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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
2章
11/192

2-1

 革の鞣しと肉を燻製するのに数日かかった。

 革の鞣しは、良く洗って脂をこそぎ落とし、鞣し液に漬ける。

 その後、良く揉んだり引っ張ったりしながら乾燥させ、最後に油を塗りこんで完成する。

 鞣し液は神様から貰った荷物の中に原液が有ったので、それを水で薄めて使った。

 塗りこむ油は無かったので、前回村の雑貨屋で、ヒマワリ油を買ってきていた。

 燻製造りは、山小屋の脇にもともと燻製造り用の物置のような小さな小屋があり、その中で火を焚いて鹿と熊の肉を燻した。

 全部終わったら、私は革と燻製肉の一部を持ってもう一度、村に降りてきた。

 ジョージさんの家で、お肉を小麦粉と交換する。

 雑貨屋さんよりも小麦を作っている農家さんと直接取引した方が割がいい。

 そう教えてくれたのは、お人好しの雑貨屋さんのおばちゃんだった。

 次に、その雑貨屋さんに行く。

 物を売っているお店は村にここしかないらしく、小さな店だが一通りの品揃えがある。

 革を買い取ってもらい、逆に私が必要なものを買う。

 食料品は十分なので調味料と食用油。

 この間のハーブ入り味噌は失敗だったので、塩と乾燥させた唐辛子のようなスパイスにする。

 革鞣し用の薬品を今回で使い切ったので、追加で買った。

 狩人だったジムお爺さんが亡くなり、他の人も森で狩りをしなくなり需要が無くなっていたので、前回来た時は売っていなかった。

 なので、前回の時に注文しておいたのだ。

 もちろん初対面の客で信用とかないので、全額前払いだった。

 お人好しだが、そこら辺はちゃんとしている。

 他に鍬と野菜の種。

 山小屋の前に狭いけど畑にできそうなスペースが有るので、野菜作りもしてみようと思う。

 山菜は、採れる量が安定しないし、わざわざ森の中を歩き回らないといけないので、それなら自分で野菜を作る方が確実だろう。

 最後にノコギリを買った。

 代金は革を売った分とで差し引きゼロくらいになった。

 

 山小屋に戻り、次の日。

 私は、小屋の前を鍬で耕し、数種類の野菜の種を植える。

 雑貨屋のおばちゃんの話では、ナスとキュウリとカボチャ、トマトと唐辛子のような野菜が出来るらしい。

 『ような』と言うのは、おばちゃんの言う野菜の特徴からそう推理しただけだからだ。

 そう言えば、元の世界ではトマトと唐辛子はアメリカ大陸原産で、昔のヨーロッパには無かったという話を思い出した。

 この世界のここがヨーロッパ的な場所なのか分からないけど、なんとなくそんな疑問が浮かんだ。

 脳内神様の解説によると、この世界はそれなりに航海技術は発達していて遠くの大陸ともある程度交流があるそうだ。

 船の性能はそんなでもないらしいが、魔法が有るおかげで、風魔法で帆に風を当てたり、水魔法で真水を調達出来たりと、性能の足りなさを補っているらしい。

 そして、持ち込まれた有用な植物は人々の間で割と早く広まる。

 午前中掛けて、種植えまで終わった。

 苗ではなく種から育てるので生育は遅れるだろうけど、なんとか夏の終わりくらいまでには収穫できるといいな。


 お昼は、燻製肉とパンを食べた。

 パンは小麦粉を練ったものを油をひいた鍋で焼いて作った。

 無発酵なのでふわふわではないけど、肉中心になりがちな今の状況では、穀物すなわち炭水化物はムチャクチャ美味く感じる。

 流石に麦は山小屋の前の小さな畑では作れなさそうだ。

 あそこではちょっとした野菜を作って、穀物は狩った獲物の肉とかを売って、そのお金で買う方が効率的だろう。


 午後はノコギリを持って、山小屋の脇に生えている木の前に来た。

 ここの木、二本だけ花が咲いていた。

 花をようく観察する。

「やっぱりこの木、リンゴの木だ」

 東北のお爺ちゃん家の畑でよく見た木だった。

 ジョージさんにも確認しているから、間違いない。

 村にも何本か同じ花を付けている木があった。

 これで秋になればリンゴが食べれる。

「さて、剪定しよう」

 剪定とは無駄な枝を切り落とす作業だ。

 それにより、木全体に日光が当たるようになり、いいリンゴが出来るとお爺ちゃんは言っていた。

 本来、冬の間にやるのだが、遅れて春にやる人も居るそうだから、大丈夫だろう。

 数年放って置かれた木の枝はだいぶ伸び放題になっているので、今切っておくべきだ。

 しかし、果樹栽培レベル1のスキルでは、どの枝が要らない枝か、どの枝が残すべき枝かはよく分からない。

 お爺ちゃんによると、剪定はただ闇雲に枝を切ればいい訳ではなく、熟練の技術が要るそうだ。

 それでも私は適当に、それこそ闇雲に枝を切り始める。


 一度、お爺ちゃんの作業を見せてもらった時、お爺ちゃんはこう言っていた。

『木全体を見て、春から夏にかけて枝がどういう風に伸びていくか想像しながら切らなきゃいかん。木は生きているから、木の気持ちになって考えるのが大事なんだよ』

 小学生くらいだった私は言った。

『よく分かんない』

『ハハハ、そうだな。他の農家連中はワシの剪定を見てうまいうまい言うが実は大したことないんだよ。木は生きとるから適当に切っても自分で伸びたい方に伸びてくれる。第一、リンゴ農家の目的はリンゴの木を作ることじゃなくてリンゴの実を作ることなんだ。剪定で枝を切るのはその為の手段でしかない。目的のためには良い手段が必要だが、手段ばかり極めてもしようがあるまい』 

 そう言いながらも慣れた手つきで、次々と枝を切っていた。

 本当は訛りがひどくて聞き取れなかったのだが、後になって思い返してみるとそんな事を言っていたように思える。

 上のセリフは後々方言をある程度理解できるようになってから、自分なりに翻訳した版である。

 

 うろ覚えだがお爺ちゃんの切り方を思い出しながら、ノコギリで枝を切っていく。

 多分、間違った切り方をしているところもあるんだろうけど、構わず切る。

 目的は自分で食べる分のリンゴを作ることで売り物にするつもりはないからいいのだ。

 適当に切るだけでも、切らないで枝がモジャモジャの状態よりだいぶいいだろう。

 花の咲いている枝ごと切るのは勿体ない気もするが、後で摘花と言って、花を間引く作業があるのでどんどん切っていく。

 高い所は山小屋の脇に放置されていた脚立を持ってきてそれに登って作業をした。

 お爺ちゃんはもっと早くできたと思ったが、私は午後いっぱいをかけて剪定作業を終えた。

 切り落とした枝を薪にするのと、摘花作業は明日にしよう。


 夕食はパンと鹿のもつ鍋にした。

 内臓は病気や寄生虫がないか確認して、良く洗った後、塩漬けにしておいたので心配ない。

 味付けは塩と唐辛子にした。

 あのハーブ味噌はあまり使う気になれない。

 何か使い方が間違っているのだろうか?

「そうだ、今度行った時にサラさんに使い方聞いてみよう」

 もつ鍋はピリ辛で美味しかった。


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