2-ex
「くそっ、なんでこんな事に」
悪態をつきながら、赤城翔馬は夜の街を逃げ回っていた。
なんでも何も、お金が尽きて、食い逃げして追われているのは完璧に自業自得なのだが。
「金さえ稼げれば・・・、おい、駄女神!なんで、この世界にダンジョンとか魔王とか無いんだよ!?」
八つ当たり気味に聞く。
『最初に申し上げた通り、この世界は魔法が有ることを除けば、あなたが元居た世界と大きな違いはありません。ちょっとした洞窟にモンスターが住み着くことは有っても、ゲームのような地下何層もあるようなダンジョンが自然に出来ることは有りません』
脳内神様がそう答えた。
「じゃあ、魔王は!?」
『この世界で繫栄している知的種族は細かな人種の差は有れども『人間』一種類だけです。過去に『魔王』と呼称された人間は何人かいますが、それは、例えばあなたの世界の織田信長の『第六天魔王』ように当時の宗教勢力と対立したために付けられた呼び名に過ぎません』
天呼のとは違い、彼の脳内神様は淡々と喋る。
「くそっ、そんなウンチクはどうでもいいんだ!」
彼が走る路地の先の方に数人の衛兵が現れた。
後ろからも追われているので、挟み撃ちになる。
逃げ場はない。
彼は剣を構えて、前へ走った。
槍を持った衛兵たちと打ち合う。
五人の衛兵が繰り出す槍を、一人で捌く彼の剣技は見事なものである。
しかし、それでも衛兵たちの隊列を突破することが出来ない。
「なんでだ、剣術レベル10じゃないのか!?」
『第一に、剣と槍ではリーチの長い槍の方が有利です。技量に差があれば槍をかわして相手の懐に飛び込むことも出来ますが、一対一ならともかく、複数の訓練された相手では難しいでしょう。街の衛兵でもお互いの隙をカバーしあうような集団戦の訓練はしているはずです。彼らも素人ではなくプロなのですから』
「それでも、俺は最強なんじゃないのか!?」
『第二に、現在のあなたは剣術レベルは8程度しかありません』
「なに!」
『あなたはこの世界に来てから、剣術の稽古を最初の頃に数回しかしていませんね、その為レベルが下がりました。達人と呼ばれる人達が日頃の訓練をサボると思われますか?』
赤城翔馬の顔が、絶望に歪む。
魔石を使い切っているので、高レベルの魔法も使えない。
低レベルの魔法なら使えるが、元から魔法のあるこの世界の兵士が対策をしていないわけがない。
彼の放った火魔法は、盾で防がれたり、水魔法が使える者はそれで相殺されてりしていた。
『第三に、あなたの剣、何度か火魔法を纏わせていましたね、その後、適切な処置をしていないので『焼きなまし』の状態になって、鋼が柔らかくなってしまって十分な性能を発揮できていません。付与されていた金属加工レベル2の知識で対処できたのですが、あなたはそれを無視しました』
「なんだよ!全部俺が悪いのかよ!」
その問いには神様は答えなかった。
後ろから追ってきていた衛兵たちが、追い付いた。
完全に取り囲まれる。
「ど、どうすればいい?」
藁にもすがる気持ちで聞く。
『どうしようもありませんね。正解は他の二人のように最初の内に武器を捨てて、降伏する事でした。彼らは牢に入れられるでしょうが、軽い罰ですぐに出て来れるでしょう。しかし、あなたは逃走中に三人斬っています。内一人は確実な手ごたえがあったのは分かっているでしょう。この国では衛兵殺しは死刑です。と言うか、この場で処分でしょうね』
脳内神様の言う通り、衛兵たちは『武器を捨てろ』とか『投降しろ』とかの声を掛けることもなく、槍を構えてジリジリと包囲を狭めてくる。
その目には確実な殺意があった。
「畜生、せっかく異世界転生したのに、食い逃げでおしまいかよ」
赤城翔馬は泣き笑いのような顔をして、正面の衛兵に向かって、最後の吶喊を仕掛けた。
自業自得。その言葉が脳裏に浮かぶ。