プロ・エピローグ「転移生贄勇者であるはずの坂本月灯について」
長い一日だった。
ドアを開けると、暗い部屋、窓辺から入り込む微かな月明りにそんなことを独り言ちた。
こんなにベッドまでが遠かっただろうか。帰ってくるまではそうでもなかったはずなのに、靴を脱いだ瞬間に7畳のワンルームへのドアまでに息切れしてしまいそうだ。
倒れ込むように横になる。ボスッ、全身の力が抜ける感覚が気持ちいい。
心做しかホコリが溜まっているような気がする。
目をつむるとどうもそのまま溶けていってしまいそうだ。
ただ、まだだ。まだ早い。これから俺は、思い出さねばならない。
夜明けは遠く、ようやく一日が終わりを告げようとしていた。長針は何かに急かされるように、急いで、バテて、結局一定のスピードで短針との新たな旅路を目指し続ける。
しかし、疲れた。筋肉痛がひどい。
それもまぁ、悪くはない。唯一残った右足だ。
右腕が朽ちかけ、左足は膝から下が溶かされてしまった。12時間も経ったはずなのに鉄の義足は馴染まない。
胸には――あいつなんてったっけな、あぁ、テオドシウスか。
彼による呪術でこぶし大の穴が空いている。このままなら少しずつ穴の奥の虚無に飲み込まれ、自我を失ってしまうらしい。すでに片腕も動かない。腐った千切れたというよりは、脳の回路をそこだけ抜き取られたような感覚だ。
潰れた左目に映るのは、一日だけの異世界の記憶。
救った世界のすべての因果は左手首の呪印に刻まれている。
失った五感の代わりに得た六感から十一感までを総動員して夜明けまではどうやら生きていけそうだ。
なんとか腹筋で仰向けに耐性を変えると、未だ紐タイプの照明が揺れていた。
あ、俺エアコン付けっぱだったっけ。
まぁいい。
「明日にはすべて終わっています」
ですよね、勇者様。
毎週大体一日置きくらい更新を目指してがんばるぞい