怯になったんだ……お前は馬鹿力で俺は頭だったろうが……あ。俺の性か


「僕は君のことを理解したいんだ」

「っひ………あ、ぁ……、っ…」

「…………愛して。」


は? 


昼から始まる驟雨 血のにじむ足先 ぐちゃぐちゃとなる足音 裸足の礼服 つんつるてんにも拘らず窓に映る己に興味なし 止まぬ自戒自業 自業自得の成れ果て 差し込む朝日 月光の窓明かり 騒がしい夜 扉を開くと集まる視線 声のデカイ童女 目を逸らす童男(おぐな) 伸ばす気もない皺寄せ 貴方にも、そう貴方にもご迷惑をおかけしました 何処にいてもかえりたいと喚く脳の裏 生命の蠢き 手足に滲む液体 閉じた瞼に群がるノイズ 痒みだす手首 安堵する無思考 解放してやくれない偏頭痛 落ちて気がつく涙 喉にしがみつく延長コード 田畑の(はた)で希死念慮 死ぬ気でやりなよそしたら死ねるから、さ 痛く見えるのは無理解無関心の為せる(ごう) 誰もわかってくれやしないのは口下手だから 口癖の謝罪 両親の怒声 論を俟たないで否定される思考 よくわかんないし 人生観の押し付け 非同一人物 饐えた部屋に空白な一角 未開封のインテリア ちぎれたダンボールの中身無し TVに映る人間は私に話しかけてくれないし つるってんなズボン。 目覚めても枕元にある薬の抜け殻遺書に請求書 市役所通路に張り巡らされたら広告。 「自殺を考えるほど、つらい気持ちを抱える貴方へ 03-5286-9090 (匿名で電話できます)」 「命のSOS 0566-91-1168」 「あなたは1人じゃない」 「ヤングケアラーは身近にあります」 「相談して、その悩み 1人で抱え込んでいませんか?」 「私有地への立ち入りは犯罪」「3つ以上当てはまったら病院へ」 「やめよう薬物乱用。」「薬の過剰摂取は命に関わります」「STOP自殺。」





父さんの手のひらが好きだった

褒められるのが好きだった

それさえあれば生きていけると思った


だから重ねたクリプス様に父さんを

温度の違う手のひら、瞳、規則。

心地が良かった


「ほんとうに?」


気持ちが悪かった

髪がぐちゃぐちゃに絡まる両の手のひら

可哀想だと憐れむ瞳

自由の強要


「父親はどこへ?」


父はぶどうジュースを買いに行きました

僕はここで待つよう言いつけられました

父さんがどこへ行ったかは知りません


「父親はどこへ?」


知らない

でも待つよう言われた

俺は最後の希望だから

待つってことは迎えが来るんです

言いつけられたことを反芻する、それが規則だから


警笛。


クリプス様は俺に衣食住と心を与えた。あたたかい、家族はあたたかいもの。

知りもしない、知りたくもなかったこと

父は俺を愛していなかった


「愛されたかった?」


ずっと。愛していたから。

必要とされるのは心地がいいもの

でも、俺は出来損ないだから心が揺らいでいる。

必要のなかったもの。

クリプス様の事を初めて養父(とう)さんとよんだ。


警笛


一向に触れ合わない俺と義理の兄をみて、養父さんは海に連れて行ってくれた。

とってもあつい夏の日でした。

夏の日差しの中義理の兄について浜辺を歩くのは気まづくて足元にまとわりつく砂の感触と光る水に意識を集中させる、太陽のない国に生まれたので全てがキラキラと光っているこの視界は新鮮でとても楽しい。


「ついてこないでよ」


義理の兄が足を止めた、顔を見やると麦わら帽子で翳っても光る瞳に睨まれていて己の立場を自覚させられる。

異物で、醜悪な俺を嫌うのは仕方がないのだろう。俺の事で彼の父親に窘められていたのを知っているので、誰の目にもつかない今が彼にとってチャンスなのだろうな。


「僕は君が嫌いだ、僕の父さんなのになんでとるんだよ」

「…………」

「そうやって黙っていれば可哀想な養子の君は助けてもらえるんだ、狡い、狡いよ。」

「…わかった。」


ディルック様の横を走って通り抜ける、後ろから言葉が聞こえた気がしたが、これ以上聞きたくなかった。麦わら帽子が風に吹かれるのもお構い無しに走る、大きな岩が密集している地点を抜けたところに洞穴があったので、上がりきった息を整えるため陰に入り座り込む。

「っは、はぁ…ふぅ……」

彼が父親の期待に応えるため努力を重ねているのを知っている。文字を読めるようにするために書庫に通っていた期間毎日彼を見た。葡萄の剪定を手伝っていた時にも、木刀を振るう彼を見つけた。

そんな彼から父親を一片たりとも奪う資格などない、俺も父さんが大好きだからわかるよ。

文字の読み書きはできるようになったから仕事はきっとある。なにもラグウィンド家に留まる必要は無い、モンドで生きていればいいんだ。

養父さんにはディルック様がなんとか伝えてくれる、養父さんはどんな反応するのかな

悲しい?嬉しい?養父さんも清々するのかな……。

呼吸も元に戻った、大丈夫俺は最後の希望だから。

モンド城を目指すにしても夜の方が都合がいいから少しだけ、おやすみ。



「どっちが好きなの?」


…………父さんが大好き。


「だからクリプス様が死んだ時笑ったの?」


あぁ……面白いと、思ってしまった。

底抜けの善人で正しかったクリプス様が邪眼(おもちゃ)に手を出していたこと、騎士団にはいる憧れを抱え続けていたこと。

それに、安堵したんだ。俺は実父と養父をずぅっと天秤にかけて揺らいでいて、養父の命をもってしてようやく傾いた。


「最低だね」


理解ってる。

でも誰しも色んな顔を使い分けて生きてるんだ

正しさだけが全てじゃない。


「でもにいさんにはわかってもらえなかった」


…………


「己を正当化して、信じてもらえると思っていた」


………………


「烏滸がましいね、捨て子の身で」


……………………お前にはわからないさ。

信じてもらうという危ない中毒のことも

褒められて涙が滲む虚しさも。

アイツは正しいことばかりじゃない世界で正しかった。


「裁かれたかった?」


生きたかった、義兄さんたちのように。


「死にたかった?」


己の誠実さを掻き集めたんだ。


「どっちがほんとう?」


…どっちも本当だな。

あのタイミングじゃなかったら、ディルックは俺を許してしまうから。


「生きようと足掻いた」

「残滓に堪えない生であるべきだと」

「舞台のスポットライトは主役のものだ」

「如何に面白くしようか」

「悪癖」


”俺”を殺した。

警笛はもう、聞こえない。


シアワセなユメ

義兄弟になれた暑い夏の貝殻の誓い。

暖炉の前で3人で談笑した真冬の夜。

2人で作った暗号。

家出から連れ戻された真夜中の約束。

見守られて葡萄を踏む喜び。

食卓を囲む暖かさ。

ぬるい風。天然のひかり。果実と微笑み。

亀にスーパーアルテミットリーフって名付ける可愛らしすぎるディルック。

男は家族になり、困った義兄はいつの間にか困らせられる兄になって、双子になった。

箱に詰めた貝殻、イグサの栞、壊れた懐中時計、燃えカスに近い実父の筆跡ににいさんからの手紙はいっぱいいっぱい膨れ上がった宝箱になって、亡骸になった。


目が覚める。ハッピーシアワセセットはおしまいらしい。まだ瞼の裏は虹色に光り輝き、可愛らしい幼き義兄に囁かれている気がするが、もう幻覚幻聴幻想は終わり。最高の多幸感から踏み外した落差による絶望が蝕む心はもうこれ以上ないらしい。

頬を伝う温水が肌をひりつかせる。


「なんとか言ったらどうなんだクソ野郎。」


脇でこちらを見つめる男に言葉を投げやる


「君、初めてじゃないだろ……」

「…ご希望に添えなくてすまんな。なァ、なんでお前が泣いてんだよ…………」


明らかに被害者はコチラなのにまるでコチラが悪いみたいじゃないか、いやみたいではなくコチラが悪いな。決してディルックに非はない、あることなどない。俺が全て悪い、これは理屈じゃなく真理、わかるか?


「君は、僕のこと好きじゃ、ないのか」

「、、、好きだよ」

「アリスさんの金リンゴ諸島で言っていたことは、僕ではなく父さんだった、」


思い当たる節が脳内ででっかく主張する。うるさいな、らしくもなくはしゃいで弛んでいたんだ。違うのになァ〜。病的だと自己判断出来るクライお前のこと、あいしているのに。

だがしかし、事実子供の頃に逆行できたら間違いを犯すことも無くコイツから幸せを奪うこともなかったのでその辺のオレが彷徨っていたのだろう。解説してやると、このオクスリの効果は使用した後借りていた賃貸の壁は落書きに塗れていたので、結論ちょーシアワセな夢遊病とかその辺。消えてもらった宝盗団の資料と参照すればまぁ納得だな。ちなみにターゲットはバーバラだった。

それにしてもそんな事を気にして、アブナイお薬をお前の義弟にに打ったのか?信用があまりにもなさすぎる……。マァそうなるよう仕向けたのは俺なんですが……。


「俺さぁ、お前のこと裏切ったよ、手酷く、杜撰に。」


言葉にするのも難しい程惨たらしく。


「違う、裏切ったのは僕だ。あれは君なりのSOSだった。」

「でも、俺は最後の希望のままだった。」


天秤は実父に傾倒した。


「…………あいして」

「…またそれか、俺はお前とこれ以上一緒にいたくない。」

「違う、、、「違くない。」「違う!、、僕は君を、自分を、あいしてと言っているんだ…………君の幸せは叶わない。叶わせない。叶うことがない。そう、叶えない、だから、僕がもらってもいいだろ?」


床で仰向けになっていた俺の下腹部にディルックが乗り上げる。両腕を一纏めにされる。そんなことしなくても、俺はお前に抵抗なんてできやしないのに。


「……」

「君の幸せは僕が決める。僕が君を大事にする。約束は、果たさなきゃ。だから、だから、僕の最後の家族の君は一対で、兄弟で双子で親友でライバルで戦友で共犯者で」

「血の繋がらない他人だ。」

「……!!」


バチン

頬をぶたれる。気にせず続ける。


「俺が最後の家族だから執着しているんだ、旦那様、家族はつくれる。わかるだろ?お前ならきっと器量も度胸もいい人を掴まえて家族をつくるんだ。お前は」


バチン


「…少々頑張りすぎる気があるから尻に敷かれるくらいがちょうどいいさ、お前はクリプス様にそっくりだ、子供もきっとお前たちそっくりな赤毛が」


バチン


「ッ…産まれるだろう。お前は忙しいから子供が寂しがらないよう本当の兄弟、いや姉妹かもしれないな?育ててさ。想像してみろ、幸せじゃないか。」

「もう黙れ。それは僕の幸せじゃない。押し付けるな、僕の幸せは僕が決める。」


お前がそれを言うのか。


夕日が差し込む、シーツに血が染み込む、赤い双眸がこちらを見つめ続ける、目元が擦れており赤いな、なんで、泣いてるんだろう。泣く?此奴が?強迫観念に支配される。俺が、俺がなんとかしなきゃ、だっておれおとうとだもん

こいつの、役に立たなきゃ


「ガイア、愛してるよ。」


唇が触れ合う、境界線が滲む。義兄とのキスは血の味がした。絡む両手はこれからの共同作業を示唆している。崩れたウェディングケーキ。

カンカンカン

警笛が僕らを祝う。もう戻れない、既に誓っているから。禁断の果実は葡萄だった、笑いあったその日から運命は決まっていたのだ。十字架の代わりの氷の神の目、もう決して光らない。


愛してる、か。散々傷つけ合って憎み合っていたのに捨てられない俺達。故にエゴを我儘に押し通す。幸せは愛だと信じ、愛して、(あい)している。



あいって、なんだろ。





愛があることと幸せはノットイコール。

弟が死にかけて大事なのかも……となった義兄ともう何処にも戻れないから死なせてくれ〜…………の義弟。

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