『お前とは婚約破棄だ』と言われました。 なるほど。でしたら本当の事を伝えましょう。私は幸せになりたいのです。
お久しぶりです。
長く温めながら執筆したので、ん?みたいなことがあると思いますが、長い目で見てください笑
適当ヨーロッパって感じです!
あと、、、すごくすごくありがたい誤字修正!!
直ぐに修正させていただいておりますので!!
ただ、意図があって記載してあるものもあるので、そこはご了承ください。
「レオノールっっ。貴様はれっきとした貴族のマリアを、娼婦の娘と罵り周囲に溶け込めないように暗躍したっ。よってお前とは婚約破棄をするっっ」
太陽のようにキラキラと輝く髪を乱しながら、この王国の王太子が叫ぶ。
『私はそのような事をしていません。無実です』
と目線を逸らしながら言うだろう。と王太子であるリュカは思った。そうリュカ自身の顔から滲み出てしまっているのだ。
「…あ゛?」
いつものようにか細い声で返事されると思っていたが、返ってきたのは一度も聞いた事のない、令嬢にしては低い声だった。
リュカは何度も瞬きをし、何度も目の前にいる婚約を破棄した令嬢を見る。それは周りにいる貴族達も同じだった。
……変わりない。
いつも見ていた煩わしい程に顔の整った婚約者だったレオノール・アルベールがそこにはいた。
変わりないのだが、どこか様子が変。
いつものように張り付けたような表情ではなく、感情を顕にしている表情だ。
「レ、レオノール?」
「殿下、卒業パーティという素敵な場での破棄ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます?」
「えぇ。何も出来ない王太子の尻拭いをさせられていた私は、もはや王家の奴隷でした。そんな役割を放棄出来るなんて、嬉しさで胸がいっぱいです」
彼女の変わりようにリュカだけでなく、参列していた皆が驚いている。そんな皆を差し置いて、レオノールは堂々と胸を張っている。
「破棄されて何も思わないのか!?」
一時的に思考停止したリュカだったが、我に返りいつものように大きな声を出す。
「何も?」
「あぁ、お前は俺を好いていただろっ」
「は?」
今度は先程以上に怒気を孕んだ声で返事をされてしまった。
「まさか。私が殿下を好きだと?冗談は性格だけにしてくださいな」
レオノールが口を開けば開くほど、周囲が小さい声で笑う。それに気づいてリュカは怒りで震えてしまう。
「私と殿下の婚約は今も昔もただの政略です」
◇◇
学園の卒業パーティの日、私は婚約者であるリュカ王太子に婚約破棄をされた。全く知らない罪状で。
私と王太子の婚約は10歳に決まった。
王家に男児が産まれると、同い年または近い歳の令嬢達を招いて王城でパーティが開かれる。
私は王国の公爵令嬢として行きたくもないパーティへと招待された。私だけでなく、両親も兄も連れて行きたくないといった意思だ。だが王命であればいくら高位貴族といえども拒否は出来ない。
それにとある理由で行かざるを得なかったのだ。
『おい、お前。俺のこんやくしゃ?とやらにしてやる』
当時10歳だった私。よく横暴な態度に我慢出来たな、と思う。
王太子は嫌々、渋々、言わされているんだ。といった態度を全面に出して、先程の発言をした。
運良く淑女教育が上手く進んでいるからか、感情を表に出さずに済んだ。本当に殿下は私に感謝していただきたいぐらいだ。
なぜ王太子がこのような発言をしてしまった。かというと、元々私と王太子の婚約は決まっていたのだ。
この国では王妃、側妃関係なく、嫡男に王位継承権が与えられる。
王太子は、当時末端貴族である令嬢であった側妃と当時王太子だった王の間に生まれた男児だ。その令嬢は美しいだけでなく、庇護欲をそそられる容姿をしていたため、王太子に愛されたのだった。ただ、愛だけではどうにもならない。
令嬢…側妃は貴族として末端も末端。実家は庶民に近い貴族で、後ろ盾がほぼ…いえ全くない。その王太子と側妃を護るため、公爵家である我が家が任命されてしまったのだ。まぁほぼ私情に近いが。
という理由で私と今の王太子の婚約は決まっていたので、パーティなんぞ開いても無駄足なのだ。
というのは王家と公爵家しか知らない事なので、向こうが仕方なしな。という風を装うということになってしまったのだ。
なぜあんな横暴なのか、というと…恋愛結婚である王と側妃の間に最初に生まれた男児。それに嫡男。ということで、甘やかしに甘やかされた結果だ。
何をしても許される環境で育ったからだが、あまりにも酷すぎる。王城に行くことのある父は、王太子が癇癪を起こしてメイドを傷付けた、などの噂を耳にした。
流石になんの罪もない使用人を傷つけるヤツに嫁がせるなんて、と両親と兄たちは憤慨していた。だが、王命で決まってるのだ。こちらからは何も言えない。
『リュカ様、こちら贈り物でございます』
『要らない。捨てておけ』
『リュカ様、お待ちください』
『うるさい。さっさと俺の前から消えろ』
相手は王太子で、私は配下になる。だから歩み寄ろうとしたが、素っ気ないというか、礼儀をかいた対応をされる。
これが6年も続けば何も言いたくなくなる。
彼に感情を向ける方が無駄だと、早々に理解し、早々に無になり、早々に見切りをつけた。
14歳になると王太子妃教育で王城へと上がるようになり、王太子…リュカによく出会うようになる。
彼は横暴を体現しており、当たり散らすのは当たり前。癇癪を起こすと物を投げる。他者を傷付ける。何度、目にしたことか。傷を付けられた者を見過ごすことなど出来ず、私は公爵家直伝の薬を渡すなどケアを行った。
城に仕えてる使用人からは《女神》と讃えられているが、こちらはこちらで当たり前の事をしているだけだ。そんな風に呼ばれる人物でもない。
あんな横暴な男の元に嫁がねばならないなんて…苦痛でしかないし、公爵家の汚点となる。逃げ出したいが、逃げられる訳もなく。
それに婚約相手は嫌だが、教育は案外と楽しいので続けられる。我がアルベール家にも莫大な書庫があるが、とある書籍が8割を占めている。だが、王城には偏りなく並んでいるので、とても興味をそそられる。
自由時間は書庫に籠ることが出来る。元々吸収力が良いみたいで、何度か目を通すだけで理解出来るらしい。スポンジのように知識を得た私をますます王家が見過ごすことなどないみたいだ。
私…というか母である公爵夫人に劣等感があるのか、側妃は当たりがきつい。必ず私の勉強に参加してくる。そして毎度毎度ご丁寧に1つ指摘してくるのだ。
『指の角度が5度低いわよ?』
『お兄様なら貴女の歳だったらもうこれぐらいのは完全に出来て当然だったわ』
『本当に美しくないお辞儀だわ』
などなどなどなど。
挙げ出せばキリがない程文句が多いのだ。貴女のお兄様は私と同じ歳になるまで、勉学をしてこなかったんだから嘘をつかないでいただきたい。
私から指摘させていただくとすれば、貴女は指の角度が15度ほど低いけれどそれはよろしいのでしょうか?見るに堪えないお辞儀ですがよろしいのでしょうか?などと口に出すのはめんどくさいので、全て呑み込んでいましたが。
妻にも息子にも甘い国王なんて頼りにならない。王宮での出来事は、家族の耳にもちろん入っている。
家族だけでなく、仕えている者たちみんなが私の不遇に怒ってくれる。その善意を無駄にしない様に、私は彼らに制裁を与える事を提案した。
我が家を敵に回せばどうなるか目にもの見せてやろうということとなった。
まずは母の生家、隣国である帝国へ助けを求めることにした。そして、幼い頃によく遊んでいた彼に会うための手紙を用意し、短期の留学をしたい旨を伝えた。向こうは快く承諾してくれた。帝国は民と皇族との関係と、他国との関係が良好なのだ。
そして市民でも高度な教育を学ぶ事が出来るような政策が敷かれている。隣接した国の中で1番発達している国でもある。
父も自国の為に色々と画策しているようだが、如何せん上が役に立たない。賢王と呼ばれた時代は一世代前の話なのだ。
◇◇
まずは2年ほど自国での学園生活を送ることとなった。相変わらず王太子は婚約者である私を無視されている様子。ご自身の立場を理解せず好みの女性を侍らせている。
理解のある高位貴族のご令嬢は、王太子が私の婚約者である事なんて当たり前だと思っている。だが、少しおつむが弱いか野心増し増しのご令嬢達は、おバカな王太子に取り入ろうと必死だ。
それに彼の好みは出るところが出てる柔らかい女性。大抵体を武器にしているご令嬢が近づいている様子なのを、横目で見ている。
注意されないのですか?と言われた事があるが、正直なところ向こうの有責になるなら願ったり叶ったりなのだ。むしろじゃんじゃんやって欲しいぐらい。学園であれば、証拠を集めるのに適した場所であることは間違いない。
そんな生活を続けていると、あっという間に2年になる手前まで来た。私の留学まであと2ヶ月を切っている。
そんな時期に、ブラン男爵家が、娘を迎え入れたと貴族社会で話題となった。男爵が一瞬の隙を突いて出来た高級娼婦との子だ。
マリア・ブランと名乗る彼女は、淡い桃色の髪に水色の瞳を持ち、出るとこが出てる体型で、陶器のような綺麗な肌を持つ令嬢だった。男爵が、甲斐甲斐しく世話をしてたのだろう。離れで暮らしていたという噂が嘘かのような見た目をしている。そして、彼女は王太子の好みど真ん中だったらしい。
私はなるべく彼らから距離をとることとした。取れば取るほど、こちらの有利になるからだ。そっと静かに見守りながら、彼らの愛を育む様子を観察させてもらった。
あぁ…なるほど、寂しそうな顔は少し上目づかいにして、目を潤ませればいいのか。
と、ブラン嬢から学ぶことは多かった。使う使わないは置いといてだけれど。
この頃になると、王太子は私に興味を無くしており、出発の準備をするには最適だった。王太子の仕事を気づかれないように、少しづつ処理して行った。後は判子を押すだけでいいような書類のみだ。
幼い頃からの友人に、
『あの人の為にどうしてそこまでするの?』
と訊ねられたことがある。
『貴女のためにも、彼のためにも、ましてやこの国のためにもならないじゃない』
言われてみれば確かにそうね。彼を成長させたいなら、嫌味を言われてもやらせるべきだと思う。ただ、私はそれを許容出来る程、器が大きくない。それを知っている上で、友人は投げかけているのだ。
『そうね、、、。私が私らしくなるための布石よ』
将来の事を考えると、自然と口角があがる。
それを見た友人は、何かを企むような表情を見せた。
『今まで貴女は苦労したものね』
『それはお互い様よ』
『戻ってきた時に、その布石が十分なものとなるように、こちらも準備しておくわ』
『ありがとう。やはり、持つべきものは…』
私がそこで区切ると、『信頼と契約よ』と楽しそうに友人は笑ったのだった。
そんなこんなで生活し、遂に静かに帝国へ留学する日となった。
送りには、アルベール家の家族。そして、友人とその母親まで来てくださった。
『行ってらっしゃい』
と優しく送って貰えた私は幸せものなのだろう。
帝都までは馬車で1週間ほどかかった。その間、私はアルベール家の領地や、帝国が提供してくださった屋敷で快適に過ごさせて貰った。
無事に到着した私は、母の生家へとお邪魔することとなった。何度も断ったのだが、母の兄に心配だからと誘われてしまい、有難く失礼することにしたのだ。
『久しぶりだね、レオ』
私のことを“レオ”と愛称で呼ぶのは、同い年の従兄妹であるルイだった。叔父様と同じ髪色の彼は、母とも同じなので見ていて安心する。
『この度は、快く承諾してくださいまして、ありがとうございます。ふつつかではありますが、精進させてきただきます』
『僕に敬語なんてやめてよレオ』
『しかし、ルイ様は…』
『その、ルイ様ってのもやめて。僕たちは親戚じゃないか』
目に見えてしょんぼりとするルイに私は心が痛む。
『ルイ…で大丈夫?』
『あぁ、もちろん。我が家だと思って、過ごして良いからね』
私が婚約してから公式的な場以外では会ってないので、こうしてルイと隠れずに話せるのは嬉しい。立場を気にせず近い距離にいれるのは、こうグッと心にくるものがある。彼もそうなのか、普段表情が乏しいのに、ニコニコと笑っている。
『ここでは自分の気持ちを押し殺さなくて大丈夫だから、レオノール』
意味深な笑顔に一瞬だけなったのは気になってしまったけど。
あまりにも強い口調だったため、私は静かに黙って頷いた。
◇◇
帝国に到着した次の日から、私は学院へと通うこととなった。
ルイの口添えもあったためか、編入でも何も言われることなく過ごすことができた。ただし、遠巻きには見られてしまったけれど。
帝国の学院は、貴族だけでなく平民でも通うことが出来る。ただ、場を乱さないように、クラスはしっかりと分けられてあるけれど。平民のクラスは成績順で、クラスによって学ぶものが異なるらしい。
なるほど、こうすればいいのか。とひとつ学ぶ。差別が色濃く残る王国で導入するのはまだ先になりそうだけれど。
生活を続けていく中で、疑問が浮かんでくる。王国と帝国では元々の生活形態が異なる。
貴族社会である王国は、平民と同じ学び舎なんて無理。だなんていうだろう。今から考えると頭を抱えたくなる。
行き詰まったら私はルイと共に発散して、勉強してを繰り返してあっという間に帝国での生活が終了を迎えようとしている。留学している間、王太子は好き勝手しているらしく、私との婚約を破棄しようと考えていると友人からの手紙で分かった。
『ルイ、これ私の婚約者のことがかかれてるんだけど』
以前から相談していた、我が国の王太子のことについて。居ないはずの私が、懇意にしている例の令嬢をいじめている。そんな奴が王太子妃に相応しくないとの事で、卒業式の日に婚約を破棄する予定だとかかれている。
『あぁ…あのバ、リュカ王太子のことか』
ルイは王太子のことをバカと言いかけて言い直した。もうほぼ言いかけているようなものだけど。
『どうやったらレオが、その女をいじめることができるんだよ』
隣からは冷気が漂っている。身震いしてしまったのはいうまでも無い。母が怒った時と同じ雰囲気なのだ。
『で?レオはこの王太子のことをどう思ってるの?』
『……昔からどうでもいいのよ。殿下の婚約者となってから自分の心が死んだみたいだったし』
『なるほど。じゃあこういうのはどうだ?』
周囲に誰もいないから聞かれないはずなのに、ルイは私の耳元で囁く。私の耳にルイの動く唇が掠めるため、熱が集まるのが分かってしまう。
……嫌な従兄妹だ。
『本当に言ってるの?』
『僕が嘘をついたことあるかい?』
『……記憶の中ではね』
『じゃあそういう事にしよう』
悪戯が成功したような笑みを浮かべる彼に、私は小さくため息を吐く。
あぁ…作戦を実行するなら…もう偽らなくてもいいわよね。
◇◇
水面下で準備をしながら、王国にいる友人にも助けて貰った。
帰国して10日後に私たちの卒業式が始まった。
エスコートもドレスの連絡も無い王太子に、我が公爵家はため息すら出ない。
私のドレスはルイとその家族が楽しそうに選んでくれたらしい。前日に豪華なドレスが届けられた。エスコートはまだ未婚の次兄にしてもらうこととなった。
2人で会場入りすると、興味津々に見つめる貴族の子息令嬢達が居るがそれに無視を決め友人の元へと向かう。
久しぶりに会った友人は目の下にクマが出来ている。私はそんな彼女に労いの言葉を述べた。
王太子は真っ先に入場しているらしく、ソワソワと子供のように様子を伺いながらこちらを見る。
色んな視線が交わる中、ようやく王太子が声を上げた。
「レオノールっっ。貴様はれっきとした貴族のマリアを、娼婦の娘と罵り周囲に溶け込めないように暗躍したっ。よってお前とは婚約破棄をするっっ」
楽しそうにキラキラと髪を光らせながら叫ぶ。
あぁ…馬鹿だな。とその一言が頭の中を占める。
私はゆっくりと息を吐いた。
「…あ゛?」
久しぶりに圧力をかけた。普段お淑やかに澄ましている女が、低い声で返事をするなんて思ってもいなかったのだろう。
目の前にいる殿下は、目をぱっちりと開け驚いている。
何を今更驚くことがあるのよ。ありがたい頭をしていらっしゃるんでしょうか。
「レ、レオノール?」
「殿下、卒業パーティという素敵な場での破棄ありがとうございます」
戸惑う殿下に畳み掛けていく。
「あ、ありがとうございます?」
「えぇ。何も出来ない王太子の尻拭いをさせられていた私は、もはや王家の奴隷でした。そんな役割を放棄出来るなんて、嬉しさで胸がいっぱいです」
本当に王太子の婚約者なんて名ばかりで、奴隷だったわ。学業と王太子妃教育で疲弊しているのに、殿下の尻拭いにお金の管理。
私は殿下の家族でもなんでもないのに。ほんとバカバカしいのよ。
「破棄されて何も思わないのか!?」
何も思わないのか?何を思う必要があるの?
「あぁ、お前は俺を好いていただろっ」
「は?」
あまりにもおかしな事を言うものだから、令嬢らしからぬ気の抜けた返事をしてしまった。
「まさか。私が殿下を好きだと?冗談は性格だけにしてくださいな」
どこをどうとったら私が殿下の事を好きになるのだ。
全人類が自分のことを好きだと思ったら大間違いだけど。馬鹿な殿下のことだから、思っていそうだわ。
「私と殿下の婚約は今も昔もただの政略です」
「…っっそんなはずはっ」
「そんなはずがないと?私が殿下に懸想していると?そんなことは婚約が決まった時からありえないことですが?」
耐えきれ無くなったのか、周りの子息令嬢達の口から空気と共に笑いが漏れ出る。もちろんそれは殿下の耳にも入っているらしく、彼はリンゴのように真っ赤に染め上がっている。
「あぁ…破棄してよろしいのですね?でしたら署名致しましょう。準備しておりますか?」
冷静に対処する私に、顔を赤くしたまま殿下が首を横に振る。
あぁ…準備ぐらいしておいて欲しいわ。私が常に手元に持っておいて良かった。
傍に控えていたお兄様に伝えると、直ぐに事前に用意していたものを持ってきてくれる。
先に名前を記入して、殿下へと渡す。
「早く書いて下さい。皆様がお待ちです」
何かしら喚いていらっしゃる様子だけど、事前に決まっていたのでしょう?それなのにどうして躊躇う必要があるのでしょうか。
紙を破りたくとも、私の兄が構えているから実行しようにも出来ない。そこは理解されているようですね。
誰かしらの長いため息が聞こえたので、観念したのか殿下は遂に署名されました。
「これで書面上は私たちの婚約が破棄されたこととなりました。良かったですわ…長かったです」
「レオノール、良かったな」
笑いが出るのを堪えながら肩を震わせていると、隣で兄が支えてくれる。その手には力が入っており、家族もこの婚約破棄が念願だったことが分かる。
「届けを出したとはいえ、お前がマリアにしたことは言わねばならんっっ」
「リュカ様ぁ…」
切り替えの速さは拍手を送らせていただきましょう。
ただ、観客である方々は飽きておられますよ?
「したことですか」
「さっき言っただろう、レオノールっっ」
唾を飛ばす勢いで大声を出さないでいただきたい。
「殿下、レオノールではありません。アルベール嬢とお呼びください」
殿下はぐっと顔を赤らめながら何か言いたそうに飲み込む。
「ア、アルベール嬢っっ。マリアに何をしたか自分が1番分かっているだろうっっ」
だから唾を飛ばすなって言ってるでしょう。
「罵ったり、毒を盛ったりですか?」
事前に友人から知らされていた私の知らない罪。
私がそういえば、マリアは殿下の後ろでニヤッと口角を上げる。
ブラン男爵は何も教育をしていらっしゃらないのでしょうか。今の私が言うのは説得力がないですが、あれでは足元を見られてしまうわ。自分で自分の首を締めるなんて。
「あぁ!そうだっ!!どうしてこんなにも愛らしいマリアに卑劣な事を行ったんだ」
「リュカ様ぁ〜、マリア…怖かったですぅ」
語尾にハートが付きそうな程甘ったい声に反吐が出そうになる。頭が悪いって自ら発言してるようなものよ。
こうは言いたくないけど、親が親なら子も子なのね。
「それは殿下がしっかりと調査した上で、罪を暴露されているのですか?」
「当たり前だっ。本人がっっ、マリアが目を潤ませながら言っているのが何よりの証拠だ」
馬鹿言わないで。ほんとここの王族は…いえ王族の男は。こんな偽物の涙に騙されるような男が次の男なんて。この国も終わったわね。
「たった一人の証言で私は、この大勢の前で貶められているのですか?」
「たった一人?貶められている?お前がやった事だろう、いい加減罪を認めればいいだけの話だっ」
どう頑張っても平行線の話だ。面倒くさくなってきたところで、私の肩に手が置かれる。
「一国の王太子が、大衆の前で女性を貶めるなんて…将来同じ立場に立つ者として恥ずかしいよ」
「ヨハン・ジェラール皇太子殿下っ」
「ルイ」
「ルイ!?彼はヨハン皇太子殿下だろうっ」
私の肩に手を置いたのは、帝国の従兄妹であるルイで紛うことなき本人だ。それにしてもルイの名前を知らないなんて…信じられない。恥を晒すのもいい加減にして欲しわ。
「君は本当に王太子なのか?私の本名を知らないと?」
ほら、ルイも…いえヨハンも目を見開いて驚いているじゃない。
「殿下、彼はリュンヌ帝国のヨハン・ルイ・リュンヌ・ジェラール皇太子殿下です。それと…私の従兄妹にあたる方なのですが…」
まさか知らないとでも?という視線を向けると、彼ら顔を赤くする。
あぁ…これは知らなかったな。とすぐに分かる。
会場は帝国の皇太子が現れたこと。そして、私が彼の従兄妹である事に驚きを隠せないらしい。
「ルイは彼の幼名でもあるので…間違えていませんよ?」
彼はとても悔しそうに唇を噛み締める。
「お兄様、お母様の生家を皆さんご存知ない?」
「恐らくな。母上は、お祖母様のご実家である侯爵家の苗字を使われているらしい」
こちらに嫁ぐ際に、帝国の一侯爵家の一人だと思われたのか。
皇帝とお母様は瓜二つなのに。どうして気づく人が少ないのかと思ってたのよ。高位貴族の方々は理解しているようで、涼しい顔をしていらっしゃる。
「い、従兄妹がなんだって言うんだっ」
「我が帝国は、男女平等に生まれた順に継承権が与えられる。それは隣国に嫁いだとしてもだ。現皇帝の兄妹は、レオノールの母君である叔母上のみ。そしてその叔母上も継承権があるのだ」
そこまで言われてなお、気づいていない様子。
私の両隣で男性陣が呆れたようにため息をつく。
「アルベール家の3兄妹皆継承権があるんだ。それを意味するのは分かるか?王太子、君と同等かそれ以上の身分なんだが…」
「……っっ」
ようやく焦ったのか、彼は顔を青くする。
「君は…我が帝国と戦争をしたいようだね」
「…そ、それはっっ。戦争なんてっっ」
「皇帝が妹のことを溺愛しているのは知ってるだろう?その娘の事も大層気に入っているみたいなんだが。それに、レオノール嬢は、その皇帝が会いたいとの事で、数ヶ月はこの国を不在にしていたはずだけど?」
父親譲りの鋭い目で彼は殿下を捉える。
まるで獲物を捉える虎のようだ。そして殿下は捕まるウサギみたい。
「この醜態をどうやって終わらせてくれるんだ?属国に下させてもいいけど?皇帝は許可しているし…どうする?」
その言葉を聞いて、卒業の場にいる子息令嬢達から…そしてその親族達から小さな悲鳴と嫌な視線を向けられる。
王が不在のこの場で、どうやってこの国の未来を決めるのか。彼の返答次第で自分たちの未来が決まるのだから当たり前なのだけれど。
「因みに、国の要になってるアルベール家は君の味方なんてするつもりは更々ないようだよ」
あぁ…なんと愚かな殿下なのでしょう。
私に喧嘩をふっかけるからこんな事になっているのですよ。
「こういう時に、男が継承権を持っていると困るんだね。愚王が誕生してしまうんだから」
「それ以上はおやめ下さい、ヨハン殿下。母が愛した人がいる地なのですから」
「ヨハン殿下なんて…他人行儀じゃないか?私は寂しいよ…」
殿下はというと、全身を震わせて頭を垂れている。あれでは何も考えられないだろうな。
私は近くにいた友人に視線を向ける。ただそれだけの合図で理解した彼女は、姿勢を整え口を開く。
「ゴディエ王国の月の番人であられます、王妃様のご入室です」
その口上により、大きな扉から美しいドレスを身にまとった夫人が入室する。その姿はまるで女神のよう。いい年齢の娘と息子がいるのに…衰え知らずなのね。
私やヨハンを含め、参加していた者達は頭を下げる。
「大陸の覇者であられますリュンヌ帝国の皇太子であるヨハン殿下に、ゴティエの王妃が挨拶させていただきます」
「月の番人であられるゴティエ王国の妃殿下に、リュンヌ帝国の皇太子が挨拶させていただきます」
2人の口上を終えた後、妃殿下が楽にするよう声をかける。その合図で私たちは2人へと視線を向ける。
「いくら王太子と言えども、王が不在の際の決定権は王妃にあります。今後のことを含め、皇帝にも相談に乗っていただきたいと思います」
「戦争をするでもなく、属国に降ることも無くでよろしいですか?」
「はい。それと…我が王の醜い嫉妬から決まりました王太子とアルベール嬢との婚約は、王族の有責で婚約を解消致します」
王妃の言葉に三者三様の反応を示す。
全てが終わった事に対する安堵からのため息。
拘束から外れることからと、向こう側の有責での婚約解消となったことに対する歓喜の口笛。
そして…醜い嫉妬から決まったことと、王族の有責からの解消となったことで、膝から崩れ落ちる殿下。
彼の方は何も言えないらしい。
「王妃さまぁ、王が不在の時はリュカが1番上だったんじゃないですかぁ?いつ決定権が王妃様になったんですかぁ?」
この女は怖いもの知らずか。とこの場にいる全員が思ったであろう。
そんな女に妃殿下は鼻で笑い1枚の紙を見せた。
「つい最近、側室に現を抜かしておられました王に1枚の紙をお渡しました」
元々書類業務が苦手な王は、サラッと流し読みをして、書類にサインと印を押した。早々に断種の後、側室と何も無く寒い離島へと飛ばされた。
その1枚の紙は、継承権を民からの信頼がある人物へと渡すこと。そして、その人物が安定するまでは王妃が国を守る事が記載されていたそう。
ほぼ読まずに脳死でサインした王は、抵抗したが騎士達にその日のうちに連れて行かれたそう。
そして、大事にしないために視察に行かれたと国民に通達したらしい。
「我が娘である王女マルグリットを、女王に据えることとします」
口上を述べた私の親友であり、この国の王女であり、王から邪険に扱われたが、民からの信頼は厚い、マルグリットが女王になるんだ。
今まで男児のみしか継承権を得られなかった我が国。そのせいで過去に何度か愚王のせいで崩壊しかけたことがあった。それも含め帝国は変わっているのだから、変えなければという思いがあり、帝国と協力関係で進めていった。
一人の婚約破棄から大層な出来事になってしまった。
急に改革を進めるのは並大抵のことでは無いのは確かだ。だからこそマルグリットには、支えてもらった分支え返さないといけない。
「それと…ヨハン皇太子殿下」
「はい。なんでしょうか、妃殿下」
「我が夫のせいで、貴方の婚約者を無理矢理奪ってしまって申し訳ないわ。今はこれだけしか言えないのだけれど…」
妃殿下はそう言って私の方を見る。
「妃殿下が解消してくださったんですよね?ということは、レオノールは今は誰とも婚約していないと?」
「そういうことになるわね」
今度はニッコリと笑顔になる妃殿下。
その横で知っているはずなのに、目をキラキラと輝かせているヨハン。
そしてそのまま私の前に跪いて手を差し出す。
「レオ…いやレオノール。消え去ってしまった私たちの婚約をもう一度結び直して欲しい。僕は従兄妹だと君を紹介された時から虜だったんだ。生涯を通して愛すると誓おう」
差し出しかけていた私の左手を取り薬指に口を当てる。綺麗な青色の瞳で私を見上げるのだから、やっぱり整っているのはずるいなと思う。
「血は濃く何が起こるか分かりません。ですが、私も叔父様とお母様から紹介された時から、貴方の虜でした。それは生涯変わることはないでしょう」
今度は私が彼の左手を上に変え、そのまま左手薬指へと唇を当てる。
この場をまとめたのはマルグリットと妃殿下の拍手だった。
「おめでとうございます、2人とも。それと…最後になりましたが、リュカ」
妃殿下の低い叱るような声で、項垂れていた殿下の肩が揺れる。
「貴方は本日で廃嫡となります」
「なっっ…王妃…っっ殿下。それはっっ」
「元々、後ろ盾のない貴方と側妃の面倒を無理矢理見ていたのは、アルベール家です。私が不在の間に王命で進めたのは貴方の両親ですよ?それを貴方が拭わないでどうするの」
王妃の冷たい言葉が彼に突き刺さる。
「そのマリアとやらと共に一緒に送ってやるから、楽しく過ごしなさいな」
「王妃様っっ!どうして私まで!?」
「妃殿下っっ!」
喚く彼らを放置するわけにはいかず、妃殿下が衛兵を招いて彼らを無理矢理連れていく。
「我が国の汚点を晒してしまいましたね。ですが、本来今日はめでたい日であるのです。皆様、切り替えるのは難しいかもしれませんが、最後の最後まで楽しんでくださいな」
そう言って、妃殿下はこの場を去った。
最後の最後まで美しいというか…さすが母の友人だっただけあるな。
妃殿下も前王の被害者だと言うのに。ようやくその被害から抜け出せたよう。
静まり返っていた広間には、少しずつ音楽が鳴り始める。ふと妃殿下がいた場所を見ると、マルグリットがウインクをしていた。彼女が提案したのだろう。
「マルグリット王女、私も参加しても良いでしょうか?」
「えぇぜひ。お2人の洗練されたダンスを見たいです」
「てことらしいので、久しぶりにいかがですか?」
「……久しぶりだから、つま先を踏んじゃうかも知れないわよ?」
「それすらも愛おしいね」
なんて変なことを言っているのかしら。なんて思っていると、ヨハンが私を抱き上げる。思わず小さく悲鳴が零れる。それに全く悪いと思っていない謝罪が降りかかる。
「あぁ…ようやくレオノールに堂々と触れられる」
「やだ、なんだか変態みたいよ?」
「変態でも結構。君があの元王太子と婚約させられたと聞いて、どれだけ気が狂いそうになったか」
「ヨハンも可愛らしいところあるのね」
「ん?もしかして今知った?」
「ううん。改めて再認識したつもりよ」
「でも、作戦がこんなにも上手くいくなんて」
帝国で生活している間、彼と作戦を練った。
絶対に私が皇族の血を引いてることは知らないはず。だからそれを公にしちゃえばいい。一応は友好国ではあるが、帝国の方が立場は上。その血を引く令嬢を婚約破棄しようものなら、どうなるか分かるよな?と脅す。姪っ子が好きな皇帝は進んで協力してくれる。
そして、さすがにボンクラは置いておけないので、王妃は王と側妃を追い出してから、王太子を廃嫡する。この国の癌が取れてどちらにもウィンウィンなのだ。そして、優秀な王女を女王にするという、嫡男制度の撤廃。
ヨハンが頑張って考えてくれたのに、私はじんわりと胸が温かくなる。
意地悪が成功したような表情の彼を可愛いななんて思っていると、顔が近づいてくる。
そしてそのまま唇が重なった。
あ、目が合った。綺麗なアメジストね。
私たちを見ていた令嬢達が黄色い声を上げる。その声に我に返った。
「幸せな家庭を築こう、レオノール」
「えぇ、もちろんよ」
◇◇
卒業パーティでの婚約破棄騒動の後、マルグリットや家族に惜しまれながらも、帝国へと輿入れした私はヨハンと愛しい子供達と共に幸せな生活を過ごした。それは2人がしわしわになってもだ。
王国初めての女王となったマルグリットの隣には、昔から彼女を支えてきた幼なじみが収まった。優秀で優しい彼とは切磋琢磨しながら夫婦関係を築き上げたらしい。今は全てにおいて秀でている娘が次期女王になっている。
私の元婚約者と男爵令嬢は、お互いがあの性格だから上手くいくはずがなく、王家が所有している何も無い領地で喧嘩の絶えない日々を送ってるらしい。というのも、騎士団に所属している次兄からの連絡だ。
元々の元凶となった元王と元側妃は、息子とは異なり、幸せに暮らしているらしい。妃殿下曰く、『馬鹿は馬鹿同士の波長が合うのよ』との事。
元々私と王太子との婚約が進んだのも、私の母に恋をした王のせいなのだ。結婚が出来ないなら、その娘を自分の手元に置いておきたいから。そんな自分の欲の為に、犠牲になったのだ。
そう考えると、王太子であるリュカも可哀想だと思う。まぁ私に嫉妬した側妃は許さないけれど。
それでも、私は今が幸せだからいいと思うの。
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みなさんのおかげで、12/2の日間 異世界[恋愛]ランキング 短編で54位→44位を獲得しました!!
ありがとうございます!!!
今までありがとうございました。
感想閉じさせていただきます。
変更すべき点なのが多いので、ゆっくり変更させていただきます。
厳しい感想ありがとうございます。勉強になります。




