第十一話 手伝い
かくして互いに名前を知った俺たちはお菓子とパンをより多く売るべく行動を開始しようとしたが、生憎俺は前世でも今世でも物を多く売る方法など知らないので...勢いで手伝うと言ったのはよかったが、困ったな…どうしようか。
「困ったなどうしよう」
しまった、ついつい口に出てしまった。言い出した人間が困ったなんてのは許されることではないだろう。
「いや、これは違っ」
「ふふ」
慌てて弁明しようとする俺に対してセラが少しおかしそうに笑った。
「ごめんなさいね、だけど、ちょっと意外だったわ」
「意外?」
思わず聞き返した。
普段頼りになる人物が頼りなくなれば、幻滅して引くのが当然だろう、だというのに意外とは?
「だって、ウィルはまるで頼りになる大人みたいに振る舞っているのに、困ったな、なんて言うとは思わなかったから。」
「幻滅しないのか?」
「するわけないじゃない、むしろウィルも私やルクスと同じなんだって安心するだけよ。ね、ルクス?」
「うん、もちろん、嫌いになったりなんてしないよ。」
セラがルクスに話を振るとルクスはさもそれが当然といった様子の笑みで答えた。
ああ、なんだ...いや、待て話を戻そう。
「だが、俺たちは誰も物の売り方なんてわからない、どうする?」
「そんなの簡単よ、いるじゃないここにわかっている人が、」
セラはレイラを指さした。
そうか、レイラはずっと1人で屋台でお菓子やパンを売っていた。ならば色々とわかるだろう。
どうやら俺は自力で様々な事態に対処しようとするあまり他人に頼るということを忘れてしまっていたらしい。
思えば、前世からずっと人に頼ったことなんてなかったような気もする。
「なるほど、よしレイラ、何をどうすべきか俺たちに指示を出してくれ。」
「は、はい、わかりました。じゃあ…」
そしてレイラの指示の下、俺が調理、レイラが商品受け渡し、ルクスとセラが呼び込み役を担当することとなった。
調理を1番年上の俺がするのはもちろんのこと、かわいいルクスとしっかり者のセラが呼び込みをするのも適任だろう。
「おいしい、パンやお菓子はいかがですか?」
「あったかくて、やわらくておいしいよ!」
「なになに?」
セラとルクスの良い呼び込みの声に道行く人々がちらりと振り返り、注目する。
そうだろうそうだろう、やはりルクスの声には引き寄せられるだろう。
「美味しそうなパンだな、1つ頼む。」
「子どものためにお菓子を1つ。」
そして振り向いた人々は1人、また1人と屋台の方にやってきた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
真横のレイラの表情は先ほどとは異なり共に屋台を切り盛りする仲間がいるためか満面の笑みに変わっていた。
ルクスとセラも満面の笑みで客を案内している。
あれに引き寄せられない者はいないだろう。
そんな3人の笑顔に頬が緩んでしまいながら、こね終えたパンを屋台に備え付きの火の魔石仕様の小さな窯の中に入れていると、不意に
「おい、見ろよ。あの屋台子どもだけだぜ」
「確かに、狙い目だな。兄貴」
などと何処からともなく盗賊や山賊を思わせる荒っぽい声が聞こえてきた気がした。
(何だ?)
胸騒ぎがし、窯の戸を閉めた直後に耳を澄ますがそれ以上は何も聞こえてこなかった。
気の所為であって欲しいものだ。
補足:火の魔石は保温用だけでなくパンやお菓子を焼くためのものでもあったようです。




