2-8
次の日。
私とリーナは村のリックさんの家まで来た。
「リックさん、こないだ言ったこと覚えていますか?」
そう聞く。
「こないだ?なんか言ったっけ?」
別の惚けている訳ではないだろう、社交辞令で言ったんで、単に忘れているだけだと思う。
「腕が治ったら、私の家を直してくれるって話です」
「ああ、そう言えば、言った、言った」
よし、言質とったね。
「実はこの娘、私の同郷の知り合いでリーナさんと言いますが、治癒魔法の達人で、なんとリックさんの腕を治すことが出来ます」
リーナを紹介してそう言う。
なんか私、怪しいセールスマンみたいになってる?
「ほ、本当に出来るのか?」
リックさんが色めき立つ。
普通、こんな小娘の言う事なんか一笑に付すのだろうけど、一応私は熊のモンスターを倒し、アンナちゃんの風邪を治したことで、村の中でそれなりの信用を得ている。
「いやしかし、大金が必要なんじゃ・・・」
「あなた、大工をやってた時の貯えがあるでしょ、あれを使えば」
隣で話を聞いていた奥さんがそう言う。
「お金は要りません。その代わり、私の家の増築をお願いしたいんです」
「もちろんだ、そんな事でいいなら幾らでも、それこそ豪邸だって建ててやる」
いや、あの山の中に豪邸とか建てられても困る。
ともかく、これで商談は成立かな。
「それでは、まず、キッチンをお借りします」
そう言って、私は家から持ってきたお肉などの食材を取り出した。
「さあ、食べて、食べて」
台所を借りて作った料理を、どんどんリックさんに食べさせる。
つまりアレだ、アンナちゃんの風邪を治した時と同じ要領だ。
この場合、失った身体の部位を再生するんだから、必要なのはたんぱく質、お肉だ。
高レベルの治癒魔法は魔素を変換して、そこら辺も補うらしいが、念のためである。
リーナの治癒魔法レベル7を信用していないわけではないが、出来ることがあるなら全部をやっておいた方がいいだろう。
「うう、もう食えない・・・」
リックさんが口を押える。
そのまま寝室に連れて行き、ベッドに寝かせる。
「鎮静」
リーナが魔法を使うと、リックさんは落ち着いた様子になる。
実はこれ、闇魔法である。
闇魔法と言うとなんかオドロオドロシイものを思い浮かべがちだが、この世界では鎮静とか睡眠みたいな精神を落ち着かせる魔法のことを言うらしい。
ただ、高レベルになると催眠とか洗脳も出来るらしいので、そこから闇魔法と言われている説があるとか。
逆に光魔法は興奮とか鼓舞の作用がある。もちろん明かりとしての光も出せるそうだ。
「とりあえず、少し休んで、食べ物が消化されてから治癒魔法を使います」
一時間後位。
「高度治癒」
リーナが魔法を使う。
魔石が嵌め込まれた杖をリックさんにかざすと、右腕の先が少しずつ盛り上がってきた。
一瞬で治る訳ではなく、結構時間がかかる。
その間、リーナはずっと精神を集中していた。
杖の先の魔石の輝きが少しずつ暗くなっていく。
魔石は魔素を含んだ石であるが、使えば当然減っていく。
こちらの世界に来た時は、リーナの杖も満タン状態だったが、いろいろと使ったそうで、私と会ったときには空に近くなっていた。
なので、私が売らずに持っていた熊の魔石からチャージした。
ある程度、高レベルの魔法が使える人は、魔石から魔石へのチャージが出来るらしい。
私は出来ないから、リーナにやって貰ったのだが。
10分くらい経ったか、リックさんの無くなっていた右手が完全な状態で再生していた。
「ふう、終わった」
リーナが杖を置いて、汗をぬぐう。
目を瞑っていたリックさんが起き上がり、自分の右手を見つめる。
「う、うおおおおっ!!治ってる!治ってる!俺の右手だっ!!」
いきなりすごい声を挙げて、リーナの手を取り喜びだす。
「ありがとう、ありがとう、きっとすごい家を建てやるからな!!」
襲い掛からんばかりの感謝に、リーナも私も流石にたじろぐ。
「鎮静」
魔法で何とか落ち着かせた。
リーナは私の方を振り返りって、てへり、と笑った。
三日後。
山小屋の前に建材を積んだ馬車と、リックさんと他沢山の大工さんがやってきた。
リックさんが昔の仲間に声を掛けて回ったそうだ。
建材と他の大工さんの賃金はリックさん持ちだというが、流石に悪いので、工期中のみんなの食事は私が用意することにした。