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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
1章
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1-3


 次の日。

 朝起きたら、まずは昨日の兎汁の残りで朝食をすます。

 まだ、お昼ご飯分くらいは残った。

 山小屋の中を探したら木製の少し大きな器が二つ見つかったので、一つに兎汁の残りを移し、空いた鍋でまたお湯を沸かす。

 もう一つの器に昨日採ってきたワラビを入れ、その上から暖炉の灰をまぶす。

 さらにその上から、沸騰したお湯をかけた。

 これで、しばらく待てば、灰汁抜きの完了だ。

 次は、兎の皮鞣し。

 兎だからそんなに大きくはないし、出来た革で小物くらいしか作れないだろうけど、捨ててしまうにはもったいない。

 小川に持って行って、よく洗い、木製のヘラで裏側の脂をこそぎ落とす。

 ヘラは山小屋に有った。

 無ければ、木工スキルでそこら辺の木材から自分で作れるけど、有るものは使わせてもらおう。

 多分あの小屋は猟師小屋で、私と同じように獲物を狩って、それを解体・加工してた人が住んでいたのだろう。

 それが、何らかの理由で居なくなった。

 有難く使わせてもらっているが、居なくなった理由が少し気になる。

 小さい皮だけど、何回も洗浄と脂落としを繰り返さなければいけないので、結構な重労働だ。

 一時間ほどやって、大体脂は落ちた。

 小屋の軒先に干しておく。

 まだ、鞣し作業は続きがあるけど、今日はここまでにしよう。

「さて、お昼まで、まだ時間がるね」

 食料にはまだ不安があるから、今日も狩りと山菜取りに行った方がいいだろう。

「もう一狩り行っておきますか」

 昨日とは別の方向の森の中に入っていく。

 しばらく行くと、ワラビと今回はゼンマイも見つけた。

「なんか、見慣れた山菜ばっかりだ」 

 まるで、父の実家がある東北の田舎の山のような景色だ。

 そう言えば、ファンタジーにありがちなでっかいキノコとか極彩色の食虫植物とかは出て来ない。

 昨日取った兎も角なんか生えていなかった。

 野生の兎なんか実際に見たことはなかったから、地球の兎と細かい違いがあったとしても分からないけど、テレビやネットで見た兎との違いは見分けられなかった。

 収斂進化なのかな、同じような環境では同じような生き物が生まれるってやつ。

 そう、ここは当たり前の世界なんだ。

「でも、魔法は有るんだよね」

 ともかく、山菜を採れるだけ採る。

 リュックがいっぱいになったので、山菜取りは十分だろう。

 そろそろ、お昼が近くなった気がする。

「一旦帰ってもいいけど、お肉も欲しいよなあ、もうちょっと先に行ってみるか」

 少し歩くと、向こうの茂みでガサリと音がした。

 昨日の兎よりだいぶ大きな音だ。

 鹿だ。

 大きな角があるからオスだろうか?

 頭を下げて草を食べているので、まだこちらには気づいていない。

 大きい。中学の修学旅行で行った時に見た奈良の鹿よりはだいぶ大きいように見える。

 エゾシカくらい?

 エゾシカは生で見たこと無いので分からないけど、多分そのくらいありそうに見える。

 気付かれない様に、静かに弓を引いた。

 こんな大物、仕留められるだろうか?

 狩猟スキル:レベル5。この世界の平均的なハンターの力量があるなら、出来るはず。

「神様!信じてるからね!」

 放った矢はちゃんと当たった。

 しかし兎とは違い、それでも鹿は倒れなかった。

 一目散に走りだす。

 パニックになっているのか、こちらから遠くへ逃げる方向ではなく、その時頭が向いていた方向、こっちから見て右方向へ走る。

 私は、狩猟スキルのおかげか、流れるような動作で矢筒から次の矢を取り出し、弓につがえ再び放った。

 これも当たった。

 その衝撃で、鹿は足を滑らせて地面に転んだ。

 急いで近寄り、さらにもう一本、矢を打ち込む。

 これで、鹿はもう立ち上がれないようになったが、それでもまだ生きていて、ジタバタともがいている。

 短剣を抜いて止めを刺したいが、

『危ないよ、最後の力で反撃してくるからね、角に気を付けて』

 脳内神様が忠告してくれる。

『槍で突き刺すか、長い棒で頭を強く叩くのが安全な止めのさし方』

 そう言うが、槍も棒もない。

 周りを見回して、苔むしたちょっと大きな石を見つけ、それを持ち上げる。

 少し離れたところから、頭めがけて力いっぱい投げつける。

 鈍い音がして、ようやく鹿は動かなくなった。

 動かなくなったのを確認し、念のために血抜きもかねて、首を短剣で切る。

「やった」

 どっと、疲れた。

 二回目だから慣れたのか、そんなこと考える余裕もないのか、昨日ほど罪悪感は感じなかった。

『ぴろろろん、狩猟のレベルが5から6に上がりました』

 気の抜けたファンファーレと共に、脳内神様の告知が頭の中に響いた。

「え?なに?レベルアップしたの?でも、この世界って数値的なレベルアップは無いとか言ってなかった?」

『はい、そうですね。レベルアップによって体力とか、攻撃力とかが上がる訳ではありません。経験を積んだことにより、大体平均より少し上の技能レベルになったと判断したのでお知らせしました』

「ん?その判断したのって誰?」

『私・・・というか、あなたですね。この世界にはゲーム的なシステムなど組み込まれていませんので、あなた方が要望したレベルなどの概念は、すべてあなた方の脳内で処理することにしました』

「それって、自分で大体これ位のレベルになったって考えて、自分で自分にレベルアップの報告をしてるってことじゃない?」

『はい、そうですね』

 うわ、『神様?』にインストールされた機能とはいえ、自分の頭で判断してるってのは、結構危なっかしいのでは?

 基本私は自分を信じないわけじゃないけど、それでも過信はしないようにしているから。

『レベルアップのお知らせは、邪魔ならオフにすることもできますよ』

「そうね、そうして」


 さて、昨日もそうだったけど、ゲーム世界じゃないから倒した獲物は自動的にドロップアイテムになってくれる訳じゃない。

 自分で運んで解体しないといけないんだ。

 最初はエゾシカくらいかと思ったが、捕まえてみると鹿はそれほど大きかったわけではなかった。

 それでも自分の体重よりは確実に重いだろう。

 クラスの女子の中では背が高い方でかつ少しぽっちゃり気味だった自分の体重は秘密だが、この鹿、70から80キログラムは有ると思う。

 持ち上げることは出来ないが、何とか引きずることは出来た。

 それでも、山小屋までこのまま運ぶのは大変そうだ。

 なので、近くにあった小川というか沢まで引きずって行き、川の水に漬ける。

 流水で冷やすことで、お肉が傷むのをなるべく防ぐためだ。

 ここで解体して、部位ごとに少しずつ運ぼう。

 もうお昼になったから、とりあえず川まで運んだところで、いったん山小屋に戻り昼食にする。

 結局、解体と運搬は午後いっぱいかかった。


 夕食は、鹿肉の塩スープと灰汁抜きしておいたワラビを食べた。

 ワラビは噛むとしゃっきりした歯ごたえのあとに少し粘りがあり、かすかな苦みと甘さがあって、美味しい。

「でも、マヨネーズが欲しいな」

 調味料が塩しかないから、軽く塩を振ってあるけど、鹿肉の味付けも塩だけなので、味のバリエーションがない。

「マヨネーズが有るか分からないけど、塩以外の他の調味料も調達しないとなー」

 食べ終わったら、今日も早めに床に就いた。

 

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