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春日部てんこの異世界器用貧乏  作者: O.K.Applefield
プロローグ
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プロローグ1

プロローグ 1


 気が付くと、教室にいた。

 私が高校に入学して一ヶ月くらい、まだ見慣れたとまでは言えない教室。

 いや、それにしても何かおかしい。

 なんとなく教室だとは分かるのだが、細かいディテールが判然としない。

 黒板に書かれた日直の名前が読めない。

 壁に貼られたプリントの文字も、黒板の上の時計の針も分からない。

 中学3年のころから悪化した視力がまた更に下がったのかとも思ったが、そうでもないようだ。

 文字や物の形ははっきり見えているのに、脳がその意味を理解することを拒否しているような感じ。

 まるで夢の中にいるような。

 周りを見ると、クラスメイト達がそれぞれの席に座っている。

 三十数人分の席は全て埋まっていた。

 たぶん自分も同じような顔をしている思うのだが、全員、今の状況が呑み込めていないような、呆然とした顔をしている。

 その顔もちゃんと見えるのだが、誰の顔なのか判断が付かない。

 自分がコミュ障ぎみなのもあって、まだクラス内に友達も少ししか出来ていないのもあるが、それにしても隣の席の人の顔も分からないのは異常だ。

 なんとなくクラスメイトの誰かなのは分かるのだが、名前が出てこない。

 他のみんなも同じように、誰が誰か分からないからなのか、いつもかたまって騒いでいる女子グループ男子グループも騒ぎ出さない。

 皆が皆、状況を計りかねて、黙ってそれぞれの席に座っていると、教室の扉が開いた。


 その人物は教室の扉を開けると、カツカツと足音を響かせ教卓の前まで歩いてきた。

 女教師風に見えるが、それにしては若すぎるような気がする。

 それ以前に自分たちの担任は男性だったように思うが、中年太りの彼ではない。

 また、記憶の中にあるどの女性教諭とも違う。

 人の顔が判別出来ない今の状況だが、それだけは何故かはっきりと分かった。

 その『女教師』は教卓に手を付くと、深々と頭を下げた。

「申し訳ありません、皆さんに残念なお知らせがあります」

 よく通る声でそう言った。

 その沈痛な声と表情に、私はイヤーな予感がしたのだ。


 『女教師』のその声に、今までぼーっとしていた生徒たちがようやくざわめき始める。

 『女教師』は顔を上げると、続けて喋った。

「先ず私の自己紹介をしましょう。えー、何と言いますか私はあなた方の知る概念で言うところの『神のようなもの』です」

 生徒たちのざわざわが増す。

「『ようなもの』というのはつまり、『神』という存在の定義に各個人・各宗教間でブレがあるわけで、もっと言ってしまうと『私』というか『我々』の存在はどの宗教の神にも正確には当てはまらず・・・」

 色々と難しいことを言い始めた。

 しかし、なんとなく私は分かってしまった。

 教室のようでそうではない夢の中のような空間で、神様っぽい人が出て来て説明する。

 アニメやラノベでよく見るやつだ。

 そう、『異世界転生』とか『異世界転移』とかいうやつだ。

 他の生徒もそう思ったのか、前のほうの席の一人が律儀に手を挙げて聞いた。

「あの~、もしかして僕ら何かの事故で死んでしまって、これから異世界に転生するんですか?」

 その質問に、自称神様っぽい女教師、いや女教師っぽい神様は絶句する。

「な、なんで分かるんですか!?」

 クラスメイト達はみんな微妙な顔をした。

「なんでって言われても・・・」


 ようやく思い出してきた。

 確か今日は学校の遠足の日だったはずだ。

 飛び石連休だったゴールデンウィークの間の平日を授業をするのもかったるいんでって感じで、学校側がついでに新しいクラスメイトとの親睦でも深めなさいみたいな余計なお世話で企画したレクリエーション遠足。

 ちょっとした郊外のキャンプ場で、自炊で昼食を作って食べる予定だった。

 目的地の駐車場に1組の私たちのバスだけが先に着いたんだけど、着いた途端、結構な雨が降ってきて先生は施設の管理人と打ち合わせに出て行った。

 また、バスの運転手さんはトイレに行きたかったらしく、他に行きたい人がいたら行ってもいいからと乗降口のドアを開けてこれまた出て行った。

 しかし生徒たちに尿意が近かった人はいなかったらしく、また雨が降っていたので皆バスの中で待っていることになった。

 私はぼんやりと窓の外を見ていたのだが、その時、急に雨雲を割って赤い光が天から降ってきた。

 そして轟音。

 そこで私の記憶は途切れている。


「つまりですね、地球外から落下してきたそれなりに大きな隕石が皆さんの乗っていたバスに直撃した訳なんです」

 女教師な神様はそう説明した。

「あまり無い事象ではありますが、確率的にゼロでは無いわけでして、これが本来予定された事象であれば、皆さんを異世界に転生させる事はないのですが、実は今回の件は我々の不手際でして」

「どういう事ですか?」

 誰かが聞く。

「えーとですね、我々『神』便宜的に『神』と呼びますが、『神』業界では最近『働き方改革』が推し進められておりまして、定期的な休暇を取るようになっているんですね、それで、あなた方の世界の『神』は現在長期休暇を取っていまして、その間は別の世界の『神』が持ち回りであなた方の世界の管理を行うことになっていたんですが、前任者から私に代わるときに引き継ぎのミスがあったようでして、あの時本来なら雨は降っていないかもっと小雨のはずで、皆さんはバスを降りていて、隕石は無人のバスだけに当たる予定だったのです」

 いや、それでも結構な大惨事じゃない?

 そんな事になったら私たち死ななかったとしても、そこそこ大きなクレーターが出来るし、遠足は中止だろうし、うちに帰ろうにもバスが木っ端微塵で帰れないしで大変・・・

 ああ、でも実際は死んじゃってるから、そんなこと考えるのも無駄か。

 なんだろ、自分が死んだって聞かされているのに、なんか私冷静だな。

「で、これは私というか、私と前任者の、いえ、ちゃんと引き継ぎ項目を伝えなかった前任者!のミスなので、今回に限り特例として皆さんは私が本来管理している世界に転生して頂くことになりました。イレギュラーな事象なので皆さんの世界では転生先がすぐには用意できないので、そのようになります。これは休暇中の皆さんの世界の『神』にも連絡を取って了承してもらっています。ここまではよろしいでしょうか?」

 そこまで神様が話すと、クラスの半分くらいが喜びの声をあげだした。

「異世界転生キター!!」「漫画の中だけだと思ってたけど、ほんとにあるんだ!!」「チート無双!チート無双!」

 でも他の半分(私を含む)は騒がずに困惑したような顔をしている。

 そうだ、やっぱりおかしい。

 自分が死んだという事よりも異世界に行けることを喜んでいる人たちと、そうでないにしても元の世界に戻れなくなったことを悲しんで泣き出す人がいないこと。

 これはあれだ、この異常事態にパニックにならないように私たちの感情がコントロールされていると見るべきだろう。

 『神様みたいな人』ならそれくらい出来るだろう。

 そしてもう一つ懸念がある。

 感情をコントロール出来るなら、今考えているこの思考も本来の自分のものではなくコントロールされたものではないのか?

 ・・・どうだろう?分からない。

 思考をコントロール出来るなら、そういう疑問自体出てこないはずだから大丈夫だとは思うが、何せ相手は『神様?』だからね。

 そんな思考のループに私が嵌っていると、『神様?』は騒いでいる生徒たちに静まるようにいった。

「チョット、チョット待ってください。確かに異世界転生はしてもらいますが、皆さんがたぶん想像している異世界転生とは少し違うと思うので、最後まで聞いてください」

 その慌てぶりから、私は思考のコントロールに関しては心配いらないように思えてきた。

 完全にこちらをコントロールしているなら、こうはならないだろう。

 たぶん、最初に考えたように、私たちがパニックを起こさないよう、感情がマイナスに振れるのだけを制御している感じだ。

 ヨシ、私は大丈夫だ。物事をちゃんと考えられている。

 そんな私の思考とは別に、『神様?』は説明を続ける。

「えーとですね、まず、転生と言いましたが、赤ちゃんからやり直すわけではありません。私の管理する世界でも各人の輪廻転生する順番は決まっていますので、いきなり皆さんを割り込ませる余裕はありません。なので、私のほうの世界で新しい身体を作って皆さんの魂をインストールします。これまでの皆さんの身体は・・・何と言いますか、隕石の直撃を受けていますので・・・まあ、お察しください」

 ああ、そうか、あんまり考えたくない事にはなってるだろうな。

 一瞬のことで、痛みとか覚えてないのは不幸中の幸いか。

「皆さんのそのままの身体で異世界に移動するわけではありませんので、転移ではなく、一応転生の範疇になります」

 まあ、そこら辺の言葉の定義とかはどうでもいい。

「新しい身体ですが、これまでの皆さんの身体的特徴をなるべく反映しながら、障害・病気などは取り除き、こちらの世界に適応したものになります。また、言語・一般常識などもこちらの世界で通用するものを獲得できます」

 全く違う自分になるわけではないようだが、ちょっと残念かもしれない。

 どうせなら、アニメの主人公みたいな美形になってみたい気もするが、うーん、それはそれでなんか嫌かも。

「あと、こちらの世界には魔法というものがありますが、ある程度の魔法の素養と、その他生活に困らない程度の技能スキルと、そのために必要な道具アイテム、それと当座に必要な通貨を差し上げます」

 おお、やっぱりあるんだ魔法!

「そして転生先ですが、とある大陸の沿岸部からやや内陸。気候は皆さんがいた地域よりもやや寒冷な地方。文明レベルはこちらの世界では最先端レベルですが、そちらと比べると中世から近世レベルになります。機械文明は発達していませんが、代わりに魔法が有りますので、衛生面などで我慢できないほどではないでしょう」

 中世ファンタジー風世界?

 実際の中世ヨーロッパって、かなり不潔だったって聞くけど、ある程度衛生的ならアリかな?

 生活できるスキルが有って、お金もくれるっていうし、何とかやって行けそうだ。

 感情が楽観的な方に制御されているのもあるが、論理的に考えて大丈夫だって気がしてくる。

 この『神様?』が私たちを騙していなければだけど・・・

 よく考えれば騙すメリットはないし、死んじゃった人間にわざわざ説明してくれてる所からして信用できる気がする。

「と、大体こんな感じになりますが、細かい点に関しては一般常識として皆さんの頭にインストールされますので、後ほどそちらを参照してください。では、そろそろ転生してしまいましょうか?」

 そう言って、『神様?』は右手を挙げようとした。

 その手には光の塊のようなものが握られている。

 ヨシ!多少不安はあるけど、頑張っていこう!

 そう私は思ったのだが、

「ちょっと待ったー!」

 他の生徒たちが声を挙げる。

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