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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
2章
14/193

2-4


 この世界に来てから二か月がたった。

 なんやかんや有ったけど、なんとか暮らしている。

 森の獲物は定期的に取れるし、解体や革の加工も慣れてきた。

 庭に作った畑も、野菜の芽が出て来て順調に育っている。

 キュウリは支柱を立てて、ツルが絡まるようにした。

 リンゴの木は花が散って、小さな実が付き、少しずつ大きくなってきている。

 

 例のハーブ味噌だが、聞いたら、各家庭で作っていて、作る人によってハーブの種類や量が違うらしく、雑貨屋で売られているものは特にハーブを効かせたもので、あれ以上どうしようもないそうだ。

 どうやら、半分薬として使うものらしい。

 村に流行った風邪だが、死者は一人だけで収まったそうだ。

 雑貨屋のハーブ味噌が結構売れ、サラさん達にあげたハチミツも余った分をサラさんが知り合い達に分けてあげたそうだ。

 私もあの次の日、残っていたもう一瓶のハチミツを雑貨屋さんに売った。

 それを村長さんが買い、みんなに分け与えたそうだ。

 それに、村の中にも低レベルだけど治癒魔法が使える人が何人かいるらしい。

 結局ハーブ味噌だけど、油を引いた鍋でそのまま過熱し苦みと香りを出来るだけ飛ばして、焼き味噌風にしてパンやお肉に付けて何とか消費した。


 ある日、いつものように鞣し終わった革を雑貨屋さんに持ち込んだ時、

「あんた、てんこさんだったかね。この革、どうせなら直接街まで売りに行かんかね?」

 お店のおばちゃんが、そう言ってきた。

「え?あんまり沢山持ち込むとやっぱり迷惑ですか?」

「いや、そうじゃなくてね。まあ、確かに村の中で買う人も少ないから、街から品物を持ってくる行商さんに買い取ってもらってるんだけど、それなら直接街に売りに行った方が手間賃分あんたの得になるだろ」

 なるほど、そういう親切心からか。

「死んだジム爺さんもそうしてたし。あたしゃ目利きとかあんまり出来ないけど、この革、ずいぶん丁寧に鞣してあって、街で売った方がだいぶ高く売れるんじゃないかねえ。うちじゃ一律の値段でしか買ってあげられないし」

 うーむ、そうか。でも、私としては新しく知らない人と値段交渉とかするのは気が引ける。コミュ障だし。

 でも、せっかく親切で言ってくれたんだし。

「わ、分かりました」

 そう言って、持ち込んだ革を引っ込め、革と交換じゃなくお金を払って生活必需品を買う。

 それから、おばちゃんからジムお爺さんが取引していたという街の革細工屋さんの場所を教えてもらった。


 いったん山小屋に戻ろうかとも思ったけど、買った品物も少ないし、二度手間になりそうなので、今日の内に街まで行ってみることにした。

 街までは更に半日くらいかかるそうだ。

 今日中には戻ってこれないが、街には宿屋が有るそうなので、そこで一泊しようと思う。

 早速、雑貨屋さんを出て、教えられた道を進む。

 今まで山小屋と村の間を往復しかしていなかったので、初めて通る道は少し緊張するが新鮮だ。

 畑の中を通る舗装されていない土を踏み固めただけの道。

 それまでの道とそんなに代わり映えはしないが、少し景色が違うだけで何かワクワクする。

「おや、てんこちゃんじゃないか、街までお出かけかい?」

 畑の中で草取りをしていた人が声を掛けてきた。

 確か、ジョージさんの親戚のリックさんだ。

 ジョージさんの家で何度か会ったことが有る。

 こっちの方に畑が有ったんだ。村の中心から街寄りの方に来たことが無かったんで知らなかった。

「こないだはハチミツ分けてくれて助かったわ」

 そう言って、草刈り鎌を持っているのとは反対の腕で額の汗をぬぐう。

 その右腕の手首から先が無い。

 リックさんは元は腕の良い大工さんだったそうだが、むかし戦争に駆り出されて負傷し、右手を失ったそうだ。

 今は大工を辞めてジョージさんを頼ってこの村に来て、奥さんと一緒に小さな畑を耕している。

「俺の腕がこんなんじゃなかったら、てんこちゃんの山小屋、もっと大きく作り直してやれるのになあ」

 私は何と答えていいか分からず、あいまいに会釈をした。

 リックさんと別れて、街の方へ歩いていく。

 少し考える。

 リックさん、割と明るく畑仕事とかしているけど、やっぱり右手を取り戻したいと思っているだろうか?

 この世界の治癒魔法は高レベルになると失った体の部位も再生できるらしい。

 そんな高レベルの治癒術師はめったにいないし、いたとしてもかなりのお金がかかるそうだが。

 もちろん、私の治癒魔法レベル1ではどうしようもない。


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