第四話 前世
それは夢の中のこと
身寄りの居ない6歳の俺は施設にいて、そこで誰とも関わらずにいつも本ばかり読んで過ごしていた。
俺は人と関わりたくなかった、他人は信用ならない、なにせ、人間なんて結局自分の欲望や欲求のために動くものであることを俺は知っていたからだ。
だから俺は人と関わらない。
「直也くん、君はいつも遊ばずに本を読んで暗い顔をしているね」
ある時施設の職員の1人が俺に声をかけた。
目の前の職員もどうせそう、金が欲しいがために、仕事をしているという評価が欲しいがために俺に声をかけるのだ。その証拠に、口元こそ笑顔だが、目は全く優しくないのだ。
ただそんなある日
1人の同い年の男の子が施設に入ってきた。
「はい皆さん、新しい仲間の由川輝くんです。仲良くしましょう」
いかにも天真爛漫といった無邪気そうな顔立ちをしていた。
そして自由な時間が来るやいなや、俺の何が気になったのか、他の子どもには目もくれず俺に話しかけてきた。
「ねえねえ、お名前何ていうの?」
「ねえねえ、なんでここにいるの?」
「ねえねえ、お話しようよ!」
「ねえねえ、何して遊ぶ?」
ねえねえ、ねえねえ、正直うんざりするほどに話しかけてきた。話しかけてくるなと言っても、数分後には忘れたかのように話しかけてきた。
「わかった!わかった、相手してやるからちょっと黙ってくれ!」
1日中話しかけられ続け疲れ果てた俺はそこで諦めた。そしたらあいつは心の底から嬉しそうな表情で
「やった!じゃあ、お名前は?」
「明山直也」
「明山直也くん、かっこいいお名前だね!」
俺は少し戸惑った、なぜならその声から一切の欲望が感じられず純粋さしか感じられなかったからだ。
「名前なんて聞いて、何がしたいんだ?」
純粋な疑問が喉を突いて出た。だって人間の全ての行動には欲望が付随しているはずで…
「何っ、て?僕は君と仲良くしたいだけだよ?」
な、仲良く‼ え、そんな人間いるのか?
俺の内心は完全にパニックになっていた。そんなことを言う奴にであったのは始めてだったからだ。
そして、その後どのようなことがあっただろうか、ああそうだそうだ
結局いつも圧に負けてはあいつと
「タッチ、次は直也がおにさんだよ。」
「クソ、捕まった。待て」
遊んだり、話をしたり、毎日毎日関わっていた。
うざいはずなのに、何故か悪い気は全くしなかった。
そして、本当にどうしてなのかは自分でもわからないが気づいた時には親友になっていた。
「ねえ直也、僕は将来あの先生みたいなかっこいい大人になれると思う?」
そんなある時、輝が施設内のある教師を指差してぽつりと口を開いた。確かにその教師は外見はもちろん施設内の子どもも1人の人間として尊重する、そんな格好のいい人物だった。
「さあ、どうだろうな、人によるんじゃないか?」
「それもそうだね」
その時の俺の返答は少々ぶっきらぼうだった、なぜなら未来なんてわかりっこないと思ったからだ。
でも、輝と一緒ならきっと幸せな未来を生きられると、そんな願いが叶うのだと、そう思った。
そしていくつもの季節が過ぎ、俺と輝は大人となり施設を出、毎日懸命に生きていた。
しかし
23歳の鈴虫が鳴く秋の夜、輝が死んだ。
パートの帰り道を歩いていた際に道路に飛び出した小さな子どもを助けるべく飛び出してその子の背中を歩道へ押し出し、自分は間に合わず撥ねられたのだ。
病院に搬送されたが即死だったらしい、電話が鳴り、病院から連絡を受けた俺は仕事を切り上げ、大急ぎで病院に駆けつけた、いつにも増して暗く感じられる、ネオンに包まれた夜道を駆けて、駆けて、駆け抜けてしかし残念ながら死に目には会えなかった。
俺は泣いた、膝から崩れ落ちて暫く泣き続けた。泣くことしかできなかった。
俺にとってそれはどうしようもない悪夢のようであった。
そして気がついたのだ。ああ、願いはどう足掻いても叶わない。願いは叶わないからこそ願いなのだとそう思うことでしか、自分を納得させられなかった。
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