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朝に山小屋を出発して、昼前に村に着き、いろいろと買い物をして、ようやくお昼ごろになったから、今から山小屋に戻っても夕暮れには間に合うだろう。
モンスターに出くわさなければの話だが。
なので、今日は戻らない。
最初に会った家族の家に行き、今夜泊めてもらう交渉したら、快く了承してくれた。
更に昼食を御馳走してもらった。
午後は、明日の為に色々と準備を行う。
色々と言ったらいろいろだ。
スキルの確認、道具の調達、作成、それらを使った練習。
あっという間に夕方になった。
ご家族の家に入れてもらい、夕食をいただく。
パンと私が取ってきた鹿肉のシチューだ。
パンはだいぶ固いが、よく噛んで食べれば少しずつ甘みが出て来て、これはこれで美味い。
シチューは私が作った塩だけのものとは違い、何か別の調味料が使われている。
味噌か醤油のような味がするが、何かが違う。
山菜ではなく、ちゃんとした野菜が入っているのも良い。
昼間の反応を見ていると、農民さん達は普段はあまり頻繁にお肉を食べていないらしく、子供たちはすごい勢いでシチューをかきこんでいた。
「それで、あんたこれからどうするつもりだい?」
奥さん(サラさんと名乗った)が聞いてくる。
旦那さんはジョージ、息子さんはジョナサン、娘さんはアンナちゃんと言うそうだ。
自分は、苗字を省いて名前だけ『テンコ』と名乗った。
ここら辺では馴染みのない名前だと言われたが、変に偽名を使ってあとで困るより、本名の方がいいだろう。
「やっぱり、街に行くかい?村に置いてやりたいけども、仕事がねえ、畑の手伝い程度じゃ食うに困るだろうしねえ」
奥さんが、困った顔をして言う。
私は意を決して、言葉を紡ぐ。
「いいえ、山小屋に戻ります。モンスターを倒して、あそこで猟師をするつもりです。ご心配かもしれませんが、こう見えて猟師としては世界基準で平均の少し上くらいの実力があるんですよ」
その覚悟を自分にも言い聞かせるように、一気にしゃべった。
奥さんと旦那さんはかなり驚いた顔をして、私のことをまじまじと見る。
女子の平均よりに高い身長、この世界に転生したことにより、ぽっちゃりだっだ体はそれなりに筋肉質になっている。
服装や装備は『神様?』製で質素だが、しっかりとしたものだ。
この世界では高校生くらいはもう既に一人前の大人扱いなのだろう。
まっすぐ見返す私の覚悟が伝わったのか、止めてはこなかった。
「そうかい、よく分からないけど、あんたがそう言うなら大丈夫なんだろ。でも危ないと思ったらすぐに逃げてくるんだよ」
「はい」
お客様用のベッドとかは無かったので、その夜は妹ちゃんがお兄ちゃんのベッドで一緒に寝て、空いたベッドを私に貸してくれることになった。
しかし、やっぱり自分のベッドがいいのか、私のところに潜り込んでくる。
借りてる身なので、素直に入れてあげる。
「お姉ちゃん、森でクマさんと戦うの?」
まだ小さくて、危険性とかよく分かっていないのだろう、無邪気にそう聞いてきた。
「そうよ、やっつけて、お爺さんの仇取ってあげるね」
無駄に怖がらせる必要もないだろうから、ごく普通の声色で答えた。
本当は、見ず知らずのお爺さんの仇とかはどうでもいいのだが。
「がんばってね」
そう言って少しして、妹ちゃん、アンナちゃんは寝息を立て始めた。
私もちゃんと寝て、明日に備えよう。