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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
2章
13/192

2-3


 採れたハチミツは調味料とかを入れる小さな壺二つ分になった。

 小麦粉に混ぜてホットケーキ風に焼けるかと思ってやってみたが、火加減が難しく、すぐ焦げ付いて上手くいかなかった。

 小麦粉と水だけでパンを焼いて、後からハチミツをかける方が失敗し難いようだ。

 肉や革もそうだが森で取れたものは、半分は自分用にして、残りの半分は売って他の物と交換するのが丁度良いというのが分かってきた。

 なので、燻製肉と一緒にハチミツも壺一個分を売りに行くことにする。

 その日もまた雨が降っていたが、新しく作った頭巾を被ればある程度雨は我慢できる。

 村に着いた時も雨は降っていた。

 何かの絵画のように村全体が雨に煙っている。

 ここの地方にも梅雨みたいなのが有るのだろうか?


 まず最初にお肉と小麦粉を交換するために、ジョージさんの家に寄る。

「こんにちは~」

 お宅のドアをノックする。

 雨が降っているから、多分みんな家にいるだろう。

 少し間があって、奥さんのサラさんが出てきた。

「おや、てんこちゃんかい。お肉と小麦粉の交換だね。いつも悪いわね、おかげで前より頻繁にお肉が食べられるわ」

 そう言うが、なんかサラさんの顔色が悪く見える。

 ごほごほと咳もしていた。

「大丈夫ですか?風邪ですか?」

 聞いてみる。

「そうなのよ、最近雨が続いてたから、どこからか入って来て村中に広まっちゃってね。三軒向こうのお爺さんなんか一昨日亡くなってしまってね」

 え?それってかなりヤバいんじゃ?

 玄関先で話していると、奥からジョナサン君がバタバタと走ってきた。

「母ちゃん!アンナが、アンナが・・・」

 血相を変えて、母親にしがみつく。

「ちょっと待っておくれ。そんな訳でてんこちゃん、小麦粉は納屋にあるから一袋持って行っておくれ。あんたまでうつらないうちに早く戻った方がいいよ」

 そう言って、深刻そうな顔をしながら家の奥へ戻っていこうとする。

 状況から察するに、アンナちゃんも風邪をひいていて、かなり病状が悪いようだ。

 どうしよう、言われた通りうつらないようにこのまま帰った方がいいのかな。

 それでも、この世界に来て初めて会った人達だ、出来ることが有るなら何とかしてあげたい。

「あ、あの、私が診てもいいですか?」

 私は、意を決して、声を掛けた。


 アンナちゃんは赤い顔でベッドに横たわり、苦しそうな息をしていた。

 ジョージさんも風邪でダウンしていて別の部屋で寝ているが、まだいくらかマシだという話だ。

 サラさんとジョナサン君もひいているが、動けないほどではないらしい。

 まずはアンナちゃんからだ。

 私が出来ることを考える。

 今ある私のスキルで使えそうなのは、治癒魔法レベル1と医術レベル1だけだ。

 二つの違いは、医術は魔法以外の薬の処方や怪我の場合の手当などを含むからだ。

 まず、医術でアンナちゃんを診察してみる。

『ごく普通の風邪ですね。容態はかなり悪いですが』

 脳内神様が答えた。

 それくらいは、私にも分かる。

 というか、スキルで私がそう判断したから、脳内神様が答えたのだろう。

『それで、対処法は?』

 声には出さず、脳内神様に聞く。

『栄養があるものを食べて安静にしているのが一番です』

 これまた、当たり前のことを答える。

 レベル1ならこんなものか。

 それでも、少し頭に来た。

『申し訳ありません。転生時にレベル1で所得した場合、レベル1分の知識しかインストールされていませんので、これ以上は答えようがありません』

 私のプチ怒りに反応したのか、そう答えてきた。

 ふう。

 脳内神様っていうか自分に怒ってもしょうがない。少し落ち着こう。

『治癒魔法は病気には効く?』

 別の方向から質問してみる。

『効きますが、この場合あまり意味がありません』

 どういうこと?

『治癒魔法によって、のどや肺の炎症を治癒することは出来ますが、炎症の元となっているウイルスを減らすことは出来ません。また低レベルの治癒魔法では患者の体力を使って治癒を行いますので、体力を消耗すると免疫が弱りウイルスを抑え込めなくなり、より悪化する可能性があります。高レベルの治癒魔法でしたら魔素を体力に変換することも出来るのですが』

『それはどれくらいのレベルで出来るの?』

『レベル5以上です』

 今更になって、治癒魔法をレベル1しか取らなかったことを後悔した。

 八方塞がりか。

 苦しそうに喘ぐアンナちゃんを見て、自分の無力さを噛み締める。

 いや、違う。

 脳内神様は医術と治癒魔法に関する持っている知識を言っただけだ。

 それをどう使うかは私しだいなんだ。

「サラさん、これをお湯に溶かして、アンナちゃんに飲ませてあげてください」

 リュックの中からハチミツの壺を出して、サラさんに渡す。

 体力その元は栄養だ。体力がないなら付けさせればいい。

 ハチミツはつまり糖分の塊。糖分は消化吸収されやすく、すぐにエネルギーに変換される。

 保健体育で習ったことが思い出される。

 サラさんがお湯の入ったマグカップを持って来て、それに大きめのスプーンで一杯分のハチミツを入れ、アンナちゃんに飲ませてあげる。

 少し咳込みながらも、全部飲んだ。

 少し待ってから、治癒魔法を使う。

治癒ヒール

 サラさんとジョナサン君が少し驚く。

「あら、あんた魔法も使えるのかい?」

 そう言えば、言ってなかったっけ?

「はい、ちょっとだけですけど」

 魔法を使うと、アンナちゃんの息が少し良くなった。

 レベル1だから一回で全部は良くならないけど、逆にそれが良かったみたいだ。治るのは少しだが、それで消耗する体力も少しだ。

 ハチミツを飲ませながら、何回かに分けて治癒魔法をかける。

 二時間もすると、アンナちゃんの熱は引き、苦しげだった呼吸もだいぶ良くなった。

 サラさんとジョナサン君から、すごく大げさに感謝された。

「ほんとにありがとね、ハチミツみたいな貴重なものを使わせてもらって。そうだ、小麦粉は二袋持っていきなさい」「姉ちゃん、アリガト」

「いえ、重いから二袋は無理です。えーと、また今度で。それよりも他の皆さんも風邪で具合悪そうなんで、ハチミツ湯を飲んで安静にしていてください」

 そう言えば、山菜のアサツキも解熱作用が有るって言ってたな。と言うか、ネギ系の野菜は大体そうか。

「あと、ネギとお肉をお鍋にして食べるといいですよ」

「そうだね、風邪にはネギが効くっていうものね」

 そう言うサラさんに見送られ、小麦粉を一袋抱えてお宅を後にした。


 自分にも風邪がうつったかもしれないから、あまりうろうろするのは良くないだろう。

 今日は雑貨屋には寄らず、このまま家に帰って温かいものを食べて寝よう。

 ふと、ジョージさん家から少し行った所で気付いた。

「あっ、ハーブ味噌の使い方聞くの忘れた」

 まだあれは半分以上残っているんだな。


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