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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
プロローグ
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プロローグ2

プロローグ 2


「え?な、なんでしょう?」

 『神様?』が少し驚いた顔をする。

 見た目、教育実習生くらいの女の人に見えるので、ちょっとかわいい。

「ああ、そうですね質問があるんですね。すみません、一方的な説明になってしまって」

 そう謝る。

 しかし、一部の生徒たちは不満げな態度でしゃべりだす。

「いやそうじゃなくて、なんか転生ボーナス少なすぎない?」「そうそう、ある程度の魔法とかスキルとかってどのくらい?」「そっちのミスで死んじゃったんだからさ、もっとチート級のボーナスがあってもいいんじゃない?」

「あの、チート級というと?」

「ほらアニメとか漫画とかで、あるじゃない。なんか1個だけ世界最強のスキルがもらえるとか」「何でも出来るスマホを持って行けるとか」「俺だけレベルアップのスピードが10倍とか」「幸運ラックのパラメーターカンストしてるとか」「君みたいな女神に一緒に来てほしい」

 なんか、我が儘を言いだした。

「え、えー?」

 『神様?』はものすごく困った顔をした。

 私としては最初の条件で納得していたが、確かにもっともらえるならその方がいい。

 でも、その困った顔を見ると、なんか悪い気がしてきた。

 だいたい昔話とかだと、こういう時欲をかきすぎると碌なことにならないし。

 異世界転生もののラノベなら、どうだっただろう。

「あのですね、残念ながらそういったご要望に応えることはできません。何故ならこちらの世界、魔法はありますが、そういったレベルとかステータス・パラメーターのようなゲーム的な要素は存在していないのです。というか、そちらの世界でも現実において数値的なレベルアップとかステータス変化とかはしないでしょう。つまり普通の世界に魔法が少しプラスされただけの世界なのです。それにスマートフォンなどの機器もWi-Fiがありませんし、スタンドアローンのデータベースとして使用するにも、ソーラーや手回し式発電器で充電はできても、いずれ劣化破損するので数年で使えなくなりますよ。あと私は自分の世界と暫くの間あなた方の世界の管理業務があるので一緒に行くことはできません」

「えー、なんだよそれ、それじゃ異世界転生する意味なくない?」「現実とおんなじとか、そんなクソゲー世界いやだ」「なんとかしろよ、そっちの責任だろ」「そうだ、詫び石よこせ」「この駄女神がっ!」

 みんな好き勝手わめく。

 困った顔をしていた『神様?』だが、みんなの罵詈雑言にだんだん顔が引きつってきた。

 あれ?まずくない?仮にも『神様?』を怒らせたら。

「分かりました!」

 パンッと手をたたいて、『神様?』はどこからともなくタブレット端末のようなものを取り出し、それを数秒だけ凝視した。

「今、皆さんが言うアニメや漫画・小説の異世界転生・転移ものを確認しました」

 え?今の数秒で?

「こちらの世界そのものを変えることは出来ませんが、転生時の技能スキル取得において、可能な限り『異世界転生』のテンプレートに沿った対応を行います」

 なんか、『神様?』ヤケクソになってるように見える。

「手元の端末を見てください」

 そう言われて手元を見ると、これまたいつの間にかタブレット端末が出現していた。

 全員に1台ずつ行き渡っているみたいだ。

「まず、皆さんにそれぞれ25ポイントをお渡しします。こちらの世界に存在する技能スキルを初級者をレベル1、達人クラスをレベル10として1ポイント使用で1レベルを取得できるようにします。端末画面に各技能スキル一覧とその説明が載っていますので、各自自由にポイントを割り振ってください。その技能を持って転生できるようにしましょう」

 という事は、1ポイントずつ別なスキルを所得してもいいし、1つのスキルに最大10ポイント突っ込んで最強にしてもいいって事?

「つまり、極振りすれば最強スキルを2個と半分もらえるって事か」「最強2つか悪くないな」「つうか、うまく組み合わせればもっと強くなるんじゃね」「なるほど、頭の使いどころだ」「こういうのを待ってたぜ」

 それまでぶー垂れていた連中がテノヒラガエシして、急に真剣に端末の操作を始めた。

 それに呆れながらも、私や他の騒いでいなかったクラスメイト達もスキルの選択を始めた。


 タブレットの画面には、まず各スキルの分類が表示されていた。

 『農業』『狩猟』『製造・加工』『料理・家事』『魔法』などなど、なぜか『戦闘』が最後から2番目にある。1番最後は『その他』だ。

 『農業』をタップしてみると、『穀物栽培』『野菜栽培』『果樹栽培』などが表示された。

 補足として、『農業に関する技術・知識を得ることができます。付随する土木技術(畑の造成・維持)・天候予測・作物の加工技術(専門的な醸造等は別のスキルになります)もレベルに合わせて同時に得ることができます。作物の種類は転生予定地で一般的なものになります。別地域の作物は『その他』から選択してください。ただし種の入手困難度が高く、また気候が合わない場合がありますのでご注意ください』と書かれていた。

 結構詳細に説明がある。

 みんな普通に操作しているけど、私のお父さんがシステムエンジニアで少し聞いたことがあるけど、こういうの作るのだけでもそれなりに大変なんだって言ってた。と言うか晩酌しながら愚痴ってた。

 さっきまでの流れをみていると、これって事前に作っていた訳ではないだろう。

 それを急遽というか、さっきのほんの一瞬で作ったってことは、やっぱり教壇に立っているあの人は『神様みたいな人』なんだろうな。

 さておき、『戻る』ボタンを押してトップ画面に戻る。 

 『魔法』のページを開く。

 やっぱ自分たちの世界に無いこれが気になるよね。

 そこには『火魔法』『風魔法』『水魔法』『土魔法』『光魔法』『闇魔法』『治癒魔法』『生活魔法』『魔導探究者』の項目があった。

 補足には『魔法には相性があり、通常、相反する魔法は同時に取得できません。火魔法と水魔法、風魔法と土魔法、光魔法と闇魔法がそれぞれ相反する魔法になります。治癒魔法には相反する魔法はありません。例外として生活魔法と魔導探究者にはこの制限がありません』とある。

 前の7つはゲームとかでもよく見るものだから理解できるが、生活魔法と魔導探究者がちょっと分からないかな。

 前半とばして、先に『生活魔法』と『魔導探究者』を開いてみよう。

『生活魔法』:日常生活に便利な『火風水土』の4魔法をセットで取得できる。高レベルになると攻撃魔法としても使用できるが、同じ威力を得るのに3倍のレベルを必要とする。『光闇治癒』の魔法は別途取得可能だが、通常の『火風水土』の魔法は追加で取得できない。

 つまり、火魔法レベル1を使おうと思ったら、生活魔法だと3レベルが要るって事か。

 4個セットでお得だけど、それぞれのパワーは3分の1、おまけにレベル10でカンストだから攻撃魔法にすると最大レベル3.33・・止まりなんだ。

 それでも全体でみるとやっぱりお得だな。

『魔導探究者』:魔導を探求する者。『火風水土光闇治癒』の全ての魔法を取得できる。単体の魔法の取得に対し2倍のレベルが要求される。生活魔法とは違い、個別に追加取得が可能。ただし、魔導探究者を取得した場合、魔法以外の戦闘に関するは技能はいずれも取得出来ない。

 最後の一文を除くと完全に生活魔法の上位互換だ。

 ただ、直接戦闘が出来ないって事はRPGだと完全に後衛職になっちゃう。

 というか探求者って言うくらいだから、冒険なんか出ないでどこかに引き籠って魔法の研究する人用のスキルでしょこれ。

 いや待てよ。そうだ、そうなんだよ。別に異世界だからって冒険に出る必要なんかないんだ。

 『戦闘』の項目が後ろから2番目にあった理由が分かった気がする。

 『神様?』が言ってた、魔法が有るだけの普通の世界って、そういう事だ。

 高校受験でやってた、問題文を読み込んで解答までの道筋が見えた時の気分が蘇ってきた。

 そうなると、選ぶべき項目が分かってくる。

 まずは、時間は掛かるけど各項目をじっくり読み込んでいこう。


 他のクラスメイトもワイワイやりながら、スキルを選んでいた。

「これって、やっぱり極振りした方がいいんかな?」「そうだろ、普通ゲームだとレベルが上がるほど経験値が多く必要だけど、1ポイント=1レベルなら一つのスキルにつぎ込んだ方が絶対得だって」「そうだよな、低レベルのスキル沢山取るより、こう、どーん!といった方が正解だよな」

「ま、待ってください。確かに高レベルの技能を取得するには本来多くの時間や努力を必要としますが、あまり高レベルすぎても使い道がない場合もあります。5レベルもあれば普通の仕事や生活に困りません。7・8レベルで周りから十分賞賛されるくらいです。お勧めとしてはメインとなるスキルを1つ高レベルで取って、あとは生活に必要な技能を多く取るのがベストです」

 『神様?』が、そう忠告する。

 なるほど、私もそういう風に選択しているところだ。

 しかし、一部のクラスメイト、特に男子!は聞く耳を持たない。

「えー?駄女神様がああ言ってるけど、どうする?」「そういう風にするのが普通はいいのかも知れんけど、それじゃつまらんでしょ」「やっぱ、極振りはロマンだ」「だいたい、中途半端なレベルで取ったら、自分より高レベルの奴に会ったとき困るじゃん」

 口々にそう言う。

 それは間違っている!と私は思った。

 それが彼らの考えなのだろうけど、少なくとも私は彼らよりじっくりと考えて、別の答えを導き出した。

 普段はあまり話さないコミュ障の私だけど、さすがに何か言ってやった方がいいんじゃないかと口を開きかけた。

 しかし、その前に一人の男子が、

「よし、俺はこれで決めた!」

 と、端末に入力を終えて、私の方を覗き込んだ。

「なんだ、お前まだ終わってないの?」

 途中まで入力した私の端末を見て、そう言う。

「それになんだこれ?ちまちまと低レベルの奴をいっぱい取って、こういうのはあれだ、『器用貧乏』って言うんじゃねえの?」

 そんな憎まれ口まで叩いた。

 うぐっ。何か言ってやろうとした私だけど、先に相手に言われると、コミュ障が邪魔して何も言えなくなる。

「だめですよ、ほかの人の邪魔をしては」

 『神様?』が注意する。

「えー?でも俺はもう終わってヒマだしー」

「それでは、先に転生してしまいますか?」

 『神様?』がそう言う。表情は普通だが、さすがにこめかみの辺りに血管が浮いているように見える・・・気がする。

「おう!そうだなもういいぜ」「あっ、俺も終わったぜ」「俺も俺も」

 そう言って、何人かが手を挙げる。

 その人たちは相変わらず誰だか分からないまま、光に包まれるとここから消えていった。

「他の方はじっくり考えてもらって構いませんよ。転生するときの時間はほとんど変わりませんので」

 『神様?』がそう言う。

 これで安心して、続きが出来る。

 先に行ってしまった人達が少し心配な気もするが、それが彼らの選択なのだからしようがない。


 『神様?』が言ったように、メインになるスキルを1つ、あとはその補助となるスキルと、生活に必要そうなスキルをいくつか・・・

 と入力していく。

 最後に『その他』のページを開く。

 そこには、『筋力』『素早さ』『体力』『器用さ』などの項目が並んでいた。

 あれ?これって、スキルというよりステータスなんじゃ?

 さっき言われた『器用貧乏』って言葉が引っ掛かっていたので、何となしに『器用さ』の項目を開いてみる。

 『各個人が持つ基本となる身体能力とは別に器用さを追加できます。『製造・加工』『料理・家事』など器用さを必要とする技能にレベルの2分の1の補正を付け加えることが出来ます。『戦闘』には対象外です。取得していない技能には加算されません。補正後の技能レベルは10を超えることは出来ません』

 つまり、器用さレベル2を取ると、料理1が2になったり、掃除3が4になったりするのか。

 2分の1にしかならないけど、たくさんスキルを取る場合、これは結構お得なんじゃない?

 よし、これを取っておこう。

 あと、一つ気になったんで、聞いてみる。

「あのー先生、このスキルたちって、後からレベルアップできますよね?」

 あ、思わず『先生』とか言っちゃった。

「はい、もちろん。練習や実際に技能を使うことによって上達していきますよ。また、取得していない技能でも後で覚えることもできます。あくまでこれらは初期状態ですから」

 よかった、低レベルのスキルばかり多く取ったけど、後々伸ばせるなら何とかなりそうだ。

 周りを見ると、すでに残っているのは私を含めて数人だけになっていた。

 最後に入力した項目を確認して、顔を上げる。

 他の人達も終わっているようだ。

「では、皆さんで最後ですね。良き異世界を」

 『ちょっと頼りない女性教師のような姿をした神様?みたいな人』が手を挙げると私たちの身体と意識が光に包まれていく。

 

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