第2話 そういうわけで、今日もオレは都内の工事現場で警備員をしている
そういうわけで、今日もオレは都内の工事現場で警備員をしている。今日の現場は新橋だ。
仲間内で、警備員はサムライの零落の果てだなんてバカ話をしていたりする。昔は御所を警備していたけども、いまは落ちぶれて主に工事現場とか駐車場なんかの警備をしているという盛者必衰のことわり。令和の御代に刀折れ矢尽きたおっさんの、世知辛いシノギの消去法の末に、すがるように握りしめた誘導灯こそ刀の名残だ。やさしくしてやってくれ。
暑い盛りの日が落ちて、東のビルの隙間を白い半月が登っていく。今日は反対側のゲートでやっている生コンの打設が遅れていて、明るいうちに帰れそうにない。
搬出入の車両の出入りも終わる頃、オレはいつものように道ゆく人々の観察をする。
「よう、おかえり」
レッドソックスの帽子に声をかけると、いつも明るいダウン症の男の子が手を振ってくれる。お互いの肘をあてて挨拶するのは、近くのオフィスに勤めているらしい初老の白人。
家路を急ぐ人々の表情は朝よりも豊かに見える。オレは刀にスイッチを入れてピカピカと光らせた。
警備員という立ち位置からは世間というものがよく見える。ちなみに世間というのは人の集まりのことで、大きく括ると地域とか社会とか国家になる。
たとえば目黒区にはお洒落なブサイクが住んでいる。港区には田舎で村八分になった成金が住んでいる。杉並区にはいんちきジョンレノンが住んでいて、渋谷区にはブサイクなお洒落、新宿区民は手首を切る。おおむねそんな感じだ。
オレたち警備員に向ける視線と態度で、オマエらの人品が計り知れる。見ている、ということは見られているということだ。迂闊なオマエらはよくよく注意した方がいい。
ゆくての道 蕭々として 月 東雲に青いばかり
ビルの隙間のあの半欠けの月。こよみ、で検索するとでてくるサイトでオレはいつも月齢とか節気を確認する。意味のない癖だけど。
月が気になる。本当は太陽も気になるけど目が焼けちゃうだろ。
月読は無意識の神だ。突然の新説で、そう言っているのはオレだけだけど、聞いてくれ。無意識を象徴する神だから『古事記』でもなにをやっているのかよくわからないし、男か女かもわからないけど太陽の女神、天照と同じくらい重要な神格をもつ。太陽の光があたっていないところはすべて月読の領域だからそれも当然だ。
なにが言いたいかって、ようするに半欠けの月は世界の半分しか映していないこの小説と一緒だと思っただけだ。っていうかオマエらはどうしてこういう野暮な説明をさせるかな。漢字にもわざわざルビ振ってさ、ちょっと気の利いた鸚鵡にもわかるように書かないとご不満か?
何様だオマエは!
月読は無意識の神だって言ってんだからそれでピンとこいよ。みろ、またこうやって無駄な文字を増やしてしまった。水増しの駄文と吐き気のする会話でお馴染みの村上春樹とか伊坂幸太郎とか西尾維新みたいになっちゃうじゃないか。あとあの長くてダサいタイトルの……もういいやめろ! オレの魂が錆びついていく…。