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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
2章
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2-2


 次の日、リンゴの花の摘花をする。

 一か所に五・六個の花がかたまって咲いているので、その中の一番大きい花だけを残して、他を摘み取っていく。

 更に、花の塊三つか四つ毎に一つだけ残すようにする。

 また、短い枝の先に着いているものは残すが、長すぎる枝の先の物は取り除く。

 これくらい間引かないと、大きくておいしいリンゴは出来ないそうだ。

 その花の塊が木全体の枝先という枝先についているので、二本の木全部やるには丸一日かかるだろう。

 お爺ちゃん家には何十本、下手すると百本以上あったと思うから、大変だったろうなと思う。

 花を摘み始めて最初の内は良かったが、一時間もやると詰まらなくなって、止めたくなってくる。

 それでも我慢して作業をしていると、だんだん無我の境地に到達しそうになってきた。

 ふと、周りに小さな蜂が何匹か飛んでいるのに気付いた。

「ミツバチかな?」

 観察してみると、蜂は花から花へと飛び回り、雄しべと雌しべの根元に頭を突っ込んでは蜜を吸っているみたいだ。

「そうだ、どこかに蜂の巣が有って、ハチミツが取れるかも」

 そう考えて、もっとよく蜂を観察する。

 蜂は一種類ではなく、二種類いた。

 小さな蜂と少し大きな蜂がいる。

 小さい方は多分マメコバチと言われる奴か、それに似た蜂だろう。

 このタイプの蜂はカヤとかの中空になっている植物の茎の中に小さな巣を作り、蜜は集めず花粉だけを集める。

 お爺ちゃん家の畑で、切ったカヤを束にして箱に詰め込んだ物を畑の中に置いて、そこに巣を作った蜂に受粉作業をさせているのを見たことがある。

 なので、この蜂からハチミツは貰えない。

 それより少し大きめの蜂、これがミツバチだろう。

 何度か花にとまり蜜を吸った後、どの方向に飛んでいくのか観察する。

 どうやら、決まった方向へ飛んでいき、またそっちから同じ種類の蜂が飛んでくるのが分かった。

「よし、あっちの方に巣があるな」

 今すぐ行ってハチミツが欲しいが、採るための道具をどうするか考えないといけないだろう。

 考えなしに巣を壊したら、刺されるのは明白だ。

 なので今日は準備を考えながら、リンゴの摘花を続けよう。


 次の日は雨だった。

 なので、ハチミツ採りの準備をする。

 確か、煙で燻すと刺されないと言うのを聞いたことがある。

 後は、念のために全身を覆う防護服みたいなのが有るといいのだが、そんなのは流石に無い。

 神様製の服とマントはある程度分厚くて、そこそこの防御力は有るのでこれで体の大部分は大丈夫だろう。

 残りの露出している頭部と両手は、鹿革で帽子と手袋を作ることにした。

 型紙とかは無いので、自分の手とかを直接革に押し当てて型を取り、何となくで断裁する。

 断裁したら、荷物の中にあった革細工用の針と糸で縫い合わせていく。

 適当にやっているようで、革細工レベル2と器用さのプラス2補正で、結構いいものが出来た。

 帽子は首の後ろの方までカバーし、ついでに開閉式で口元まで覆えるようなほぼ頭巾みたいなのにした。

 出来た物を試しに装着してみる。

 鞣したての革はまだ固くゴワゴワしているが、使っていくうちに馴染んでくるだろう。


 その次の日も雨だった。

 ある程度小雨だったので、蜂の巣の場所を確認しに行く。

 蜂が飛んで行った方向に少し進むと、木の根元の洞に蜂の巣が有るのを見つけた。

 蜂がブンブン飛び回っているが、近づかなければ大丈夫そうだ。

 雨が降っていて、火を焚けそうにないので、今日は場所の確認だけで戻る。

 ついでに、森の中数か所に仕掛けておいた、鹿用と兎用の罠を確認してくる。

 熊と戦った時以来、罠を仕掛けて獲物を取った方が効率的だと分かったので、基本的に罠猟にシフトしている。

 今日の獲物は無しだった。

 それでも数日に一匹位はかかるので、食料には十分だ。


 また、次の日。

 ようやく雨が上がったので、準備をして蜂の巣のところへ行く。

 巣から少し離れたところに枯草や木の皮などを積み上げ火をつける。

 枯草は小屋の周り生えていたものを刈り取ったもので、まだ半乾き位なので燃やすと良く煙が出る。

 風魔法で煙を巣の方に流すようにして、しばらく待つ。

 少しすると、それまで飛び回っていた蜂たちが地面に落ちて、よたよたと酔っぱらったような動きになった。

 それでも、ひっくり返って死んでしまう程ではないようだ。

 恐る恐る巣に近づき短剣の先でつついてみるが、蜂は刺してこない。

 なので巣の表面を壊し、中身を取り出す。

 板状のハニカムの表面を短剣で削り、中のハチミツを持ってきた鍋に移す。

 持ち手が有るちょうどいい入れ物が鍋しかなかったからだ。

 ハニカム二枚で鍋の3分の1くらいのハチミツが取れた。

 三枚目を取り出そうとしたが、よく見るとそれはハチミツではなく幼虫が入っている巣のようだった。

 ちょっと考える。

 蜂の子って食べられるらしいけど、流石に躊躇する。

「ど、動物性たんぱく質は鹿とかで足りてるからいいか」

 幼虫はそのまま残すことにした。

 残しておけば、煙から復活した蜂たちが巣を修理して幼虫の世話をしたり、またハチミツを集めてくれるだろう。

 まだちょっとハチミツが入ったハニカムもあるようだが、蜂たちの為に残しておくことにする。

 巣から離れ、水魔法で焚火を消す。

 口元のマスクを外し、短剣の先に少しついたハチミツを舐めてみる。

 画ヅラ的に刃物を舐めるのは、ちょっとアレだが。

「甘いっ!」

 久しぶりの甘味に顔がほころんだ。

 

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