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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
10章
101/193

10-6


 私達の馬車はそこそこの大きさの海辺の街に到着した。

 ここから東に行くとバリス公国の首都で、逆に西に行くとベルデン共和国と言う別の沿岸諸国に着くらしい。

 空にカモメなのかウミネコなのか海鳥が舞っている。

 今までずっと内陸の山と森と畑ばかり見てきた私達には、海から吹いてくる潮風が珍しい。

「いやあ、久しぶりだねえ、焼きそばとか食べたくなるね」

 港町の賑わいを見ながらユキがそう言う。

「焼きそばとかあんまり海関係なくない?」

 リーナがそう言う。

「アレだろ、海の家的な奴だろ。私は焼きトウモロコシがいいな。これもあんまり海と関係ないけど」

 同じく道の脇の露店とかを見ながら、カレンが言った。

「この先まともな宿屋がある街は少し遠いんだ。夕方までには着きたいから、あんまり見て回る余裕はないぞ」

 昼食を取った食堂から出て来たキハラがそう言った。

 昼頃に到着した私達は今、食後の散歩がてら徒歩で街を見て回っている。

「え~?久しぶりの海だよ、何度か来たことがあるキハラと違って、私達はこっちの世界に来てから初なんだから、少しくらいゆっくりしても良いじゃないか?」

 ユキが口を尖らせる。

「うーん、そうすると今日中に次の宿に着けなくて馬車で寝る事になるぞ?それか、今日はいっそこの街に泊まるか?」

 キハラがそう聞いてくる。

「そうだなあ、まだ日程に余裕はあるから、今日はこのままこの街を見て回るのもいいかな?」

 私がそう言う。

「しょうがねえな、それじゃ、俺は先に宿を押さえてくるか」

「あ、宜しく。それじゃあ、夕方頃にさっきの食堂の前に集合という事で・・・」

 キハラに宿の手配を頼んで、後は自由行動という事にする。

「やった、港の方見に行こう!」

「私の道具で海釣りは難しいかな?」

「魚が食べたければ、その辺の露店で幾らでも売ってるだろう?」

「自分で釣るのが楽しいんだよ」

 そう言いながらみんな海辺の方へ歩き出す。

 私はどうしようか?

 近くの露店を見て回るのも楽しそうだ。

 魚介類もそうだが、海の向こうから運ばれてきた香辛料なども売っている。

 私は露店を物色し始めた。

 ふと、背負い籠一つを地面に置いて何かを売っている人を見つけた。

 籠の中を見て見ると、大きな蟹が数匹入っている。

「いらっしゃい」

 若い女の漁師さん風の人がぶっきらぼうに声を掛けてきた。

 ん?

 何か違和感を感じる。

 暗い雰囲気で地面を見ているので顔は分からない。

 今までに見てきた内陸部の人と風体が違うのは当たり前だが、この街の他の人達と服装は大きく違わない。

 それでも、何か違和感と言うか、私達転生者にしか分からない親近感のようなものを感じる。

「ええと、もしかして、地球の日本から来た人ですか?」

 私は、座っているその人の前にしゃがみ込んで、小声で聞いた。

 その言葉に、女の人がハッとして私の顔を見上げる。

 その顔には何となく見覚えが有る様に思える。

 こっちの人達と同じ格好で随分日焼けしているので、ちょっと見には現地人の様にも見える。

 向こうも、私の顔を見て何かを思い出そうとしている様な表情をする。

 やっぱり私の顔は元クラスメイト達の記憶にあんまり残っていないみたいだ。

 ユキ以外にこれと言った友達が居なかったのだから仕方ない。

 なら、交友関係が広かった人達に聞くのが良いだろう。

「リーナ、カレン、ユキ、ちょっと来て!」

 私は港の方に歩いて行こうとしていたみんなを呼び止める。

「え?なに?」

 三人が振り返る。

 ついでに反対方向に行こうとしていたキハラも立ち止まった。

「リーナ!カレン!」

 地面に座っていた彼女が二人の名前を聞いて立ち上がる。

「「モモ!」」

 彼女の顔を見て、リーナとカレンも大声を上げた。


 海沿いの道を馬車が進んで行く。

 結局、私達は街には泊らずもう少し先に進むことにした。

 馬車の中には私達の他に新しい乗客が一人乗っている。

 桃山梓。

 あだ名は『モモ』、私達と同じ転生者で、リーナとカレンの顔見知りだった。

 再会後、それぞれお互いのこれまでの事を話し合った。

 私達の話は喋っていく内に、キハラに話した一部嘘の話と食い違って行ってしまうが、もう面倒なので、ある程度本当の事を話すことにした。

 ベルドナ王国のアルマヴァルト領に住んでいて、訳有ってワーリン王国まで行こうとしているところまで話す。

 キハラには後で謝って、事情の説明と口止めをしよう。

 彼女の話の方は、簡単だった。

 この先に在る漁村の近くに転生してきた彼女はそこで漁師をして暮らしているそうだ。

 捕れた魚介類をさっきの街とかで売り、小麦など他の物と交換しているらしい。

 山と海、獣肉と魚介の違いはあるが、以前の私の生活と同じような感じだ。

 彼女の住んでいる村はさっきの街より首都に近い方に在るので、私達はそこの彼女の家に泊めて貰う事になって、今移動している所だ。

「いやあ、なんか丁度良い感じで助かったわ」

 カレンがそう言う。

「でも良いの、港町の観光する予定だったんじゃない?」

 モモが聞く。

「良いの良いの、久しぶりに会った友達の方が大事だし」

「モモの所も漁村でしょ、私達は海をじっくり見たいだけだから、そっちでも良いよ」

 リーナとユキがそう言う。

「それじゃあ、たっぷり海の幸を食べさせてあげるわ」

 モモは背負い籠に入った大ぶりの蟹を見せてそう言う。

 彼女は商売を切り上げて、私達に付いて来ている。

「あ、もちろん蟹とかの代金は払うよ。旅費はたっぷり有るからね」

 リーナがそう言う。

「うん、そうしてくれると助かるわ」

 モモがそう答える。

 ふと、その表情が少し曇っているのに私は気付いた。


 夕方頃、着いた村は小さな漁村だった。

 家の数は私達の村の半分くらいだろうか。

 それにしては、外を歩いている人影が少ない気がする。

 漁村と言っても、海のすぐそばに家が建っている訳ではなく、海から少し離れた所に在る。

 そして、村の周りを囲むように塀が張り巡らされていた。

「ここだよ」

 モモが案内してくれた家は少し薄汚れているがそこそこ大きかった。

 家の前に馬車を停め、私達は降りてくる。

「へえ、割と広そうじゃん。ここに一人暮らし?」

 カレンがそう聞く。

「そうだよ、余ってた家を使わせてもらってる。広すぎて掃除が間に合わないんだけど」

 モモがそう答える。

 その時、隣の家の扉が開き人影が出て来た。

「モモ姉、帰って来たの?」

 元の世界での小学校高学年か中一くらいの男の子だった。

「ああ、アーサー、友達に会ってね、途中で戻って来た」

 モモが答える。

 アーサーと呼ばれた少年は私達の方を見る。

 ほぼ女子の集団の私達に少し気後れした感じだったが、キハラを見て険のある表情をする。

「おや、お隣さんに年下の男の子ですか?」

「『モモ姉』とか呼ばれてるよ」

「オネショタ?オネショタ?」

 リーナ達がヒソヒソ話を始める。

 モモが彼女達を睨んだ。

「蟹、売れなかったんだ・・・」

 少年はモモの持っている籠を見て少し残念そうに言った。

「いや、友達たちに食べてもらおうと思ってね、代金は貰ったよ。これはアーサーの家の分だ」

 少年の家で捕った分の蟹も一緒に売りに行っていたらしい、彼に蟹の代金を渡す。

「え?こんなに?」

 渡されたコインを見て少年が驚く。

「ああ、少しばかり高く買ってもらった」

 私達は相場より少し多く払っていた。

「有難うございます」

 アーサー少年が私達に礼を言って、自分の家に入って行った。

「さあ、取り敢えず中に入ろうか」

 モモが私達を家の中に招待する。


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