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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
3章
31/210

3-12


 奇襲部隊の隊長、ロナルド・ベルフォレスト 卿は報告を受けていた。

 敵の偵察隊と思しき一団を発見し、これを排除しようとしたが、逆襲にあったという報告だった。

 しかし、いまひとつ敵の規模が掴めない。

「最初は三人程度だと思ったのですが、森の奥から多数の魔法を撃ちこまれまして、止む無く撤退しました」

「それで、敵兵の数は?」

「直接見たわけではありませんが、魔法の数からして20から30人程度かと」

 通常自分たちもそうしている様に、虎の子である魔法兵はこれを守るために同数の一般兵を護衛に着ける。

 そうすると、敵総数は40人から60人か。

 不意打ちを食らわなければ、こちらは三倍以上いるので、撃退は容易い。

 しかし、そうすると、不意打ちを食らわせたのに、それ以上追撃してこないのが腑に落ちない。

 こちらの数が想定以上だったので、臆したか?

 色々考えることはあるが、考え過ぎて作戦が遅滞するのは悪手だ。

 今は次の手を打つことが大事だ。

 敵もこちらを発見したならば、本隊に伝令を走らせているだろう。

 本来は自分たち少数精鋭である迂回部隊が敵の背後を突き、同時に本隊が川を渡って敵陣に攻撃するというシナリオだった。

 もちろん、奇襲前に発見された場合の事も出発前に本隊と打ち合わせは行っている。

 奇襲にならなかったとしても、敵陣の背後に部隊を配置できれば、それだけで圧力をかけることが出来る。

 なので、可能であれば予定通り進軍する。

「全隊、隊列を組め!敵を撃滅して前進する!」

 部隊に号令を出す。

 敵襲を警戒して進むので遅くはなるが、それでも進むことが第一だ。

「本隊に伝令。敵小部隊と接敵、これより撃破して進む!多少遅れるが作戦は予定通りだとな!」


 私達を襲って来た敵は一旦逃げた様だが、態勢を立て直してまた進んで来るみたいだ。

 それでも、カレンの治療をするだけの時間は稼げた。

 急いで元来た道を戻る。

 敵は私達をそれなりの人数と思って警戒しているので、進むスピードは遅いだろう。

 追い付かれることは無いと思う。

「敵兵の進む速度・・・、虎の子の魔法兵をこちらに割いているなら、本隊の兵力は落ちているはず・・・」

 速足で森の中を進みながら、エドガーさんは何やらぶつぶつと呟いていた。

 

 両軍は川の両岸に敵味方に分かれて布陣している訳だが、ただ兵士がたむろしている訳ではない。

 川岸にはお互いの陣地を守るように木製の柵が作られている。

 ワーリン軍の兵士がその柵の前に武器を構えて整列していた。

 これから川を渡って攻め込むぞと言う構えだ。

 まだ余裕が有ると思っていたベルドナ軍は、いきなりの事に慌てて応戦の準備をしている。

 私達は川から少し離れた丘の上、今朝狩りの為に入って行った森の入り口から、その様子を眺めていた。

 ここに居るのは私とリーナとカレンの三人。

 エドガーさんだけ自軍の偉い人たちの所に報告に行っている。

 もう少しするとこの森の奥から敵の別動隊がやって来るはずだから、早いとこ本隊のところに逃げ込みたいのだが、エドガーさんにお願いされて私達はここに残っている。

「あ、あれ、合図じゃない!?」

 リーナがそう言う。

 自軍の司令部がある辺りから、太陽光を反射したような光が何度か見えた。

 それを確認して、私は空に向けて火魔法を撃った。

火球魔法ファイアーボール!」

 三人の中で火魔法が使えるのは私だけなので、私がやった。

 上空に放たれた火球が花火のように炸裂する。

 すると、川の向こうの敵陣から銅鑼のような音が響き渡り、雄たけびと共に敵兵が川を渡り始めた。

「うわ、本当に始まっちゃった」

 私がそう呟く。

 エドガーさんから聞かされていたとはいえ、本当にそうなるとはびっくりする。

「いつまでもここに居たら危ないから、みんなと合流するよ!」

 カレンがそう言って、私達は丘を降りて自軍の方に戻って行く。

 向こうの方も戦闘が始まってて危ないんだけどね。

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