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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
17章
161/165

17-9


 ザビーネさんと何処かの貴族の息子が軽やかなステップで踊る。

 曲は基本の一番簡単な奴ではなく、少し難易度の高い奴だ。

 大勢の貴族の注目が集まる中、物怖じもせず踊れるその自信は大したものである。

 果たして、私に出来るだろうか?

 ダンス勝負は一組ずつ踊る事になって、ザビーネさんが先攻である。

 最初、彼女はペアの相手にチャーリー王子を望んだが、審査員である王子は客観的に審査するべきだというブルーノ王子の意見で却下された。

 今一緒に踊っているのは彼女の知り合いの伯爵子息だそうだ。

 主役がザビーネさんだという事が分かっているからか、基本に忠実な動きで、女性の華やかなダンスのサポートに徹しているのは流石だ。

 対して、私はこの場にダンスの相手をお願いできる様な知り合いの男性は居ない。

 アレックス王子がザビーネさんのビルタン家と利害関係の無い貴族の子息を紹介すると言ったが、私は断った。

 どうせ、今のザビーネさんの華麗なダンスを見ればどうやっても勝てそうにないし、今回は勝つつもりもないから、私は奇策に出る事にしている。

 一曲が終わり、ザビーネさんが優雅に一礼して、ダンスも終了する。

 素晴らしいダンスだった。

 つい数日前に基本のダンスだけ習った私とは年季が違う。

 見ていた周りの貴族達が盛大に拍手を送る。

「うむ、これは逆立ちしても勝てないな」

「最初からダンス勝負は捨てるつもりだって言ってたけど、やるだけ無駄だから棄権する?」

 私の感想に、リーナが聞いて来る。

「それはそれで、気分良く無いな」

「勝負から逃げるのも恥だけど、下手なダンスを見せるのも恥だし、悩み処だな」

 カレンとユキもそう言う。

 私一人ならそれくらいの恥なんか別に気にしないのだが、今や私の恥はこの三人の恥でもあり、更には私に味方してくれるマリーさんの恥でもある。

 この国にやって来て日も浅く知り合いも少ない彼女の不利になる事はしたくない。

「敵わないのは百も承知ですが、それでも一矢報いたいですわね」

 マリーさんがそう言う。

「そうですね。どうせ恥をかくなら、それを逆手にとって一矢報いましょう」

 私はそう言って、マリーさんの手を取る。

 次の曲の前奏が始まる。

 私とマリーさんはザビーネさん達が下がった広場の中央に出て行く。

 見守る大勢の若い貴族達が騒めく。

「ほう?」

 アレックス王子が興味深げに声をあげる。

 これが私の奇策だ。

 ダンスで勝負とは言われたが、男女ペアの社交ダンスとは誰も言っていない。

 この場でダンスと言えばそれが常識で、ザビーネさんも王子達や他の人も疑っていなかったけど、明言されていない以上、そこを突かせてもらう。

 私が男性役で、マリーさんが女性役でステップを踏む。

 曲は一番簡単な基本のダンス曲だ。

 私はこれしか習っていないので、これしか踊れない。

 それでも、男女で踊る曲を女性二人で踊るのは常識外れであり、目新しく見える。

 実力で勝てないなら、奇抜さで勝負するしかない。

 私は習った通りの基本に忠実なステップだけで、アレンジを利かせることは出来ないが、元々男性役の方は女性のサポートの役割が大きいので問題は無い。

 その分、マリーさんが華麗に踊ってくれる。

 彼女は元々別の国の人なので、この国のものとは少し違うステップを踏む。

 それが、目新しいアレンジに見えて観客の目を魅了する。

 最初この策をマリーさんに提案する時、私は少し迷った。

 私の恥に彼女を巻き込む事になるからだ。

 マリーさんではなく、リーナかカレンに頼もうかとも思ったが、彼女達は私同様社交ダンスは素人だ。

 貴族令嬢で幼少の頃からダンスを習ってきたマリーさんが最適だった。

 幸いマリーさんは私の提案に賛成してくれた。

 マリーさんが華麗にターンを決める。

 スカートがふわりと広がる。

 対して私はなるべくスカートが広がらない様に動いている。

 女性二人で踊ると広がったスカートどうしがぶつかって見苦しいのはリーナ達と練習している時に気付いていた。

 なので、男性役の私はなるべく重心をブラさない様にして踊る。

 転生時に得た徒手格闘のスキルが活きている。

 格闘技と言っても、最初は低レベルで基本的な動作しか出来なかったが、私はなるべく空いた時間にそれを練習して来た。

 技の種類は増えていないが、基本の歩法だけはしっかりと身についている。

 お陰で、マリーさんがワーリン王国風のこちらのとは少し違うステップを踏んでも、バランスを崩さずに対処出来ている。

 突然の余興だが、舞踏会に参加しているほとんどの人達が私達を注目している。

 ザビーネさんもだったが、流石生まれた時からの貴族のマリーさんは堂々と踊る。

 私はなるべくミスしない様に必死だ。

 長いのか短いのか分からない時間が過ぎて、私達の演技も終わった。

 お愛想なのか、見ていた貴族の人達が拍手を送ってくれる。

 意表を突いたダンスで戸惑っている人達が大半だったが、極一部に何故か喜んでいる人達も居た。

「楽しいダンスでしたわ」

 マリーさんもそう言う。

 一礼してリーナ達の所に戻るまで、何故か彼女は私の手を放してくれなかった。


 両者の演技が終わり、三人の王子達が審議の為に話し合う。

「勝者はザビーネ・ビルタン嬢!」

 審議は直ぐに終わり、アレックス王子がそう宣言した。

 予想していた結果だ。

「当然ですわ」

 ザビーネさんが嬉しそうに胸を張る。

 別に悔しくは無い。

「マリー嬢とてんこ嬢のダンスも面白かったのだが、これはザビーネ嬢とてんこ嬢の勝負だからな。マリー嬢が如何に上手く踊れても評価にはならない」

 王子はそう講評する。

 ペアで見ると私達のダンスもザビーネさん達にそれほど劣ってはいなかったと思うけど、それはやっぱりマリーさんの踊りによる処が大きかった。

 私はただパートナーを支える役割をしていただけだ。

「まあ、そりゃあそうだね」

「意表を突いた組み合わせで煙に巻こうとしても無理か」

「とは言え、悔しいな」

 リーナ達がそう言う。

「これでザビーネ嬢の一勝となるが、敗者には次の勝負の方法を選ぶ権利が与えられる。何が良いかね?」

 アレックス王子が私に聞いて来る。

「では、料理勝負はどうでしょう?」

 私は予め考えていた案を話す。

「うむ、良いな」

「では、もう少し料理の種類を狭めてはどうでしょう?てんこ殿はライスに興味が有る様だ。それを使った料理を双方で作って競うと言うのは?」

 頷いたアレックス王子に、ブルーノ王子が追加で提案して来た。

 私達が米に興味を示したのはチャーリー王子が兄達に話した様だ。

「なるほど、ザビーネ嬢もそれで依存は無いかね?」

「構いませんわ。我が伯爵家には腕の良い料理人が揃っていますの」

 ザビーネさんがそう答える。

 自分で料理するんじゃないのかって思ったが、まあ、家の力も含めての彼女の実力という事なのだろう。

 貴族としてはそれが普通の考え方なのだろう、誰も異議ははさまない。

「宜しい、では二回戦はライスを使った料理勝負。日時は二日後の昼食時としよう」

 アレックス王子がそう宣言した。


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